ほんとうに不思議な現象・・よくできた器械仕掛けのようです
劇場の舞台装置は、回り舞台・セリ、花道、などがあります。役者や舞台装置を舞台の下から上へ「セリ上げる」装置を、総称して大ゼリといっています。花道の中にもセリがありますが、これはスッポンと呼んでいます。
アザミの花粉噴出の仕組みは、舞台装置のセリやスッポンによく似ています。アザミの花は筒状になっている花の集合体です。見た目にもはっきりとわかります。この細い筒状の中から花粉が噴出してくるのです。
昆虫がアザミの花にやってきました。非常に軽い体重が花の先に感触として伝わります。するとアザミは昆虫がやってきたことを察知して、筒状の中に貯まっていた花粉を押し分けて「雌しべ」が長く伸びてきます。
このとき雌しべの先には花粉が沢山ついているのですから「ウットー」驚嘆の声が出ない方がおかしいくらいです。このような花粉放出は、キク科植物でも見られるのですが、観察するにはアザミが最適です。
1.アザミはキク科植物です 要点は・・ #
キク科植物は南極大陸以外の各地に分布。種子植物の中で最大の種の集まりです。キク科の90%は多年草で、約7%が一年草、約3%は木本です。
生育環境は海岸から高山までの広い範囲に生えていますが、日当たりの悪い林の中よりも、日当たりのよい所に多く、このことはキク科の多くが乾燥に耐えて進化してきた結果なのです。
キク科は1100~1200属に分けられる大所帯です。そこで近似値的に細分した分類に2亜科13連が知られています。アザミはキク亜科アザミ連の一員なのです。
*アザミの特徴は
ア)アザミ属は多年草と二年草があります。赤色の美しい花が大半ですが、他にも白色や青紫色の花もあります。
イ)キク科の多くの花は、筒状花と舌状花で頭花をつくりあげていますが、アザミは筒状花のみです。一本の雌しべを合着した雄しべが筒状になって囲んでいます。
ウ)葉にはトゲがあります。たいていの人はこのトゲに触れて、一度はイタィーと声を発した経験をお持ちのことだと思います。なぜトゲがあるかは、以前にまとめた資料の中で「自己防衛のため」の定説とともに、原因の研究が続いているのです。
エ)日本には60種以上あると言われていますが、ノアザミ・ヤナギアザミなどの4種以外の56種ほどが自前なのです。植生の分布からすれば驚異的な自生の適地です。
オ)アザミの種類を見分けるポイントも特徴の一つです。
根元の根性葉が花が咲く時期には枯れるか、繁っているか。 → 枯れる・モリアザミ
頭花の大きさと咲く向きを観察する。 → 下向きに咲く・ツクシアザミ・キセルアザミ
総包片は張り出し型か、瓦葺きのように重なっているか。 → ノアザミ・ヒメアザミ
総包が粘るかどうか。粘るのは腺体という細長い分泌組織があるから。 → ノアザミ
カ)帆柱山系に自生するアザミは、多くはノアザミで春から開花。ツクシアザミの花期は9~10月、他のアザミは夏から秋に開花。県下に自生する種類は別表を参照ください。
1.アザミはキク科植物です 要点は・・ #
ア)アザミの筒状花は、雄しべは5本、その葯は合生して円筒(葯筒という)となる。雌しべの花柱はその中を抜け出して先は2裂する。(*参考図は野草図鑑D・長田武正著から一部抜粋)
イ)筒状花の先を静かに触ってみると、たちまち白い花粉が噴出した様子を写真にゲットしたのが上の写真です。 このような観察を先生の言葉を借りると次のとおりです。
「手のひらの刺激で花糸が運動をおこし、弓形に曲がるので葯の筒が下方に引き込まれ、その結果、雌しべが花粉を押し出すのです。そして花粉は昆虫によって運ばれます。」
ウ)キク科のほとんどが虫媒花です。写真の中に現れているように花粉が付着していない筒状花もあります。、花柱が外に長く伸び出していて、雌しべが受粉の態勢にあるのです。
エ)アザミの花は自家不和合性の機能を持っています。最初の頃の雌しべは花粉を押し出す働きをしますが、次の段階では、余所からの花粉をキャッチする態勢の準備をします。
こんなに小さな花ですが、虫媒花としての巧妙な仕掛けを身につけた機能に感激するばかりです。このような進化の結晶にもと、生物界は互いに共生の関係にあるのです。
(文責・田代誠一)
【 参考文献:
★植物の世界・門田裕一著・朝日新聞社発行 ★九州の花図鑑・益田 聖著・海鳥社発行
★九州の野の花・佐藤武之著・西日本新聞社発行 ★野草図鑑・長田武正著・保育社発行