帆柱山系では6月初旬頃からウツギ類の花を、中頃からはアジサイ類の花を楽しむことができます。道路沿いに多いウツギ類と林縁の日陰に見られるアジサイ類は、自生のものは少なく、公園整備の中で人為的に持ち込まれたものが多いようです。
今年は梅雨入り後、日照り続きで降雨が待ち遠しいところですが、水不足のために花の色合いは例年の鮮やかさに欠けており、樹木も野草も乾ききっています。
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1.はじめに「ウツギとアジサイ」の分類 #
スイカズラ科とアジサイ科などの4科に「ウツギ」と名の付く植物が分類されています。ウツギ(空木)は幹の内部が空洞になっている木の総称であって、こんなに多くの空木(ウツギ)があると、ひと言で「ウツギ」は語れそうにありません。ことに、アジサイ科には「ウツギ」と「アジサイ」が同居していることで、ちょっと混乱が起きそうです。
以下の分類はクロンキストの体系によるもので、他の図鑑ではアジサイ科をユキノシタ科に分類しているものもあります。それも間違いではないのですが、ここでは新しい分類学を採用。
特に九州に自生していないウツギ類、アジサイ類は除いていますが、参考資料として必要な種は概括的に取り上げています。
注・「太字」は帆柱山系の植生調査で記録されたもの・「下線つき」は対比の上で必要な種である。
科 | 属 | 種 |
スイカズラ科 | タニウツギ属 | タニウツギ属 ツクシヤブウツギ・ハコネウツギ・ニシキウツギ (タニウツギ・ヤブウツギは九州に自生していない) |
〃 | ツクバネウツギ属 | ツクバネウツギ属 ツクバネウツギ・コツクバネウツギ・オオツクバネウツギ |
アジサイ科 | アジサイ属 | ガクウツギ・コガクウツギ・ノリウツギ・ガクアジサイ・アジサイ・ヤマアジサイ・ツルアジサイ |
〃 | ウツギ属 | ウツギ・マルバウツギ |
〃 | バイカウツギ属 | バイカウツギ |
バラ科 | コゴメウツギ属 | コゴメウツギ |
ミツバウツギ科 | ツバウツギ属 | ミツバウツギ |
2.アジサイ科とはどんな種属ですか・・? #
アジサイ科の要約
(A) アジサイ科は1980年代に入ってからユキノシタ科から独立した新しい分類体系。
低木から小高木または多年生の根茎をもつ草本・つる性の種も含む。
(B) 多くは托葉のない単葉を対生する。クサアジサイ属では互生。
(C) 花は普通は小型で多数が集散または円錐状の花序に両性花をつける。
(D) 4~5数性の放射相称花・雄しべは花弁やがく片の2倍数ある。また同数か減少もある。
(E) アジサイ科は次の3属で大半を占める。
種数の多い属はバイカウツギ属=約65種・ウツギ属=約50種・アジサイ属=約30種
多くは観賞用で栽培品種も育成。
アジサイ科・アジサイ属の特徴
(A) ガクウツギやコガクウツギとアジサイ類は同族関係にあり、よく観察するとクロンキストの分類が納得できる。ハコネウツギはスイカズラ科に分類。
(B) 花序の周囲に中性花・中性花は3~5個のがく片・雄序は花びらの2~4倍数で・正常花は小形。
(C) 落葉低木・葉は対生し托葉はない・時には輪生葉・葉には細かい鋸歯・多くは木陰に成育している・ガクアジサイとノリウツギは日当たりのよいところに生える。
(D) ガクアジサイの花序の中心部にある小さな花が本来の花で、周辺のがく片が大きくなったものを装飾花といい、目立たない花に代わって昆虫を誘引する働きをしている。
(E) アジサイはガクアジサイの小さな花の分野まで装飾花にしてしまったのがアジサイの花・アジサイ属の本来の花は内側の小さい花であって正常花である。
アジサイ科・ウツギ属の特徴 (=ウツギ・マルバウツギなど)
(A) 木本の多くは落葉低木・髄は中空となるものが多い・栽培種も多い・材の有用性はない(ウツギは木釘・ノリウツギはパイプ・樹皮の糊を和紙製造に用いる程度)
(B) 葉は対生又は輪生・托葉はない・葉は羽状脈・花序には中性花がない・花は中形または大形・花は5数で雄しべの数は花弁の2倍・花柱は離生・各部に星状毛あり。
(C) 花弁がく片とも5個・雄しべは10個・花は白色が多く円錐花序か集散花序。
アジサイ科・バイカウツギ属の特徴 (=バイカウツギなど)
(A) バイカウツギ属は約65種あり、北半球の温帯に分布する。山の斜面に生える。
(B) 全体に短毛があり、星状毛をもたない。4数性で子房下位。
(C) 開花時には水平に開く。和名は花がウメの花を思わせることによる。
3.「アジサイ」は国際的な花です ヨーロッパ帰りで種類も豊富・・・各種対比 #
(A) アジサイは花色が日々微妙に変わることから「七変化」とか、花弁(がく片)が4枚であることから「四ひら」の別名がある。「紫陽花」は夏の季語。
(B) 万葉集にも登場・奈良時代すでに愛好されていた。「紫陽花」と書くのは白楽天の詩に、「招賢寺に山花一樹あり 人その名を知るものなし 色は紫色に花は香り宿し 芳麗にしてまことに愛すべし よりて紫陽花と名づく」・・これを平安時代に「和名類聚抄・931~938」をまとめた源順(ミナモトノシタゴウ)がアジサイと解したことが出発点・以後広まる。
(C) 江戸時代後期にシーボルトは愛人「お滝さん」にちなむ学名をつけたことは有名・現在は使われていない・学名はHydrangea otaksa(ハイドランジャ オタクサ)。
(D) 日本原産のアジサイを、ヨーロッパにシーボルトよりも早く紹介したのは、1789年バンスク卿がキャプテン・クックの航海に同行し、中国に渡っていたのを英国の王立キュー植物園に持ち帰ったのが最初。以後各国で愛好され、品種改良がすすみ「ハイドランジア」と名付けて各国で商品化されている。
(E) セイヨウアジサイは日本産「ガクアジサイ」を園芸品種に改良したものを逆輸入。いろんな種類がある。「アベ マリア→鉢物用に品種改良」・「マダム プルム コワ」など。「隅田の花火」はガクアジサイの改良種。「ベニガク・七段花」はヤマアジサイを改良。
(E) 甘茶生産の目的で栽培されているのはヤマアジサイとアマチャである。砂糖が普及する前までは甘味料として用いた。フィロズルチン配糖体を含有。葉を乾燥させ発酵させたものを使う。4月8日の灌仏会では誕生仏に甘茶を注ぐ行事がある。
【参考資料】
・ 植物の世界 朝日新聞社
・ 日本林業樹木図鑑 株式会社地球社
・ 葉でわかる樹木 新濃毎日新聞社
・ 九州の花図 海鳥社 など