つる性の根性は、地球上に遅れて誕生したことによるらしい
森林林業にとって「つる性植物」は大敵である。林業家は苗木から成木になるまでの間の保育作業に「つる切り」という工程を計画する。真っ直ぐな樹木の成長を誘導する上で欠かせない作業である。人間が手助けすることで成木を助長する。
ところで、つる性植物の言い分は「我々の体は形成層の繊維組織よりも、細くて・長くて・早くをモットーに、寄りかかって・絡んで・吸いついて、生きていく植物なんです」。どうも他人の迷惑は眼中にないようである。人間の生活者の中にもそういう人が居るようですが・・。
帆柱山系は80~100年生のスギ・ヒノキ人工林が多いことと、100年を越える照葉樹林の林分構成からして、大型の「つる性植物」の繁殖には適地といえる。つるの大きさも大根よりも太いのがあるから幹と間違いそうになる。
今回の課題は、つる性の「つる・葉・花」を三位一体的に観察することで、落葉性のつるでも年中観察できるようにという思い込みから、以下にその要点をまとめたつもりなのですが・。
1.他の植物にうち勝つための「つる性植物の戦略」 #
つる性植物は、草でも木でもない第3の植物群として区別されている。・・・(東北大学理学部助教授・鈴木三男著・「よじ登り植物の生存戦略」より引用・以下同じ)・・・
地上部の茎の部分が1年で枯れてしまう草本性(ヘチマやアサガオ)のものと、毎年太る木本性(フジやサルナシ)のものがあり、形態的、生態的にも草と木とは違ったカテゴリーに入ることがわかる。戦略の要点は・・・
A) つる性植物、即ち「よじ登り植物」がとった一番の戦術は、丈夫で自立した茎を造るための資材を、長い蔓を短時間に造る方に向けたことである。
B) 樹木は大量の枝葉を支える丈夫な幹をつくるために、長い時間をかけて形成層の活動で木部を大量につくるとともに、道管、師管も大量に造成している。それらは葉に水を送り、光合成産物を他の部分に分配するパイプラインの働きをしている。
C) それに対して、つる植物は繊維組織はわずかで、しかも大きな道管や師管を少量しか造らない。太い道管や師管は大量の水や養分を効率よく運ぶのには適するが、構造上は脆弱である。花は放射相称で小さく、4または5の数生の完全花。
D) 毎年地上部が枯れる草本性のつると、木質化して残る木本性のつるがある。ブドウ科は、木本性のつるになる種が殆どだが、少数の変わり種も含む。
つる性の種は、葉は互生し、有柄、単葉、掌状、叉は羽状複葉で落葉性の托葉をもつ。 葉に対生する巻きひげがあり、これが植物体を支える役目をする。巻きひげは茎の変化したもので、葉と対生している。栽培ブドウ・ヤマブドウ・ツタ・ヤブガラシなどが仲間内。
2.よじ登るための「つる植物の戦略」 #
自立できる茎を造らないつる植物は、他の草や木の上に立つにはよじ登らなければならない。つる植物の進化の過程で、その植物群のもつ遺伝的な性質とさまざまな試みの結果として、いろんなよじ登り方法が生まれてきた。被子植物に見られるものを類型化すると、次の5タイプが考えられる。
・寄りかかり型 ヒヨドリジョウゴ・ツルウメモドキなど
・巻きつき型 フジ・アケビ・など (右巻き・左巻き)
・鉤かけ型 カギカズラ・カナムムグラ・など
・巻きひげ型 ブドウ科・ウリ科・マメ科など
・付着型 キズタ(気根)・ツタ(吸盤)
草本性・木本性にかかわらず多くのつる植物は、多かれ少なかれ形成層の活動によりつるがだんだん太る。急速に太る例としてフジがあげられる。サルトリイバラは肥大成長を全くしない。
また、よじ登り植物の弱点は、寄生者がはびこって宿主が十分に光合成ができなくなると、折損・枯損・倒木・枯死など致命的なダメージが宿主側に発生する。宿主の死は寄生者の死に直結するのは明らかである。運命共同体にあることをつる植物は知らない。
3.帆柱山系のつる性植物の要点・・・結構多いんです・詳細は別項へ。 #
ワク内にそれぞれの科の要点を、また★印の項には似たもの同士の対比をまとめ、つる性植物の項で書き尽くせないものを補足したものです。
マメ科の特徴は、キク科・ラン科に次いで大きな科。
A) 1枚の心皮からなる果皮が子葉種子を包む、という果実の構造。(子葉をもつ)
B) 葉は互生し托葉がある、3小葉から羽状複葉が多い。
C) 葉や小葉の基部に膨らんだ部分があって就眠運動する。
D) この他に、土壌中の根粒菌と共生して空中の窒素を養分にする。などが特徴。
農業上の重要性はイネ科に一歩譲るが、総合的な有用性はマメ類に勝る植物はない。利用範囲は多岐にわたっている。利用される種類は極めて多い。
クロンキストの分類体系にに従い、マメ類を3科からなるマメ目としている。花弁より長い雄しべ雌しべをもつ放射相称花をつけるムネノキ科、旗弁が内側にあるジャケツイバラ科、蝶形花をつけるマメ科の3科をマメ目としている。
ネムノキの長い赤紅色の毛は花糸といい、たいていは色がついている。昆虫や動物には花弁に代わる目印になる。マメ科の花は蝶形で花弁が3種類に分化する。目立つ旗弁、黒い斑紋のある翼弁、さらに翼弁の中に小型の竜骨弁がある。
キョウチクトウ科は、その多くは有毒で、有毒成分は200種以上もあるアルカロイドである。この毒は古くから矢毒として用いられた。
マダガスカル島の乾燥地の主役はバオバオ。よく似たパキボディウムゲアイは、太く膨らんだ女性的な樹形は、1年間全く雨が降らないでも耐えうるように水をたっぷり含む。
同じ仲間のニチニチソウ(日日草・日々新しい花に咲き替わることから)はこの島が原産地。ニチニチソウの薬効成分を抽出するために営利栽培始まる。
このほか身近にはサカキカズラ・テイカカズラ・キョウチクトウなどがあり、容姿は全く異なるが同じ仲間内である。
4.ガガイモ科とアサギマダラチョウの生活史・・・ #
ガガイモ科は、虫媒花をを発達させた進化の一つの頂点に立つ植物群と考えられている。
それは5本の雄しべと、内側の2本の雌しべを合着させて肉柱体という特別な筒をつくっていることと、花粉を集めて花粉塊という団子を作り出したことによっている。筒には縦に5本の隙間が開いている。
ペリプロカ亜科・セカモネ亜科は花粉塊をつくらない。日本には9属33種が知られているが、いずれもトウワタ亜科で花粉塊をつくる。
花は大きくないが、形・色・香り・の三拍子揃っていて昆虫を招く。キョウチクトウ科から進化してきたと推測される。両者は有毒な乳液をもつことや、つる性植物が多いことなど、共通の性質が多い。
ガガイモ・イケマ・フウセントウワタなどが同じ仲間。イエライシャンは中国原産のつる性植物で、花の香りは脂粉のようだという。花は野菜として扱われ、民間薬にも利用。
◆ アサギマダラ蝶の生活
有毒なカガイモ科植物を食草としているのが、マダラチョウの仲間である。アサギマダラは九州南部から本州中部の山岳地にかけて渡りをするらしいことがわかってきた。
低地では幼虫の状態で常緑のキジョランの葉で越冬する。冬の宿。春になって気温が上昇すると、幼虫はキジョランの葉を食べて成長し、やがて羽化して夏場の生活地である山岳地へと登っていく。
5月末頃の山岳地では、イケマが地中から新芽を伸ばしてくると、さつそくイケマの若葉に産卵する。
(写真:右左:アサギマダラ蝶)
5.よく似たツル性の対比で、見分けのポイントを #
★ イワガラミと〈ツルアジサイ〉の対比
ユキノシタ科〈ユキノシタ科〉・葉は対生〈対生〉・葉身は広卵形〈楕円形~長楕円形〉・葉柄は3~12㎝〈3~9㎝〉・葉脈上に粗毛・裏面脈上に軟毛・〈粗毛・裏面脈上に軟毛〉・葉縁は大きな鋭鋸歯〈細かい鋭鋸歯〉・葉先は鋭尖頭か鋭頭〈急に鋭頭〉・花は5~7月〈5~6月〉・装飾花1枚〈4枚〉
★ アケビと〈ムベ〉の対比
アケビ科〈アケビ科〉・落葉性灌木〈常緑性藤本〉・5小葉の長柄掌状複葉〈5~7個の掌状複葉〉・全縁で先端凹頭〈先端は尖る〉・雌雄同株〈雌雄同株〉・花期4~5月〈4~5月〉
★ キヅタと〈ツタ〉の対比
ウコギ科〈ブドウ科〉・常緑性灌木〈落葉つる性藤本〉・別名フユヅタ〈ナツヅタ〉・気根で登る〈巻きひげは分岐し先端に吸盤がある〉・樹皮は灰色〈黒褐色〉・花序のつく枝の葉は楕円形で全縁〈花序のつく短枝の葉は大きく長柄で3裂し先端は鋭く尖り、縁は芒状の鋸歯がまばら〉・互生で葉身は掌状に浅く3~5裂〈花のつかない長枝の葉は小さく短柄、切れ込みはないもの~3裂〉・花期は10~12月〈6~7月〉
(文責:田代 誠一)
注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。お互いが研鑽しながら自然環境の大切さに取り組んでいます。今回の資料作成にあたり、下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用参考資料】
・フェンスの植物 石井由紀著/山と渓谷社
・よじ登り植物の生存戦略 鈴木三男著/朝日百科ほか
・野草図鑑つる植物の巻 長田武正著/保育社
・樹に咲く花1~3巻 高橋秀男監修/山と渓谷社
・牧野日本植物図鑑 牧野富太郎著/北隆館 ほか