どうして他の木と同じように開花・結実をしないのか・・
10月から11月にかけてシロダモノの木は年中でいちばん多忙の時季を迎える。雄木は花粉を飛ばせば用済みであるが、雌木は花を咲かせ、片や赤い実が成熟を迎えるからである。
なぜ、他の樹種と同じような生活リズムを採用しないのか不思議でならない。年中苦労を背負っているようなものだ。
1.多くの樹種は春季に開花し秋季に結実するのだが、シロダモは秋季に花を開く。暖温帯林の分布域を占める当地で、寒気に向かうこの季節に木本類の開花はめずらしい。
2.シロダモは普通のタイプとはことなり、一年後の翌秋季に結実。一般的にいって親子関係が長いのはなぜか。カゴノキは8~9月に開花し、翌年の秋に赤く熟す。
3.雌木は開花と赤く成熟した実とが同時展開することで、相当のエネルギーを消費すると思うのだが・・。なぜこんな苦労を背負っているのだろうか。
4.他の樹種にくらべて加重労働のような気がする。他とは違う何か特別な機能をもっているのか、特殊な生活リズムなどがシロダモには備わっているのかな・・・?
5.秋季に赤い実をつける樹種は、クロガネモチ・ガマズミ・アオキ・ナンテン・タラヨウ・アキグミ・ムラサキシキブ (紫)などがあるが、みな開花から約半年で赤熟する樹種。
(写真:11月5日撮影・・開花と1年生と2年生の果実)
1.シロダモを知る・・原色日本林業樹木図鑑から #
1.クスノキ科・シロダモ属・シロダモの分布・生育地は、本州(宮城・新潟県以南)・四国・九州・南朝鮮・琉球・台湾などの暖帯地方に広く分布し、とくに沿岸地に多い。雌雄異株。
2.常緑の小木~高木、樹皮は帯緑暗褐色で平滑で小さい丸い皮目が多い。材は緻密であるがやや軟らかく、建築材・器具材・薪炭材に利用する。種子から蝋燭用の蝋を搾りとる。
3.葉は互生、全縁で枝先に叢生し2~3年は残る、葉身は長さ12㎝前後、幅は6㎝程の長楕円形または卵状長楕円形。若葉は下垂し黄褐色毛を密生する。
4.成葉の表面は無毛となり、光沢があり、裏面は粉白色で絹白色の長毛を残存する。葉脈は両面に隆起し、3主脈で、主脈はさらに2~4対の側脈を出す。
5.花は10月~11月に黄緑色の花を開く、本年枝の葉腋に1~数個の無柄散形花序を密集し、雄花は雌花より大きい。液果は翌年の10~11月に紅熟し、果柄の先は太くなる。
2.シロダモの名の由来・・・木の名の由来・深津 正著参照 #
シロダモの由来は葉の裏が白いことによるという説もある。別名はシロタブ。その他に「倉田悟著・日本主要樹木名方言集」によれば、アサダ(高地・香川・徳島)、ウラジロ(佐渡・埼玉・愛媛)、キタタブ(日向)、キノミ(直入)、キノミタブ(出水)、など74の方言をまとめているが、タブ・タマ・タマノキ・タマガラ・タマクサ・タモ・ダモ・タモノキなど「タブノキ」に近縁の呼び名が多く感じられる。
1.クスノキ科のヤブニッケイはクロダモの別名をもつ。タブノキはタモノキと呼ぶ。シロダモはシロタブと呼ばれているように、タモはタブノキを基本語として派生したもの。
2.タブノキの方言にタマグス(三宅島・千葉・静岡・三重・和歌山・島根・山口・宮崎)、タマノキ(福井・静岡・三重)、アオタブ(大分・鹿児島)などの方言がある。
3.タブの語源は丸木舟を意味する朝鮮語(ton‐bai)に由来する。タブノキは昔から丸木舟の建造原木であったことによる。また、朝鮮語に「トングル・イ」という丸いものをさす言葉から、ドングリが派生したとする説もある。
4.シロダモは葉裏が白いことから、ヤブニッケイは実が黒いことからクロダモと呼び、トネリコをシロタモ、ヤチダモをアカダモというのは、材の色からきた名であろう。
(写真:シロダモの雌花と1年生の生長途中の果実)
3.課題の解明に向かって・・ #
前章の項で述べたように、「なぜ秋を活動期とするのか、苦労の背負いすぎではないか」など、疑問点の解明が以下の項目で少しでも役立てればいいのですが・・・。
1.シロダモは雌雄異株で雄木と雌木が独立している。虫媒花で動物散布の様式で子孫繁栄をはかっている。雌雄異株で虫媒花の形態は、照葉樹の中でもかなり進化した形態である。
2.秋の開花は冬季に向かう時季がら生きのびる厳しさを感じてしまうのですが、それでも2年後の秋には結実する力強さをもっている。春に開花の落葉性の果実は、約7ヶ月後には成熟するため短期促成型の果実ですが、「暖温帯性の常緑樹」はそんなに急ぐ必要はないのです。
3.このような環境に適応できるシロダモのほか、皿倉山では他に類例をみない。特に開花と成熟が同時に観察できる種類はシロダモにかぎるのです。
4.開花と結実が同時に観察できる樹種は、落葉樹にはありえないのです。それは常緑樹の仲間にかぎられることであり、実の成熟に2年かかるとなれば、当然落葉樹ではありえない話です。
(写真:シロダモの雄花)
5.通称ドングリの中で落葉性のブナ属とコナラ亜属(ウバメガシを除く)は、約7ヶ月で結 実するため秋の黄葉期はドングリ拾いの適期である。短期促成型の実なのです。
6.常緑性のアカガシ亜属とシイ属・マテバシイ属などは、今年の春先に伸びた雌花序は、花粉交配のあとじっくり子房を生長させつつ、翌年の秋までにドングリとして成熟。
7.照葉樹の中でも最も耐寒性の強い木であること、シーズン毎に落葉を繰り返す落葉樹に比べて、常緑樹はじっくり構える生活様式がみられる。
8.シロダモの同時開花と成熟は当たり前のことかもしれない。少し心配しすぎかな・・・。
(文責:田代 誠一)
【参考資料】
樹木社会学 渡邊定元著 東京大学出版会
植物の世界11巻 清水建美著 朝日新聞社
植物学入門講座2 井上浩著 加島書店
花ごよみ種ごよみ 高橋新一著 文一総合出版 ほか