馴染み深い植物ですか、比類なき特徴こそ不思議のもと
昔の田舎道は未舗装のため通学路の道端にはオオバコが連なっていた。道草の遊びにオオバコは馴染み深い植物であった。最近は舗装道路ばかりでオオバコが少なくなっている。 今になって思うに、オオバコは風変わりな生理生態を備えもつ「興味深い」代表選手でもあり、たくましい生活史は比類無きものを具備。実におもしろく、いろんなことを教えられる。
何が、どのように変わり種であるかを概括的に次のようにまとめてみた。
1.植物のからだは根・茎・葉からできているのに、茎を見ることは難しい。
2.葉の柄をちぎると中から5本ほどの筋、即ち維管束が丸見えとなる。
3.人や車に踏みつけられることで、種を遠くまで運ぶ方式で子孫繁栄をはかる。
4.花は雌花先熟、下から上に向かって開花する。雌雄異熟で自家受粉を避ける。
5.背の高い植物とは共存できない。背が低いことで生存地域が限定される。・・など
1.植物のからだは根・茎・葉からできているのに、茎を見ることは難しい。 #
小学3年生の理科の参考書には「根・茎・葉」のからだを持つ植物が普通であると解いている。低学年では仕方がないにしても、オオバコの茎はないように見られがちだが、実際はごく短い茎が生えているという説もある
(1) タンポポには主根が生えているが、オオバコは細かい多くの根のみである。地際のひげ根から長い葉柄を出し、その先に広い単葉の葉と平行状の葉脈も双子葉植物では特異。
(2) 双子葉類の葉脈は、普通は綱状脈系(羽状・掌状・鳥足状・三行脈)であり、単子葉類は平行脈系(ススキ)をもつものが多い。イチョウは二叉脈系である。
(参考・・「植物談義11話「葉っぱの主脈・側脈は手相みたいなもの・・です」)
★ほんとの植物観察 より引用
双子葉植物は通常は1本の根が太くなって主根として伸びている。ところがオオバコは成長しても主根は太くならず、単子葉植物のような細かいひげ根ばかり広がっている。
ヘラオオバコは主根があるので、オオバコとの相違点である。オオバコの種は地面や道路などのよく踏み固められた処だけに生えるおもしろい性質がある。
一般的に植物は茎の先端にある成長点が踏みつけられると、その後の成長は望めない。芝生を放置すると丈の高い草本が侵入してくるのは、踏圧がなくなるためである。
(3) 荒れ地や道ばたに普通に生える多年草。葉はすべて根生で、数本の脈が目立ち、葉面が波打っているものも多い。葉柄は長く断面は半月形、根生葉の間から数本の花茎をのばす。
(4) 茎と根との境目がはっきりしないほどである。あると言えばあるし、無いと言えばないようでもある。普通は茎の先端部に成長点があるが、オオバコは成長点を痛めつけられることもない。このような植物を「踏み跡植物」ともいう。
2.葉の柄をちぎると中から5本ほどの筋、即ち維管束が丸見えとなる。 #
維管束をもつ植物は、シダ植物と種子植物(裸子植物・被子植物)で維管束植物と呼んでいる。コケ植物、藻類には維管束がない。単子葉類の竹には分裂組織(形成層)がないため太り続けることができない。
以下、少しだけ植物学から引用
(1) 植物の水分や養分を末端部分まで送るパイプラインが導管と師管である。これらを維管束形成層が包み込んでいる。植物が高く成長したり、太くなるのは維管束の維持組織としての働きがあるからである。樹木の中心部は死細胞の固まりであり、硬くて強くなって躰 を支えている。木材の赤い部分の年輪は死細胞、白い部分は活動中。
(2) 植物の躰には沢山の維管束があり、通道組織(物質輸送の役割:導管と師管)と機械組織(機械的支持を役目:繊維)の働きがある。レンコンを切ったときに粘りのある糸状のものも維管束である。大きな孔は葉で吸収した酸素を茎や根に送る通気孔の役目をもつ。
(3) 眼に見える維管束はオオバコやレンコンだけではない。よく見ている葉の主脈や側脈も維管束である。
3.人や車に踏みつけられることで、種子を遠くまで運ぶ方式で子孫繁栄をはかる #
オオバコ科は世界的には約3属からなる。その中のオオバコ属の約250種が科の大半を占める。海岸から高山、乾燥地から湿地とさまざまな環境に適応。
(1) 人間生活の影響がおよぶところに生育する「人里植物」のひとつである。和名の「大葉子」の由来は、葉が広く大きいことによる。
(2) 中国では牛車や馬車の通る道に沿って生えることから、「車前草」とも呼ばれ、種子は「車前子」という名で昔から咳止め・虚痰・利尿などの漢方薬として利用されている。
(3) 花茎についたさく果は熟すと中の種子が親個体の周辺に散らばる。オオバコの種子は水に濡れると表面からゼリー状の粘液を分泌し、その接着力で足裏や車に付着して遠くへ運ばれると言う。
(4) 踏み跡植物の典型的なものにオオバコがある。これらの植物は人に踏まれる場所に成育している。このような環境に耐える埴物にシバ・チチコグサ・タンポポのロゼット・ニワゼキショウ・クローバーなどがある。
(5) 一般的に植物は茎の先端にある成長点が踏みつけられると、その後の成長は望めない。 上記(4)の植物は踏まれてもその成長点が痛まないように成長点が低い位置にある。
4.花は雌花先熟、下から上に向かって開花する。雌雄異熟で自家受粉を避ける。 #
植物の基本的な器官は、根・茎・葉の栄養器官と生殖器官からなる。ここでは生殖器官「花・種子・果実」が課題である。花は両性花・雄花・雌花が一般的であるが、セイヨウタンポポのように無性花もある。またマムシグサのように性転換を図るものもある。複雑怪奇でしたたか。裸子植物(スギ・ ヒノキ・マツ・イチヨウなど)には両性花は咲かないし、交配型は虫媒ではなく風媒型。
★樹木社会学 より引用
樹木の性型は10~12タイプあるが、基本的には単性雌雄同株・雌雄異株・両全性雌雄同株である。
植物は外交配を促進する機構として、自家不和合性・雌雄異株・雌雄異花・雄しべ雌しべの位置的差異・両全性雌雄異熟(雄性先熟・雌性先熟)など複雑な仕組みがある。
内交配には自家和合性・閉鎖花・無性的種子繁殖・栄養繁殖などかある。内交配は種子生産のうえで安全で効率的な交配システム。
外交配は同種内の多彩な遺伝子が自由交配によって、個体の多様性が維持される有利性がある。雌雄異株の種は、雄花と雌花が分離され、種多様性を保持し、系統維持に好ましい。
両性花は葯と柱頭が至近距離にあり、内交配が容易にできる構造となっている。内交配に特化したのがフタバアオイ。エイザンスミレ・アオイスミレは春は開放花(虫媒・外交配・自家不和合性)、夏は閉鎖花で内交配で自家和合性を促進している構造である。
ヒサカキは雌雄異花・両性花・雄性花などが混在している種もある。カエデ属やサルナシ属・アケビ属などは樹齢や生育環境などによって性転換を行う種類がある。
(1) 花は4個の萼片と1個の苞に包まれていて、花序の下から上に向かって咲き上がる。雌しべ先熟のため雌性期が先にくる。続いて雄性期になり4個の雄しべが伸び出す
(2) 4~9月に長さ10~50㎝の花茎を伸ばし、白い花を穂状に密につける。白い花冠から長さ3㎜ほどの花糸の4本の雄しべが伸びている様子は写真のとおり
(3) オオバコ科は虫媒から風媒花へと変わったと推定されており、昆虫が少ない乾燥地に成育していることと関係づける研究者もいる
(4) 雄しべ雌しべの位置的差異のことを「異形花柱性」ともいう。自家受粉を避けて確実な他家受粉を保証する仕組み。オオバコの雌性先熟の仕組みも同じ交配型
(5) 異形花柱の仕組みは「どうなっているのか」。雌しべが長く雄しべが短い長花柱花と、雌しべが短く雄しべが長い短花注花がある。この場合、「長いものどうし」か「短いものどうし」でないと受精して結実にいたらないタイプの他に、等花柱花もあり複雑である。
(6) 異型花柱性は自家不和合性を促進する機能をもつ。被子植物の70%以上が両性花をつけるが、単性花や中性花(装飾花)のタイプもある。
(7) 被子植物の半分は自家不和合性であり、残りが自家和合性であると推定。ダーウィンが発見した性質だと言われている。近親交配を避け、遺伝子の多様性を展開してきたことで被子植物を拡大することに成功。それは自家不和合性が要因の1つだといわれている。
(8) 自家不和合性は花粉交配に昆虫との共生が必須要件である。チョウ・アブ・ハチの活動に期待がかかっている。特にマルハナバチの学習能力やイチジクコバチの稀少種は貴重。
5. 背の高い植物とは共存できない。背が低いことで生存地域が限定される #
(1) 農道で普通に見かける人里植物のオオバコ。人里の低地から標高2500mまでの高地に分布。繁殖力は旺盛のように見かけるが、実際はきびしい生活環境にある。
(2) 踏みつけの少ない道の両側では草丈の高い群落が形成されるため、オオバコはその周縁では生育できても、高い群落部まで侵入していない。従ってよい生育環境は少ない。
(3) オオバコは可塑的な能力を駆使して生活史に工夫をこらし、生存と枯死とのバランスの中で維持されている個体群の一つ。
6.人里植物・雑草・野草の使い分け・・雑草生態学より引用 #
わが国で初めて雑草について学問的に体系化したのは半澤洵(1879~1972)著の「雑草学・全・1910」である。「雑草という名の草はない」との昭和天皇のお言葉は有名。
雑草とは「人類の使用する土地に発生して、人類に直接あるいは間接に損害を与える植物」と定義。また、米国の雑草学会の学術用語委員会が定義した「雑草とは人類の活動と幸福・繁栄に対して、逆らったり、妨害したりする全ての植物」などは、人間の側の意識や価値判断に基づく論説。
一方では「植物としての特性に立脚した」論説もあるが、本書では後者の視点から、「雑草とは人の手の加えられた空間に自然発生し、そこで生活史をまっとうできる一群の植物」と定義。
これまでの雑草の視点は専ら前者の論点にあって「人間の育ててきた作物に対する妨害者」としての見方が態勢であった。
図1.1は笠原安夫(岡大・農学博士)著による草本植物の区分を表にまとめたものである。
山 野 草 .. 自然的破壊によって惹かれた土地に生える。(4000種)
人里植物 .. 人間によって破壊された土地に生える。(400~500種)
雑 草 .. たびたび耕される土地に生える。(450種)
作 物 .. 人間が栽培する植物。(500種)
帰化植物 .. 史前帰化植物を含めて(8百種)
上記の5区分の中で、それぞれの明確な答えに窮してきたが、この図から判ったような気がする。
山野草や人里植物や雑草の区分でも、先の定義やこの図から難題を解明する上で大いに役立っている。
(文責:田代 誠一)
注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。作成にあたり、下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用参考文献】
- 植物の世界2巻 朝日新聞社/大場秀章著
- ニュートン植物の世界 松尾和人著
- 野に咲く花 山と渓谷社/林 弥栄監修
- 雑草生態学 朝倉書店/根元正之編著他4氏
- 身近な植物観察のポイント トンボ出版/浜島繁隆他3氏著
- ほんとの植物観察 他人書館/室井 ひろし著
- 樹木社会学 東京大学出版会/渡邊定元著