色んな種類が性転換・しかも往復するから不思議です
人間の性転換は医学的な手助けを必要とする場合があります。植物界は「太陽光・ストレス・成育期間」などの要因が重なり合うと、「数種類の植物」が性転換を進めるといわれています。最も不思議な現象は「性の往復」を行うことです。・・本当に不思議ですね。
1.植物界と動物界での性転換のちがい・・ #
(樹木社会学・渡辺定元著より以下一部抜粋)
数億年前にコケ植物・シダ植物が陸地への進出に成功し、石炭記(約3億5千万年前)にシダ植物の森林が繁茂。古生代末期(約2億9千万年前)になると裸子植物が誕生。
シダ植物の胞子による交配から種子の形成に近づいたイチョウ・ソテツ・針葉樹などの裸子植物は、花びらを持たない雄花・雌花を咲き分けて、風媒花として大きく進化。
さらに果実を身につけた新しい被子植物は、交配に昆虫・鳥・動物の手助けを取り込んで飛躍的に子孫繁栄の道を進んでいる。
1) 被子植物は種子の形成に必要な目立った花弁と種子を保護する果実を身につけ、裸子植物にはなかった進化です。昆虫を誘引し、虫媒花の役割を受け持ち、種子の運搬には鳥類・昆虫類・哺乳類などを利用する態勢を創世。
2) 植物界のある種の雌雄は、時と場所を選択しながら「雄から雌へ」、また「雌から雄」へと転換を意図することの不思議さは他では見られないのです。そして同一個体で「雄から雌」に可逆的に転換を図ることが、人類の性転換の一方通行とは最も異質な行為なのです。
2.裸子植物の花は単純な構造です。性転換はおこりません。 #
裸子植物の性転換の研究はいまだ聞いたことがないし、裸子植物は分類上木本類だけで草木類はないのです。
有性繁殖の雌雄の組み合わせの中で、裸子植物の樹種の性型の要因によるタイプは次のとおりであり、簡単に言えば一本の樹木に咲く花の組み合わせである、
(亀井さん提供・ヒマラヤシーダーの種子)
★裸子植物の性型や交配型・散布型などは、次の区分だけである。被子植物に比べて簡素。
3.被子植物の樹木の花は「性型・交配型・散布型」から区分すると複雑です。 #
渡邉定元著「樹木社会学」では、「樹木個体に咲く雌花・雄花・両性花は交配・散布の形態を組み合わせると20数種におよぶ」とあって、子孫繁栄の工夫の現れは様々である。
1) 1つの花の中に雄しべ、雌しべの両方をもつものは両性花。1つの花の中に雄しべだけの花を雄花、雌しべだけの花を雌花。両性花に対して単性花という。
2) 両性花だけをもつ個体を両全性雌雄同株といい、ニレ属、ツツジ属、クスノキ属、サクラ属、バラ属、ミズキ属、ヤマボウシ属、クサギ属、ニワトコ属、など多種類。
3) 1つの個体の中に雄花と雌花をもつ個体を単性雌雄同株とよぶ。オニグルミ属、ブナ属、コナラ属、クリ属、シイ属、マテバシイ属、アケビ属、ムベ属、など多数。
4) 雄性両全性同株(雄花と両性花)は、イスノキ、エノキ、タラノキ、カクレミノ、ハウチワカエデなど。
5) 雌雄異株(雄花・雌花)は、ユズリハ科、シロダモ属、キハダ属、アオキ属、マメガキ、ヒトツバダコ、ウリハダカエデなど。 (ウリハダカエデの紅葉)
6) 以上は全て被子植物であるが、この他に花の付き方で区別されるタイプとして
◆雄性両全性異株 (雄花と両性花)にシオジ、マタタビ、ヤマモモが、
◆雌性両全性異株 (雌花と両性花)にイヌビワが、
◆雄性雌性両全性異株 (雄花と雌花と両性花)にサルナシ、ヒサカキがある。
7) ヒサカキは帆柱山系のいたる所で観察できるし、3タイプの花が咲くことの複雑な様子を追跡するのもおもしろい課題です。
4.木本類の性転換の仕組みとは・・(今判っている種) #
マムシグサ、ムサシアブミ(サトイモ科・テンナンショウ属)などの性表現は、球茎の重さによって決まるという研究成果が発表されています。他にアケビ・カエデ、クロユリなども性転換の植物です。以下幾つかの実例を掲げることにします。
注:田中肇著「花と昆虫の不思議な・・・」によると、オオバコ(オオバコ科) やクサギ(クマツヅラ科) も性転換をおこなうと述べています。
★クサギの花は雄しべの機能から雌しべに転換(クマツヅラ科・花期は8~9月)
山地や丘陵に生える落葉性低木、樹皮には割れ目形の皮目、樹皮は暗灰色、多分枝、葉は対生、広卵形、悪臭(臭木のもと)、だが、花の香りはヤマユリに似た良い香り。
多くの枝分かれの先に集散花序を形成し、多数の白色花をつける。果実は球形で紫色。
ムラサキシキブは同じ科に属する。樹木の性形は「両全性雌雄同株ー両生花ー虫媒花ー動物散布ークサギ属」。
ア・開花の若い花は、4本の雄しべが活動を開始し前方に突き出して昆虫の飛来をまつ。この時、雌しべは大きくカールして先端は花びらの下にあって花粉を受ける能勢にない。
イ・これが翌日になると、雄しべと雌しべの位置が入れ替わる。雌しべが立ち上がり受粉の態勢をとり、雄しべはくるくる巻いて機能を失う。雄性から雌性への性転換である。
ウ・両性花でありながら雌しべ・雄しべの成熟期に時差がおこり不和合性が生じる。花の香りに誘われたのか、アゲハチョウ類がよく飛んでくる。
★カエデ属は性転換の目安が不明・研究中・・(カエデ科・花期は4~5月)
秋の紅葉はカエデ抜きでは語れないし、樹種も多いが雌雄の性の組み合わせも複雑である。一本の樹木にこんなにいろんな花を咲き分ける生態には驚きの一語につきます。不思議です。
ア・ウリハダカエデは図鑑では雌雄異株。しかし、カエデ属の中でウリハダカエデは性転換の樹種である。
イ・性転換時のサイズ・ストレス・樹齢などの要因は明確ではないものの、確かに性転換の研究成果から観察のしがいがあるのです。
ウ・カエデ属の性型はバラエティであり、樹種を確定しないと花のタイプが判らないので下表を参考に・・。
★アケビの花は咲けども実がつかない・・?。その原因は・(アケビ科・花期は4~5月)
「単性雌雄同株ー雄花・雌花ー虫媒花ー動物散布ーアケビ属」
アケビは1本の個体の中に雄花と雌花をもつ単性雌雄同株であり、両性花は咲かない。
アケビは一本のつるが性転換する場合の大きさの基準は未だ解明されていない、とのことであるが成長過程での凡その目安は次の通りである。
最初の頃 ・・ つるが短いときは花が咲かない。葉だけが茂る。
中 頃 ・・ つるが少し大きくなり花が咲くようになっても、最初は雄花しかつかない。
結実の頃 ・・ つるが成長して大きくなると雌花の数が多くなる。当然雄花も咲く。
このつるが何らかの原因で小さくなると、最初の頃に戻ることになり性転換のように見られがちです。
★次は草木類から2種を紹介・「オオバコ・マムシグサ」の性転換
ア・オオバコの花は4~9月に長さ10~50cmの花茎を伸ばし、白い花を穂状に蜜につける。花は下から上へと順々に咲く。詳しくは森の不思議第36話を参照ください。
イ・「両性花ー風媒花ー風散布ーオオバコ属」は雌しべの生殖活動が先で、なぜ雌しべから
ウ・オオバコ科の特徴のまとめ・・(以下参考までに)
1) どんな深山でも、高山でも人の歩く道があれば生えているのがオオバコ。属名は「足の裏で運ぶ・Planta ginaceae」の意味。人里植物で和名は「大葉子」。
2) 中国では牛車や馬車の通る道に沿って生えていることから「車前草」とも呼ばれ、種子は「事前子」といって、昔から咳止め、利尿などの漢方薬として利用されている。
3) 合弁花冠が膜質になるのが大きな特徴、単葉の葉と平行状の葉脈も、双子葉植物では特異である。
4) 虫媒花から風媒花に変わったと推測されており、乾燥地にも路上にも、激しい環境にも耐えて生育しているが他の植物との競合性では劣る。隣に背の高い草が進出してくると負ける。
★マムシグサの花は雄から雌へ、また逆もある・(サトイモ科・花期は4~6月)
ア・テンナンショウ属の場合は、性表現が個体のサイズと密接な関係にある。地下の球茎の重さが目安として使われてきた。詳しくは植物談義第2話を参照ください。
最初の頃 ・・ 球茎の貯蔵物質が少ないときは花をつけない。茎は2枚の葉による偽茎。
中 頃 ・・ 球茎がある一定以上の重さになると、花茎をだして雄花をつける。
結実の頃 ・・ さらに球茎が重くなると、ある年に突然、雌花をつける。
逆の転換 ・・ 何らかの影響で球茎の重さが減少すると、逆の変化がおこる。
(*動物界にはない特殊な性転換である。)
イ・ 「花の構造について]・(以下参考までに)マムシグサの花を「仏炎苞」といい、花の構造は花びらはなく、雄の穂には雄しべだけ、雌の穂には雌しべだけがトウモロコシの実のようにびっしり並んでいる。
ウ・虫媒花の仏炎苞にはキノコバエが飛んできて花粉交配を仲介している。ところが、雄花の内部は滑りやすく、外に出行くにはひと苦労であり、さまよっている間に下部に小さな隙間があってそこから脱出できる。
エ・これが雌花の場合は入り込んだが最後出口はない。昆虫は苞の内側をすべったり、雌しべの上をうろちょろ歩き回ることで花粉交配ががすすむ。
オ・交配の仕掛けにはほどほど感服するばかりです。昆虫の最後は疲労困憊の末ただ死をまつばかりです。
(図は花と昆虫、不思議なーー・田中肇著より引用)
(文責 : 田代 誠一)
(同 ・ P158頁より)
注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。作成にあたり下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用 ・ 参考文献】
- 原色樹木図鑑・北隆館 ・ 林 弥栄監修 樹木社会学・東京大学出版会・渡辺定元著
- 九州の花図鑑・海鳥社 ・ ・ 益村 聖著 ほんとうの植物観察 ・ 地人書館 ・ 室井たく著
- 花と昆虫、 不思議なだましあい発見記 ・ ・ 講談社 ・ 田中