つる植物の巻きひげは、茎を支える要です
身の回りにはツル性植物がいろいろです。巻きひげが活躍するアサガオ・南瓜・キュウリ・テッセン・ヤブガラシなど・家庭菜園の中だけでも10種類ほど観察できます。
帆柱山系にはツル性植物が約30種棲みついていると思われます。 永年固着性の樹木に寄りかかったり、巻き付いたり、付着したりしておれば、安心して生き続けられるからです。
寄木になった側は大変な迷惑です。ツル類は森のギャングや殺し屋と言われるように、途中で枯れたり、倒れたりの運命が待っているのです。
クズ・アゲビ・ムベ・マタタビ・サルトリイバラなど、ツル性植物の森林内での生活は人間の食糧になったり、観賞植物であったりして、身近な植物なのです。
以前にツル性植物の生きる根性について述べたのですが、今回はツル性植物の運動の一部と巻き付く回旋運動とツルを支える「巻きひげ」について、まとめてみました。
1.植物は動くのです #
植物の運動は動物のように自由に移動することはできない。植物の動きは緩慢であるが、成長過程で、曲がったり、ねじったり、睡眠運動をしたり、向日性や回旋転頭運動をしたり、花を咲かせたり、いろんな動きがある。
このような運動の中から、日頃よく目につくいくつかの動きを掲げてみた。
(写真:ネジバナの捻れの動き・右巻き左巻きの両方がある。)
1)屈曲運動とは・・
植物体は固定しているので自由な動きはできない。しかし、植物体を曲げたり、ねじったりすることで体の位置を変えることができる。これを屈曲運動という。
ア) 屈曲運動が起こるのは、植物体に外部から何らかの刺激が加わることが原因になっている。光の方向・水分・温度の変化が刺激になって植物体内のホルモンを変えて、曲げたりねじれたりする運動となる。
イ) 刺激の方向に曲がる反応を「正の屈性」、逆に遠ざかる反応を「負の屈性」と呼ぶ。
2)睡眠運動・葉枕
カタバミ・ネムノキ・オジギソウは夜になると小葉が閉じたりして睡眠に入る。翌朝に光が照りだすと再び小葉を開く。これを睡眠運動という。光が刺激となる現象。
ア) オジギソウの葉に触れると睡眠運動が起きるのは、小葉のつけ根の膨らんだ部分に「葉枕」があって、この細胞の中の水分移動が何らかの刺激になって、すばやく小葉がたたまれる現象を起こす。
イ) マメ科植物の葉の光傾性である睡眠運動は、葉身と葉柄基部に存在する葉枕は、昼間は葉枕の下側(背軸側)組織が、夜間は上側(向軸側)組織が吸水して膨張することによって葉の上下運動がおきる。
ウ) 夕方になると花を閉じるマツバボタン・ガザニア・マツバギク・カタバミ・ムラサキカタバミなどがあるが、身近なアサガオについては少し詳しくまとめてみた。下記へ・・
3)接触屈性とは・・
接触屈性とは、植物体が硬い物体に接触すると起きる成長運動を接触屈性と呼ぶ。ツル性植物の巻きひげの接触屈性は代表例。巻きひげは枝・葉身・葉柄・小葉・托葉・根などが変態したもの。
ア) 若い巻きひげは先端を不規則に動かしながら伸長する。これを回旋転頭運動という。巻きひげが支柱などの物体に触れると、数分以内に接触した側の細胞は収縮を始め、反対側の細胞は急速に伸長を始める。その結果、巻きひげは支柱に巻き付く。
イ) 細胞の収縮は膨圧運動に、細胞の伸長は成長運動によっている。巻きひげが支柱に巻き付くと伸長成長はやがて停止し、巻きひげの基部は偏差成長によりコイル状になる。
ウ) 巻きひげは背腹性を持ち、背部は凸型をしている。刺激の感受は植物によって異なる。腹側で刺激を感受するもの(キュウリ)、両側で感受するもの(ブドウ)、がある。
エ) 巻きひげの運動に収縮性タンパク質が関与。また、オーキシンは背側の細胞の伸長を促進することで関与。
4)アサガオの光周性・・季節による開花時刻の違い
野外に植えたアサガオの開花時刻は季節によって大きく異なる。アサガオの花はどの季節でも日没後8~10時間目に開花することと、夏から秋にかけて日没から開花までの所要時間は徐々に短くなる。
7月中旬頃は夜明け頃が開花、10月中旬頃は夜明け前の暗い頃に開花。(早く日没になる。 日没後8~10時間で開花)
★日の長さと開花期・・光周性の発見
今世紀の初め、アメリカの農務省の研究所で、ガーナーとアラードは、タバコやダイズ、その他の植物種子を使って開花期の研究をすすめた。その結果・・・
日の長さがある程度以上短くなると花芽を形成し、また日長がある程度以上長くなると、 花芽を形成することを知った。これを短日植物・長日植物という。このように植物が日の 長さ(明暗周期)に反応する性質を光周性と呼ぶ。無関係な植物を中性植物という。
各グループに属する植物は、
短日植物:キク・コスモス・ダイズ・ケイトウ・アサガオ・オナモミ
長日植物:コムギ・ホウレンソウ・ムシトリナデシコ・ルリハコベ
中性植物:ヒマワリ・トマト・ペチュニア・プリムラ・パンジー など。
5) 温度と開花時刻
開花時刻を決める環境要因は、温度と光条件で湿度はあまり影響がないと言われている。温度が低いほどアサガオは早く開花し、温度が1℃低いと約15分間も早く開花する。
アサガオは、夏から秋にかけて外気温が少し下がってくるが、それにつれて開花までの時間が少しずつ短くなる。秋季には温度の低下が顕著になり、夜明け前に開花していることが観察できる。
6)オオマツヨイグサの開花時刻
オオマツヨイグサは夕方(日没前後)に開花するクセがある。雨天の日は快晴の日より30分早く開花。開花時刻を決める要因が光の強さにある。
毎日の夜明け、夕暮れの光信号にリセットされるので、暗くなる条件を早めると、開花時刻も早くなる。光が強いと開花せずに、弱くなると開花する。
2.右巻き・左巻き・巻きひげ・などの回旋転頭運動 #
植物の上長生長はまっすぐ上向きに伸びていくのではなく、先端部は円を描くような動きをしながら伸びていく。こけを回旋転頭運動という。
ア) アサガオの茎もこのような動きしながら巻き付くものを探しながら成長する。茎には物に触れたことを感じる感覚毛が一列に並んでいて、この毛が物に触れると、今までの動きが急に変わり、触った方向に曲がり始める。巻き付く大きさは5~6㎝以上の物には巻き付かないという。アサガオ棚の参考に・・
イ) 鈴木三男著「植物の右と左」及び「よじ登り植物の生存戦略」によれば、ヤマフジ・クズ・アケビ・ヒルガオ・マタタビ・ヤマノイモ・ウマノスズクサ・などは右巻きである。
ウ) 左巻きの植物は、フジ・スイカズラ・ヘクソカズラ・カナムグラ・マツブサ・ツルリンドウ・オニドコロオなど。普通のネジと同じ巻き方が右巻き。
エ) ブドウ科・ウリ科・マメ科などの植物には巻きひげが見られる。葉身(スイートピー)、羽状複葉の小葉(エンドウ)・托葉(サルトリイバラ)・枝(ブドウ・トケイソウ)など、さまざま部分が糸状となり、それを触手のように伸ばして他物にからみつく。
オ) いったんからみついた後に中間点付近を起点に、その先と手前で互いに逆方向に巻いてスプリングのようになって、これで懸垂し、植物体を安定させる。 植物体の保持という点では極めて安定したやり方であり、自然界の驚異的な仕組みに唖然。
カ) ホダンズルやテッセンなどでは、細長い葉柄と小葉柄が他物に数回巻き付き、つるを安定させる。他のつる類にない「厳重な結束」を観察。ウームなかなかの技です。
(文責:田代 誠一)
注:今回の資料はNPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用として書きとめた内容のものです。資料作成にあたり下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用参考文献】
樹木社会学 東京大学出版会/渡邊定元著
植物生理学 放送大学教育振興会/増田芳雄他著
植物学入門講座 植物の体制3 加島書店/井上 浩著
植物の世界 植物も言葉を操る 朝日新聞社刊/高林純示著
植物の世界 植物の右と左め 朝日新聞社刊/鈴木三男著ほか
植物の世界 植物ホルモンとそのはたらき 同上刊/勝見允行著
新版生態学 放送大学教育振興会/藤井宏一他著