だが、いろんな生理生態を隠し持っています
今回は帰化植物の中からノアザミ・ノゲシなどを掲げ、類似点や特徴などの探求が課題です。 痛そうなトゲに恐れて、触りたくない植物の筆頭です。見た目は危険のようですが、花の構造や全身トゲだらけ、越冬は根性葉でちょっと食用にも、など特異な生理生態は興味津々です。
1.アザミの生活史 #
アザミは北海道~石垣島まで国土の南北に万遍なく分布しています。アザミは種間の雑種形成が頻繁に起こりやすいため、分類上はたいへん難しいと云われています。
1) キク科アザミ属は、世界に約300種が、うち約60種が日本に成育している。ノアザミ・ヤナギアザミ・ヒレアザミ・キツネアザミなどは、古く大陸から帰化したものである。
2) 開花期に根性葉が残っているか否か、頭花の咲く向きは、総包片が横に張り出しているか、総包が粘るか粘らないか、等が区別の基本である。
3) アザミ類はトゲをもっている。動物の食害から身を守っているようであるが、本当の理由は判っていない。
4) アザミほど地域性に富んだ植物も珍しい。とにかく種間交配が容易なため雑種形成の見本のようである。南方から北の地域へ、また低地から髙地にかけてその種類は多い。
★ノアザミの特徴・春開花のトップ
◆ 春から咲いている唯一のアザミ。開花期まで根性葉が残り、頭花は常に上向きに咲く。総包片は直立しべっとり粘るのが特徴。身近でよく観察できる。
◆ 頭花は筒状花だけからなり、1本の雌しべを筒状の雄しべが囲んでいる。頭花の直径は3~4㎝で淡紅紫色をしている。中には白花のシロバナアザミもある。
◆ 福岡地方で観察できるアザミ類は、ノアザミの他はおおよそ次のようである。
【自生植物】
ツクシアザミ 秋・・根性葉は花期に枯れる・下向きに咲く・総包は粘らない
ヤマアザミ 秋・・根性葉は花期に枯れる・穂状か茎先に頭状に密集・総包は粘らない
モリアザミ 秋・・根性葉は花期に枯れる・上向きに咲く・総包は粘らない・極端に長い
【帰化植物】
ヒレアザミ 晩春・・茎に多数ヒレあり・5~7月頃赤紫色の無柄の頭花・ヒレアザミ属
キツネアザミ 晩春・・5~6月頃赤紫色の頭花多数が上向きに咲く・キツネアザミ属
◆ 変種ですが同属です
シロバナアザミ ・・根性葉は開花まで残る・上向きに咲く・総包は粘る・変異性
アメリカオニアザミ ・・帰化植物・二年草・花期は初夏~9月頃紅紫色・全体に翼とトゲ
5) フジアザミ・サワアザミ・ノマアザミ・ハチジョウアザミ・ナンブアザミ・トネアザミ・シコクアザミ・ダイニチアザミ・ヤクシマアザミなどは地域限定版。
6) 食材や漢方薬として利用。また、高山や海岸などの厳しい環境にも成育できるのは、生物に有害な紫外線を吸収するフラボノイド類を多量に含有しているからだと考えられている。
7) 山菜の「山ごぼう」は、モリアザミ・オオヤマボクチなどの根の総称とする地域もある。ヤマゴボウ属の植物は有毒であり、混同しないように要注意。
2.ハルノゲシ・オニノゲシ・アキノノゲシとの対比・・(ノゲシ属とアキノノゲシ属) #
葉のトゲはアザミと同じように痛そうに見える。触るとチクリと刺すから敬遠しがちである。 ノゲシはハルノノゲシの別名をもつ。ハルニ対してアキノノゲシも存在。 また、オニアザミは九州には分布しないが、オニノゲシは身近で観察できるから混線しないように注意。ノゲシは他の植物に覆われるのを嫌い、裸地から裸地へとさまよう「放浪植物」
1) ノゲシ(ハルノノゲシ)
★ ノゲシは有史以前に中国経由で渡来したらしい。 4~7月に開花することからハルノノゲシの別名をもつ。頭花は黄色で直径は約2㎝・ノゲシ属の花は多くの舌状花の集合体。
★ 茎は中空で多数の稜があり、葉は柔らかく羽状に切れ込み、葉縁は不揃いの鋸歯縁、鋸歯の先は刺状に尖るが痛くはない。葉の基部は茎を抱く。
2) オニノゲシ
★ オニノゲシは明治時代に渡来。ヨーロッパ原産。4~10月に黄色の花が咲く。ノゲシによく似るが、葉に鋭いトゲが多いことから「鬼」の名がついた。
★ 茎は中空で多数の稜があり、葉は濃い緑色で表面は光沢。葉身は15~20㎝と長く、基部は丸く張り出して茎を抱く。不揃いの鋸歯縁の先は鋭く尖り触ると痛い。
3) アキノノゲシ
★ 最古の野菜の1つであるレタスに近縁の植物。ノゲシとは感じが違い、背が高く花は秋の野にめだつ。花期は8~11月で舌状花だけの頭花は淡い黄色でまれに白色~淡紫色。昼までに咲いて夕方には萎む。
★ 全国の原野や道端で普通に見られる二年草。葉には羽状の深い切れ込み・葉は茎を抱く。1mを越える太い茎になり、茎を切ると白い乳液が出る。
★ 茎を抱く草本類
(1) ノゲシ類の他に茎を抱くのは、コウゾリナ・ハマハタザオ・カセンソウ・ハルジオン・イヌガシラ・ナズナ・グンパイナズナ・ニガナなどで、抱きつく様式は様々である。
(2) 身近ではアブラナ・エンドウを観察できるが、特に園芸植物の「ツキヌキニンドウ」(突抜忍冬)の葉は、茎を包み込んでしまい、葉の中から茎が突き出たように見える。 (写真:茎を托葉が抱いたノゲシ)
(3) 茎を抱き込む葉は、イネ科・ガマ科・ツユクサ科・ラン科など で見られる「葉鞘」の場合と、いろんな形に変化する「托葉」の2タイプがある。托葉針になったものにニセアカシア、巻きひげに変化したものにサルトリイバラなどが観察できる。
(4) 葉は葉身・葉柄・托葉から成り立つと云われている。托葉は未発達の葉身を保護するはたらきの他は、未解明のため今後の研究に期待したい。
3.アザミとノゲシの相違点 一口メモ #
区 分 | アザミの仲間 | ノゲシの仲間 |
花の色 | 紅紫色~ | 黄色~ |
花構造 | 頭花は筒状花 | 頭花は舌状花 |
葉の刺 | 鋭い刺が痛い | 刺が少し痛い |
茎を抱く | 茎を抱かない | 茎を抱く |
根性葉 | ノアザミは残るが他種ではない | 赤い葉のロゼット状で越冬 |
注:今回の資料はNPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用として書きとめた内容のものです。資料作成にあたり下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用参考文献】
・ 牧野日本植物図鑑 牧野富太郎著/北隆館刊
・ 野に咲く花 林 弥栄監修/山と渓谷社刊
・ 雑草のはなし 田中 修著/中公新書刊
・ 原色日本帰化植物図鑑 長田武正著/保育社刊
・ 植物の世界 門田裕一著/朝日新聞社刊
・ 雑草博士入門 岩瀬徹他著/全国農村教育協会刊 他