紅葉・黄葉の色づいた木々は、秋のロマンを感じさせます。 落葉性のカエデ科・ブナ科・ハゼノキ科などは、色さまざまの季節感を 漂わせています。と同時に忘れてならないのが、「味覚」のいろいろです。 季節感がだんだん薄れてきた中で、秋の味だけはいまだ季節到来に 頼っています。 帆柱山系でも実りが見られます。
1.カキノキ(柿)・カキノキ属・カキノキ科 #
艶やかな色合いの実や、黄葉の秋景色は日本の代表的な風景である。
万葉歌人・柿本人麻呂の「柿本」は、815年作「新撰姓氏録」によると、家門に柿の木があったからだとしている。古事記・日本書紀・万葉集には樹名として登場しない。
・さるかに合戦 「早く芽を出せ柿の種、出さぬとはさみでちょんぎるぞ」・小学唱歌
・正岡子規 「柿食えば鐘がなるなり法隆寺」
・松尾芭蕉 「里ふりて柿の木持たぬ家もなし」などは代表作。
(1)形態と分布
カキノキ科は2属約500種からなり、全てが木本。世界の熱帯地域を中心に広く分布。カキノキ属は約480種があり、日本には7種が知られている。常緑樹と落葉樹あり。
◆ 中国から渡来したともいわれているカキノキ・Diospyros Kaki Thunbは東アジアを中心に世界各地の温帯域・亜熱帯域で栽培されている。日本では本州の西部、四国、九州に分布している。属名・ディオスピロスは神の穀物を意味する。
◆ カキノキは高さ10m以上になる落葉高木。葉は単葉、全縁、互生、托葉はない。両性花と単性花の混在する雌雄雑居性で当年枝の葉腋につく。花は5~6月頃に咲き、雄花は集散花序に数個つき、雌花は単性(1個)し広鐘形で雄花より大きい。
◆ 7種の中でトキワガキは常緑の小高木・果実はやや球形で直径約2センチ、黄色に熟したのちに暗紫色になる。自生しているのは本種だけらしい。帆柱の辻に自生。
◆ 子房に毛があり、葉に毛の多いものが山に生えているが、これをヤマガキという。
◆ 7種のうち4種は琉球産。毒のある果実をつけるリュウキュウガキは、魚毒・矢毒に用いられる。リュウキュウマメガキは、「琉球」に限らず関東地方以西、中国中部に分布。柿渋採取。薬草園にマメガキを植樹。
◆ 日本固有の甘柿は13世紀に出現したらしい。「kaki」の小品種名は世界共通語。
◆ 日本のカキが米国に渡ったのは、幕末にペリー艦隊に同行した植物学者「ジェームズ・モロー」が持ち帰ったのが最初。その後フランス、スペイン、イタリアなど地中海地域に広まった。フランス語でも「kaki」という。
柿渋を採取する目的でしばしば栽培されるのがマメガキ、雌雄異株で落葉高木。
(2)用途
◆ 果実は食用のほか柿酢、柿渋を取る。カキノキ属の中で大径木になり、黒色の心材部が大きく、用材として利用できる約20種を黒檀と総称している。
◆ 材は固く、比重は1.2を越えるものもあり、耐久性に優れる。材は珍重される。シタン(紫檀)・コウキ(紅木)・カリン(花梨)・タガヤサン(鉄刀木)などは有名。
◆ 渋抜きの方法は、湯抜きのほか、「アルコール抜き」・「炭酸ガス抜き」の方法がある。
★アルコール脱渋法は、カキ20kgに35~40%のエチルアルコール150~200ミリ㍑を噴霧し密閉して、約1週間で脱渋。 ★炭酸ガス脱渋法は、ポリエチレンの袋に柿15kgを詰め、ドライアイス300~350g入れ密封。3~4日で脱渋する。 ★干し柿も一種の脱渋で、乾燥によってタンニン物質が不溶性化されると考えられる。 串柿とは、果皮をむいたあと竹串に刺して乾燥させる。運を「掻き」取るの意にかけて、正月の注連縄や鏡餅に飾る地方もある。 |
◆ 柿の葉寿司・・について一言・・
奈良吉野の名産で、サバの押し寿司を若い柿の葉に包んだもの。この葉は渋柿の葉に限られるという。
◆ 葉で包む食品は地域ごとにいろいろある。越後の笹寿司、木曽飛騨の朴葉寿司、神奈川県ではチマキバラと呼んで、ハリギリを、美濃地方ではミョウガを、滋賀県ではヨシ、和歌山県ではダンチクを材料とした。
◆ 福井県の永平寺ではどの家庭でも低く刈り込んだイイギリが目立つ。鱒寿司を作るのに必要なため、飯を盛る桐だからイイギリ=飯桐という。
(3)名の由来
◆ カキの語源は朝鮮語説が有力である。カキに相当する韓国語カム=kamの祖語形はカルク=Kalkとなり、転じてカキ=kakiになったという。
◆ 東大寺正倉院文書の天平5年(733)の記事に、「干柿」「干柿子」を購入したと記録がある。原料となる柿は野生種の渋柿である。
◆ 延喜式(927)に脱渋法の「柿子五升料塩二升」との記事があり、日本も韓国も全く同じやりかたで、塩水で渋を抜き食用にしたものである。
2.クリ(栗)・クリ属・ブナ科 #
秋の味覚の一つであるクリは、経済的にも重要な果実である。クリタマバチに強い優良品種(銀寄など)が栽培されている。6月頃に咲き特有のにおいがする。「世の人の見付けぬ花や軒の栗」・・松尾芭蕉・・クリの花は夏の季語。パリの冬の風物詩「焼き栗」、中国天津の甘栗、それに日本のクリはみな別種。中国名の栗は、木の上に「いが」のある実をつけたようすを写す象形文字。
(1)形態と分布
◆ クリ=Castanea crenataは、日本全土から朝鮮半島南部の温帯下部から暖帯に広く分布する落葉樹。属名のカスタネアは古代ギリシャ名に由来。
◆ クリは高15mmほどになる落葉高木。葉は単葉、互生、葉縁は鋭い鋸歯があり、先端はクヌギより短い芒状で緑色となる。葉身は長楕円状皮針形で長さ10~20㎝、側脈は15~20対。(クヌギは12~16対)
◆ 雄花は新枝の下部の葉腋に長い尾状花序をつける。花序は基本的には斜上するが、マテバシイ属ほど強くないので、先は下垂しているように見えることも多い。
◆ 雄花序は雄しべが密生したブラシのような形態となる。雌花は新枝の上部の葉腋から出る花序の基部につく。雌花はたいてい3花が集まって咲く。花は6月頃に咲き、花の香りが漂う。ハエの仲間や甲虫類やチョウによる虫媒花。風媒花でもある。
◆ 中国の優良種は「アマグリ」、フランスの有名な菓子・マロングラッセの原料は「カスタネア・サティウァ」、北米原産の「アメリカグリ」などの品種がある。
◆ 日本では山の痩せ地に自生するものはシバグリと呼ばれ、低木上のものが多い。栽培種のクリの実は普通3個入っているが、野生種では1個で、多くて2個である。
◆ 自家不和合性のため結実率が著しく低下する性質があり、高める目的で5本に1本の割合で別の品種を花粉樹として混植している。
◆ クヌギの葉とよく似るが、クヌギののぎ(芒)は淡黄褐色で縁から出る。クリは表裏面とも葉脈上に毛がある。クヌギは裏面の葉脈上に毛が残る。
(2)用途
◆ 古くから食用として重要であり、7世紀末には栽培が奨励されていた。現在では正月の栗きんとん、栗羊羹、栗飯、勝栗などに食用。古事記・万葉集でも食用植物として扱われている。材は腐れ難いので枕木、土台などに賞用され、またシイタケの原木にする。
(3)名の由来
◆ クリの語源は、朝鮮語の「kul」が有力である。クリの実は「kul‐bam」といい、‐bamは堅果のこと。英語の「nut」にあたる。
3.「ヤマノイモ」って、不思議な植物・・ #
ヤマノイモの繁殖方法には3種あると言われています。1つは「上部の一部を地面に植える」、2つ目は「種を播くこと」、3つ目は「むかごを播くこと」です。
ここで不思議だなァーと思っていることは、果実(種子)がちゃんと結実するのに、なぜ「むかご」まで用意して子孫を残そうとするの?。 不思議ですね。
他の植物は種子だけの場合が普通なのに、ヤマノイモはどうしてでしょうか。ここで、ヤマノイモの生態について、簡単に調べてみましょう。
(1)形態は
◆ ヤマノイモ科・ヤマノイモ属。つる性の多年草、つるは右巻きに巻きつき登る。
◆ 雌雄異株、葉は多くは対生(ヤマノイモとナガイモ以外は互生)、葉身はやや三角形の細長い卵形で、表面につやはなく先は尖る。
◆ 白い花は小さくて、花びらはほとんど開かない。雄花の花穂は立ち上がり、雌花の花穂は垂れ下がる。花は7月~8月。
◆ 芋は山芋・自然薯・自然生ともいう。むかごを実る仲間はナガイモ・ニガガシュウ。
(2)ヤマノイモの根<担根体>
◆ ヤマノイモは生育に不適切な冬季には地上部は枯れて、栄養分は地下部の担根体とよばれるデンプン貯蔵器官に貯えられる。従って、食用部分は茎でも根でもない。
◆ ヤマノイモの皮を剥ぐときに鉄製の包丁を使うと黒っぽくなるので禁物。ステンレス製かガラス片を使うのが適当。
(3)むかご <珠芽しゅが>
◆ また地上部の葉腋ようえきに栄養分を貯蔵したむかごをつける。むかごは葉腋に1個ずつつき、直径1~2cmになる。食べられるが、ヤマノイモにとっては重要な繁殖のための散布体である。
◆ むかごは元来、茎の短縮した芽、蔓の先端が垂れ下がると、腋芽がふくれてむかごとなる。そして茎の先端が下垂しないとむかごはできないと言われています。
(4)ヤマノイモの果実・種子
◆ 種子は自然交配によって結実したものであるが、むかごは母親と同じ遺伝子をもつクローンのはずです。セイヨウタンポポの無融合生殖に似ていますね。
◆ ノビル・ムカゴトラノオなどのように、種子をつくるのをやめて、花がむかご化する現象を「ビビパリィ・・胎生の意味」といいます。この現象にも似ています。
◆ ヤマノイモの果実は蒴果で、3枚の翼を持つのが特徴です。薄い膜質の翼の間に種子を挟んでいます。子どもの頃、鼻の頭につけて遊んだことを思い出します。
(5)要観察
◆ ヤマノイモの雄株に実りが多いのか、雌株のほうが多くのむかごをつけるのか観察してみてください。
◆ また、茎の先端が下垂すると「むかごをつける」と言われていますが、下垂と結実との関係も観察してみましょう。
(文責 : 田代 誠一)
注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。作成に当たり、下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用・参考文献】
植物の世界(朝日新聞社発行)、木の名の由来(深津正:小林義雄著)、根も葉もある植物談義(岩槻邦男著)、樹木がはぐくんだ食文化 (渡辺弘之著)、 ほか。