自然公園には帰化植物が繁茂し在来種は不安です
身近の野草のなかに地球上の熱帯から温帯にかけて成育する多くの種類が生えているのに気づいていると思う。その故郷をたどっていくと、地球の全域とまでいかなくても「南半球・北半球」の主要地からやってきたのには「植物のしぶとさ」を思い知らされる気がする。
1854年の日米・日英・日露和親条約によって徳川幕府は「下田・箱館」を開港。それ以来150年間に、アメリカセンダングサ・アメリカフウロ・セイヨウタンポポ・オランダミミナグサ・フランスギク等、国際色豊かな帆柱山系の植生に様変わりしてきた。
維新以降の日本は、世界各国との貿易の拡張と共に、野草や花粉や園芸用などの形で少しずつ草本類が侵入。約150年の累積は在来種を駆逐し、中には謳歌するまでに占有地を広げていった。驚くほどの繁殖力はセイタカアワダチソウで体験済みである。
★帰化植物と史前帰化植物の定義
「帰化植物」とは、原色日本帰化植物図鑑・長田武正著・保育社刊から引用すると、「人為的に意識的に、また無意識的に移入された外来植物が野性の状態で見いだされるものをいう」。このように3つの条件が揃うことが必要である。
また、長田武正博士は、江戸時代末期以降、国際交流は伸展し続けて今世紀後半に至るにおいて、多数の種類が侵入した植物群を「新帰化植物」とよんでいる。
これに対して、古代前から渡来したであろうとする「史前帰化植物」と名付けた植物群がある。弥生時代にイネなどの農作物に伴って渡来した可能性が高い植物群である。
(写真・奈良市唐招提寺境内のセイヨウタンポポ)
今回は日本を新天地とする草本類について、原産地をたどりながら帆柱山系での成育ぐあいをまとめてみたいと思う。
1.史前帰化植物とは・・・ #
稲作伝来の頃、移入してきた植物群にイヌタデ・ボントクタデ・イヌビユ・スベリユヒ・ クサムネ・アゼナ・ウリクサ・アキノノゲシ・オナモミ・メナモミ・イヌビユ・ニワホコリ・オヒシバ・エノコログサ・等がある。このほかにも多数あげられている。
この植物群は、弥生時代の頃、日本人の移住と栽培植物の導入に深くかかわった外来植物である。日本での分布状況は、人家や田畑などの人里周辺に限られ、自然林では見られない。
帰化植物にキク科が多いといわれている。前記図鑑に集録した約400種のうち84種、21%はキク科植物が占めると「小野幹雄著・帰化植物にはなぜキク科が多いのか」で述べている。
特に自生植物だと勘違いするほど遥か昔、ヒガンバナは縄文時代に入ってきたのではとの説もある。これも史前帰化植物にはいる。
2.新帰化植物の侵入と帆柱山系・・ #
帆柱山系が市民に開放され、入林が気やすくなったのは戦後の30年代からである。それまでは軍部が厳しく管理し、さらにその昔は山林の機能や効用は地元の一部でしか恩恵を受けることはなかった。
また、山林に出入りするのは人間だけでなく、鳥類の飛来は新帰化植物の繁殖に一役買っていたことも間違いないところである。
新帰化植物の侵入は約150年前に遡るが、帆柱山系では前述の地元事情から外来種の侵入は約50年ほど前から急速にはじまったと見て取れる。
自然植生は、人や鳥が運ぶ種子などによって遷移することは明らかであり、戦後から今日までの短い期間に、身近な周辺で、また自然公園で観察することができるようになった。
自生種と外来種とでは大変よく似通っている種もある。現場で見分けるには何回か観察会に参加することで鑑識力は相当に上達すること間違いない。およそ便宜的に次のように区分してみた。
この植物群は、弥生時代の頃、日本人の移住と栽培植物の導入に深くかかわった外来植物である。日本での分布状況は、人家や田畑などの人里周辺に限られ、自然林では見られない。
a:北アメリカ生まれの侵入植物の代表種
キク科 : アメリカセンダングサ・キクイモ・ハルジオン・ヒメジョオン・ヒメムカシヨモギ・ブタクサ・セイタカアワダチソウ・
その他 : ワルナスビ(ナス科)・アメリカフウロ(フウロソウ科)・ニワゼキショウ(アヤメ科)・アレチマツヨイグサ(アカバナ科)
b:中南米生まれの代表種
キク科 : ハキダメギク・オオアレチノギク・
その他 : マツヨイグサ(アカバナ科)・イモカタバミ(カタバミ科)・メキシコマンネングサ(ベンケイソウ科)
c:西アジア~ヨーロッパが原産の新帰化植物
キク科 : オニノゲシ・セイヨウタンポポ・フランスギク・
その他 : オオイヌノフグリ・タチイヌノフグリ(ゴマノハグサ科)・ヒメオドリコソウ(シソ科)・オオマツヨイグサ(アカバナ科)・ウマゴヤシ・シロツメクサ(マメ科)・オランダミミナグサ(ナデシコ科)・カラスムギ・カモガヤ(イネ科)
d:その他の国々からの新帰化植物
シベリアからカルガヤ(イネ科)・・ アジア熱帯からジュズダマ(イネ科)
地中海・中国・アフリカなどからの帰化植物もあるが、帆柱山系では見あたらないようです。
3.新帰化植物の類似と・・見分けのポイントへ続く・・など #
原産地を辿ると概略「a・b・c・d」の地帯に区分できる。帆柱山系の野草も国際色豊になってきたようで、少しずつ確認していきたいのだが、課題は「似たもの同士」の見分けである。生理生態が似通っていることから判別が難しく、馴染みを遠ざけているようである。
個性豊かな外来種を一括して雑草と呼ぶのは、国際的ではないし、歴史観もないし、変遷を知る上からも、次のような「類似の対比」からスタートすることをお薦めしたい。
(1) セイヨウタンポポc・在来タンポポ
(2) ハキダメギクb・オオアレチノギクb・セイタカアワダチソウa
(3) フランスギクc・ヒメムカシヨモギa・ブタクサa
(4) ヒメジョオンa・ハルジオンa
(5) メキシコマンネングサb・コモチマンネングサ
(6) オオイヌノフグリc・タチイヌノフグリcなど
(7) アレチマツヨイグサa・マツヨイグサb・オオマツヨイグサc
(8) アメリカフウロa・ニワゼキショウa
(9) ヒメオドリコソウc・オドリコソウなど
(10) カルガヤd・カモガヤc・カラスムギcなど
(11) ウマゴヤシc・シロツメクサcなど
(12) オランダミミナグサc・ミミナグサ・ノミノツヅリなど
(13) オニノゲシc・ノゲシ・オニタビラコ・ノアザミなど
4.新帰化植物「セイヨウタンポポ」の生理生態と見分けのポイント・など #
帆柱山系の自然界を謳歌しているダントツは、セイヨウタンポポです。侵略が相当に進んでいると見て取れるのですが、どうして異国の地でこんなにも旺盛なのか不思議な植物です。
そこで、対比植物のトップはタンポポの生理生態からです。次の(1)~(14)項目を熟知すればタンポポ博士まちがいなしです。
(1) 日本語のタンポポの名の由来は、柳田国男の「野草雑記:1940」において「タン」は鼓の音、「ポポ」はその共鳴で、もともと鼓をさす幼稚語であったと述べています。この説が有力。茎を切って水につけておくと、両端がめくれて鼓のように変形します。
(2) 明治初期に札幌農学校が野菜用に北米から種子を導入したのが最初という説もある。今や北海道から都会地でも観察できるし、人間の生活地と同居さえしているようです。
(3) タンポポ属は多年草で、一生をロゼットで生活する。羽状に切れ込んだ葉が地面に放射状に展開し、バラ模様(rosette)のように見えることによる。日当たりのいい場所が適地。
(4) 茎は根際の1㎝ほどの部分だけで、あとで伸びるようなことはない。花茎は中空で、開花期は直立し、咲き終わると倒れ、種子が成熟するまで地面近くで保っています。 (要観察ポイント)
(5)花茎は種子が熟すと再び立ち上がり、周りの草丈より高く伸ばして、冠毛をつけた痩果をできるだけ遠くへ撒き散らす。
(6) 海外のタンポポの多くは倍数体で、無性的に種子を作ることができる無融合生殖の機能をもつ。日本産のタンポポは二媒体で、東北地方から北九州まで広く分布し、頭花の変異によってシナノタンポポ・カントウ・トウカイ・カンサイタンポポなどに種別。
(7) 日本にも倍数体種のタンポポも自生。関東以西に広く見られる五媒体のシロバナタンポポは白い頭花である。単為生殖でセイヨウタンポポと同じ繁殖手法です。
(8) 黄色の頭花を咲かせるセイヨウタンポポは、キク科の特徴の1つである「舌状花」の集合体の頭状花を咲かせることにある。外総苞片が反り返っているのが見分けの1つ。 (要観察ポイント)
(9) 風に飛ばされた種子は、過酷な場所でも、季節を問わずに発芽し、春からほぼ一年中開花するからすごい。反面自生のタンポポは春から秋の間が活動の時期であって、秋に発芽してもロゼットで冬季を過ごし、冬は花を咲かせることはできない。活動期間に相当の格差があり、とても太刀打ちできる相手ではない。
(10) 自生のカンサイタンポポなどは、他家受粉の交配で成熟する生態にあり、周辺に仲間がいないと種子はできない。その点外来種は単為生殖で増やしていくから敵ないっこない。
(11) セイヨウタンポポの学名は「Taraxacum officinale」。英名「dandelion(ダンディライオン)」はギザギザの葉の切れ込みから「ライオンの歯」に見立てて名付けられている。
(12) タンポポの開花時間は田中修著「雑草のはなし」から引用すると、開花は夜間の気温が高いと太陽光が当たりだすと開き、夜間が低温の場合は、気温が上昇すると開く。そのメドはセイヨウタンポポで約13度C、シロバナ・カンサイタンポポで約18度Cである。
(13) 朝に開いたらタンポポの花は、温度や明るさの影響を受けなくて約10時間が経つと閉じるようになっている。だから暗くなった夕方でも咲いていることだってありうるのです。
(14) 最後の項目です。タンポポから乳液がでます。主に裸子植物は樹脂を、双子葉植物は乳液を含むことは重要なポイントです。手についた乳液はべたつくし、固くなる。これこそゴムなのです。乳液の最大の消費はゴム製品向けなのです。これでおしまいです。
(文責:田代 誠一)
注:今回の資料はNPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用として書きとめた内容のものです。資料作成にあたり下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用参考文献】
・ 原色日本帰化植物図鑑 長田武正著/保育社刊
・ 樹木社会学 渡辺定元著/東京大学出版会
・ 雑草のはなし 田中 修著/中公新書刊
・ 植物の世界 タンポポ 森田竜義著/朝日新聞社刊
・ 植物の世界 帰化植物にはなぜキク科が多いのか 小野幹雄著/同上刊
・ 野に咲く花 林 弥栄監修/山と渓谷社刊 他