紅葉は札幌から鹿児島までを約40日で南下します
帆柱山系の森林は暖温帯に位置することからタブノキ、ツバキ、ヤブニッケイなどの常緑樹が多いのですが、海抜550mに位置する国民宿舎の近くの北西斜面は、冬季の厳しい環境から落葉性樹種のイヌシデが住み分けているのです。秋がしだいに深まる頃には、この現象がはっきり観察できます。植物が自然環境に順応していくたくましい姿を見ることができます。
桜前線は北上、紅葉前線は南下してきますが、帆柱山系では11月中旬頃が適期です。帆柱山系で春季の花木系樹種はツバキとサクラが代表樹種、次は初夏に咲くミズキ類です。
秋季はやはりカエデ類の色づきが期待されます。全山至るところで「紅葉・黄葉」を見ることができますが、今回は花木類と優劣つけがたいモミジとカエデのいろいろをまとめてみました。
1.カエデ科・カエデ属の分類について #
カエデ科は全て木本。カエデ属とキンセンセキ属(中国に2種のみ)の2属。世界に約150種、日本には面積がせまいわりに26種が自生しています。形態的に変異性に富む。
(A) カエデ属の特徴は、葉は対生、果実が2つの翼をもつこと、掌状脈のよに葉が裂開するとはかぎらないのです。メグスリノキ・ミツデカエデは3小葉からなる複葉、チドリノキは長い楕円形で鋸歯縁で切れ込みは無い。ウリハダカエデは浅く3~5裂、フウは掌状の葉をもつがマンサク科です。
(B) 花は一般に小さく、直径数十ミリ程度で1個ずつは目立たない。基本的には両生花(機能的には雌花のみが活動する)と雄花があります。ウリハダカエデは両生花をつける雌の木と雄花だけの雄の木との雌雄異株。イタヤカエデ類は雌雄同株、ミツデカエデは雌雄異株。
(C) 日本語の漢字は「楓」、中国の漢名は「槭」、楓はマンサク科のフウです。北米産のモミジバフウの葉は、モミジ形で紅葉しますが、葉は互生、果実は球形で集合果。
(D) カエデとモミジは植物分類学上は同じ意味に用いています。和名に「イロハモミジ・ヤマモミジ」とモミジの名のつく種類には、葉縁が鋭く深裂したものが多いようです。
(E) カエデの名の付くウリハダカエデ・イタヤカエデなどの種類は、分裂の浅いものや楕円形のものが多いともいわれています。
(F) メイプルシロップはサトウカエデから採取。早春の芽吹き前から3月頃が採取時期。原住民は樹液に熱した石を入れて煮詰め、シロップを製造。糖度は木にもよるが2%程度。
2.モミジとカエデの語源についての諸説 #
(A) カエデのことをモミジともいいますが、本来は別の意味があります。モミジの漢字は紅葉、黄葉を当てるように、本来は秋に草木が変色することを意味する「もみづ」が名詞化したもの。
(B) 万葉集では「秋山の 木の葉をみては 黄葉をば ・・・」と歌われているように、山の木の葉が秋になって黄色に色づくさまを広く「もみじ」といったものです。
(C) もみづは、紅花をもんで赤い色を出すのを揉出(もみづ)といい、これからモミジになったとの説。赤く染めた絹を「紅絹(もみ)」ということも同じです。
(D) 一方、アカガエルの古名を「もみ」といい、もみの手に似ていることから「もみで」、さらに転じてモミヂになったとの説。ちょっと無理なこじつけのようです。
(E) 謡曲に「紅葉狩」という演目があります。室町時代の観世小次郎の作ですが、古い時代から使われていた言葉です。
3.赤色・黄色・褐色に変色するわけ #
(A) 葉が7裂することからイロハモミジという説。紅葉の現象は「クリサンテミン」という紅色色素が生成されるからで、ツツジ科、ウルシ科、ニシキギ科などの紅葉も同じ現象。
(B) イチョウやダンコウバイが黄色に染まるのは、葉緑素が分解して前から含まれていた黄色の「カロチノイド」の色が表に現れてきたためです。
(C) クヌギやブナ、ケヤキが褐色に変色するのは、赤褐色の「フロバフェン」という物質がつくられるからです。
(D) 外国産の高木で色づく木は、トウカエデ・ポプラ・プラタナス・フウ・マロニエ等です。街路樹として各地の道路沿いに植えられています。
4.皿倉山のカエデ属の仲間 #
古来から秋に美しく紅葉するイロハモミジは、観賞の対象となり、絵画に描かれ、歌に詠まれてきた主役の樹種です。役割からして日本の最も代表的なカエデなのです。
(A) 京都のカエデの名所、高雄にちなんでタカオカエデとも呼んでいます。地元の皿倉山も知られていない紅葉の名所が点在しています。森林浴を兼ねてぜひ訪ねてください。
(B) 北九州の当山にもイロハカエデの多くが自生しています。樹齢約300年の巖楓(いわかえで)の老木は一見の価値があります。場所は表登山車道の6合目付近です。
(C) このあたりは楓杉峡(ふうせんきょう)と名付けられた紅葉のポイントです。早いものでは11月初旬から色づき初めます。権現山登山道のカエデの並木も観賞ルートに入ります。
(D) オオモミジはイロハに次いで庭園や公園などで植えられていますが、当山での自生は大変少ないのです。8合目の皿倉平に1本あります。イロハと対比してみてください。
(E) 帆柱森林植物園内のサクラ広場の周辺には、イロハモミジの中高木が生えており、秋の紅葉季が待たれる場所です。このあたりはカエデの多区域です。
(F) さらに隣接の「カエデの森」では、園芸用の紅枝垂れ、フラミンゴなど各種のカエデ類を楽しめる一つの区域です。さて、今年の色づきはどのような展開になるのでしょうか。
【参考資料】
・ 樹木社会学 渡辺定元著/東京大学出版会
・ 九州の花図鑑 益村聖著/海鳥社
・ 植物の世界 緒方健著/朝日新聞社
・ Newton第3号植物の世界 酒井聡樹監修