クズやヤブガラシの旺盛な繁殖力にはほどほど困ってます
つる性植物のクズやヤブガラシは身近な路傍や草地に普通に生えています。いったん侵出して蔓延って(はびこって)しまうと、今度は壊滅するのに大変厄介な植物なのです。
クズの根茎は強靱な繁殖力のチャンピオンみたいであり、ヤブガラシの地下茎は切れっ端であっても油断大敵、とても取り除けるものではないし、ドクダミの地下茎と同じくらいしぶといから始末が悪いのです。
地球上に遅れて出現した「つる性植物」は、人間から見れば悪役の代表みたいですが、彼らなりに必死に生存競争を戦っているのであって、悪者扱いは迷惑千万とは先方の言い分。
裸子植物や被子植物の木本、草本類が繁栄している中に、如何にして進出をはかるかが「つる性植物」の宿命であり、進化の中にその軌跡を見ることができます。
1.生活戦略を高度に発展させた「つる性植物」 #
今から約6500万年前、古生代から新生代に生物界の大変遷が見られる頃、被子植物が繁栄する中に裸子植物の生き残りや草本類が地球上を被っていました。
そんな中に、新たな生活様式をもつ「つる性植物」が出現。侵出する上で残された土地は、先駆者が嫌った僅かな空間でしか生き延びる道はなかったのです。
そこで取り入れた画期的方法は、先駆者の裸子・被子植物が肥大成長や上長成長を繰り返すことで相当の時間を要したのに反して、茎を速く遠くまで伸ばすことに勢力を集中。
つる性植物はこのような丈夫な茎や幹を作ることの投資を極力抑えて、しかも自力では立てないツルは、先駆者を利用することで生活体系を組み立て、他物の生死に係わらず自己中心型の生活戦略を高度に発展させた植物であるといえます。
より速く成長しないことには太陽光が求められないし、また遠くまで伸びないことには空間が得られないなど、遅れて出現した分の生存競争には素早い動きが見られます。
もう一つの特技は、長く伸びたつるの間を水分や養分を通道するために太い道管やし管を備えていることです。多くの細い管を持つ裸子植物や被子植物とは大きな違いです。
つる性植物は、細長い茎をもっていてそれ自体では 茎を地上に立たせておけないので、寄りかかり型(ヒヨドリジョウゴ)・巻きつき型(フジ)・鈎かけ型(カギカズラ)・巻きひげ型(サルトリイバラ)・付着型(キズタ)などの戦略をもって他物をよじ登り、葉を展開して光合成をし、花を咲かせて子孫を残すタイプの特異な植物なのです。
以上のようにいろんなタイプのつる性植物が繁茂している中から、代表的なクズカズラとヤブガラシに焦点を絞り、悪玉か善玉かを探究したいと思います。
2.クズは屑ではありません。こんなにも有用なのです #
ア:つる植物の王者・・最後に生き残る植物といえば・・ #
林業家や道路管理者、電気通信業、鉄道管理者などから迷惑がられている「クズ」は、巻きつき型のつる植物としてギャングの異名を誇っています。
日本生まれのクズは、鉄道敷法面の保護のためアメリカに移出した経緯があります。当初は効果があったものの、傍若無人の振る舞いに今では迷惑がられている植物です。
クズが蔓延る(はびこる)手法は、垂直方向に伸びようとする「ツタカズラ」とちがい、水平方向を得意としています。地面に接する数カ所に根をおろしてイモ(塊茎)を太らし、連続する茎に水分や養分の補給をおこなう基地の役割を担っています。途中で茎が切断されるようなことがあっても、決して全株が死滅することにはならないのです。
驚異的な強靱さや繁殖力は、地球上で最後まで生き残れる植物の一つだとする評価は正しいのかもしれません?
イ:1300年前は観賞用として万葉集に登場 #
現存する最古の歌集「万葉集」には、約4500首の歌が集録されています。大半を占めるのは約4000首の短歌ですが、その中には約150種の植物が詠まれています。
山上憶良(660~733)が選んだ秋の花の七種は、観賞用を主体にしたものであり、春の七草は七草粥の材料として生活習慣にとけ込んでおり、春と秋の対照的な草花です。
「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花」・・
「萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝顔の花」・・ 秋の七種
「セリ ナズナ ゴギョウ ハコベラ ホトケノザ スズナ スズシロ」・・ 春の七草
奈良平安の昔、山上憶良が秋の野の代表花に「クズの花」を掲げたことから、永遠と今日までの間、歌い続けられていることに、歴史の重さを感じるものがあります。
ウ:昔から食用・薬用に有用 #
雑草として悪名高いクズですが、かっては有用植物として人間生活になくてはならない存在でした。
葛切りや葛餅、葛湯の材料となる葛粉、風邪薬の葛根湯などの原料として、また、別途の利用方法としては、クズの繊維を取り出して葛布を織るのに使われたり、農作業の場では縄の代用としてクズを使っていたのです。
クズの呼び名の由来は、大和は奈良県吉野地方の「国栖」にその起源を求める説が有力です。国栖地方では古くからクズカズラから葛粉を製造し、食用とする風習が残っています。
葛粉は大和国吉野の産が上等品とされ、吉野葛は有名です。筑豊地方の嘉穂郡筑穂町内野は長崎街道の宿場町の跡ですが、昔から内野葛の産地でもあり、昭和の40年頃まで度々買い求めた商店は今はありません。茜色の発祥地の茜屋は近隣の三郡山の麓です。
エ:花の香りに魅せられてやってくる昆虫 #
クズはマメ科植物です。放射相称花をつけるネムノキ科や蝶形花をつけるマメ科は、旗弁が内側にあるジャケツイバラ科から進化したと考えられています。
クズは7~9月に甘い香りの大型の蝶形花をつけます。果実は細長い楕円形で、長い褐色毛におおわれています。8月頃田舎に住んでいると、開花の時の香りが漂ってきます。
この甘い香りに誘われてチヨウが蜜を吸うために飛来しますが、夜の訪問者は蛾類です。コミスジやウラギンシジミの幼虫はクズの葉を食べて成長することから、クズとの共生として役立っています。クサギは葉が臭いことから命名されていますが、花の香りは葛花と甲乙付けがたいほどいい香りがします。
3.ヤブガラシはどんな有益性があるのでしょうか・・? #
ヤブガラシは人家の近くのどこでも見られますが、手入れの行き届かない庭や林の藪を枯らすほど猛威を振るうツルであることから「藪枯(やぶがらし)」といい、別名貧乏葛とも呼ばれています。
ア:ブドウ科に分類される別名「貧乏葛」・・ #
A:つる性植物の中には、毎年地上部が枯れる草本性のツルと、木質化して残る木本性のツルがある。
ブドウ科のつる性の種は、木本性のつるが大半であるが、つるにならない草本なども含んでいる。
B:ヤブガラシの葉は5小葉からなる鳥足状の掌状複葉で互生・柄があり・花序や巻きひげは葉と対生・茎には稜があり・夏には大きな集散花序をつける。
C:4枚の緑色花弁の花は直径約5㎜・淡緑色で平開し・花盤は初め淡黄色から淡桃色に変色し・雄しべ4・雌しべ1の花は、自家不和合性であるために結実は望みうす・液果は球形で黒熟する。
D:花弁のあるうちは雄花の働きをし、落下後は雌蕊(めしべ)が成熟して雌花の働きをすることで自家不和合性である。花蜜を求めて昆虫がやってくるのもこの時期。
イ:昆虫にとっては人気の花です・・ #
A:小さな緑色の花をつけること・蜜は露出していることからスズメバチ類やアゲハチョウ類に好まれる。
B:緑色の花は雄蕊(おしべ)や雌蕊(めしべ)が短いといわれており、口の短いスズメバチやアシナガバチに花粉の運び屋を期待し、見返りに窒素分と糖分を含む蜜を提供しているというのだが・・・。
C:アゲハチョウは、赤色が最も好む色で、次が緑色である。口の短い昆虫に混じって飛来するアゲハは吸蜜対象の花とは思えないが、窒素分と糖分にすてがたい魅力を持っているのだと思う。
D:花期は7~8月。午前中に開花したあと、まもなく雄しべ4と緑色花弁4は散ってしまう。あとには雌しべと、その子房をとりまく花盤がのこる。
【参考資料】
植物の世界・鈴木三男著・朝日新聞社 :野草図鑑・長田武正著・保育社
花と昆虫、不思議なだましあい発見記・田中 肇著・講談社
植物の名の由来・中村 浩著・東京書籍 など。