植物の名前を知る方法は、分布域・落葉か常緑・葉序(対生か互生)・複葉(羽状か掌状)・葉縁(全縁か鋸歯縁)等を手がかりにして、「タブノキとか、クマノミズキとか」を判断する方法が普通のやり方です。 その他に葉身の一部である「托葉・葉柄」も捨てがたい判断因子ですが、主脈・側脈は意外と重要視されていないようです。
そこで今回は葉脈を課題として、色んな角度から探究してみたいと思います。 ところで「葉」のつくりの部首「くさかんむり」を除いた字体は、薄くて平たいものを表わすときに使われます。「蝶」はひらひらした薄い翅の虫というわけです。魚へんと合体すると「鰈・カレイ」ですが、平べったく感じますね。 植物の葉は薄くて平らだから「草かんむり」をつけて「葉」になります。なるほど漢字の作りに納得ですね。参考までに似た漢字は、「喋・牒・諜・楪・渫」なとがあります。さて、どの漢字も「薄ぺらで、平ら」の意味を含むものですが、内容は意味深長です。よく吟味してください。
喋・・・しゃべる
牒・・・官庁間の往復文書、移牒、通牒、 札( 符牒 )
諜・・・ 諜報、 諜者、間諜
楪・・・ ゆずりは、トウダイクサ科・常緑小高木
渫・・・(せつ、さらう)
1.葉脈+葉柄+気孔=葉身のはたらき #
葉脈の中心となる太い筋状の脈を主脈、そこから側方に枝分かれしている葉脈を側脈と呼びます。葉脈には水分や養分を送る維管束(師部と木部)が通っています。 維管束は植物体の全体を結んでいます。根で吸収した水分は維管束(木部の道管)を通じて葉まで運ばれます。葉で光合成によって作り出された養分は、維管束(師管)を通じて植物体の各部分へ運ばれます。
(1) このように主脈、側脈をうまく配列して光合成生産量の機能向上を図っているのですが、機能低下の葉身は落葉の運命が待っているのです。
(2) 常緑樹は一般的に葉身が厚めです。従って、重くなった葉身を支持する葉柄は短かいのです。ユズリハ、アオキは長めの葉柄ですが、枝先に集中する生え方のため長い柄が必要なのです。落葉性の葉柄は、一般的に常緑に比べて長柄のようです。(今後の追求課題)
(3) 向軸面や背軸面には呼吸機能の気孔があります。最も重要な器官なのですが、太陽光を吸収するうえで水平方向を支持するのは葉脈と葉柄の役割なのです。葉の細胞が水分を含んで膨圧をもっていることとも関係します。両方がそろってこそ光合成活動ができるのです。
(4) 気孔の存在事態は意外と知られていません。落葉性では春から秋までが光合成の生産期間です。この間の短い期間に耐える構造でしかないのが落葉性の葉身です。
(5) 葉全体に網目状の葉脈の広がりは双子葉植物に一般的です。網状脈系と呼んでいますが、羽状脈系・掌状脈系・鳥足状脈系に分かれます。このほかに平行脈、三行脈があります。 この葉脈を観察することで識別の重要なポイントになります。
(6) 特に落葉樹の羽状脈や掌状脈は、葉身の隅々まで張りめぐらし、機能向上を図っています。障子を思い出してください。障子に桟がなかったら障子紙は貼れないのに似ていませんか。
2.葉脈は植物の手相みたいです。種類ごとに手相は同じです。 #
(1) 二叉脈は1本の脈が二叉状に分かれ、さらに二叉に分かれることの繰り返しの脈です。イチョウの葉脈に見られます。
(2) 平行脈は単子葉植物によく見られます。葉身の基部から葉先にかけて何本も葉脈が走っています。葉脈にそって縦に裂けやすいのですが、横向きには裂けにくくなっています。タケの葉は平行脈です。アヤメやイネもそうです。
(3) 帆柱山系の落葉樹62種と常緑樹32種について、主脈と側脈の配列状態を観察したところ、羽状脈、掌状脈、鳥足状脈・三行脈をもつ樹種は次のとおりです。
★単子葉植物で最も一般的な葉脈は平行脈系です。サルトリイバラ・ヤマカシュウが代表例です。
★双子葉植物で最も多いのは羽状脈系です。次が掌状脈系です。
<羽状脈系>
ヤマサクラ・イヌシデ・カマツカ・ミズキ・ヤマボウシ・リョウブ・ケヤキ・エノキ・ムクノキ・キブシ・エゴノキなど
・・・落葉性40種
ウバメガシ・スダジイ・マテバシイ・タブノキ・カゴノキ・ヤブツバキ・モッコク・サカキ・クロガネモチ・ヤマモモなど
・・・常緑性27種
<掌状脈系>
アカメガシワ・ガマズミ・ゴマギ・ヤブデマリ・クサギ・ヤマグワ・アケビ・マタタビ・ハナノキ・イワガラミ・ツルアジサイなど
・・・落葉性16種
カクレミノ
・・・常緑性1種
<鳥足状脈系>
木本類にはありません。参考例・フキ
<三行脈系>
イヌビワ
・・・落葉性1種
クスノキ・ヤブニッケイ・シロダモ・ムベなど
・・・常緑性4種
3.なぜ羽状脈系が多いのでしょうか・・? #
帆柱山系の落葉性の羽状脈系は40種、常緑性の羽状脈系27種の数量は「大半を占める」と言える量です。それほど羽状脈系は多いのです。さて、問題はなぜ多いのでしょうか・・。
(1) 落葉性の葉身は短期促成型で、短期間の光合成活動に耐え、その間の機能維持を図るために、主脈・側脈がよく発達し、薄い葉を支えているタイプです。
(2) 羽状脈系の葉身は、長楕円形・狭長卵形・卵状楕円形・皮針形などのタイプが多く、羽状脈の配列は水分や養分を運ぶのに最も合理的であると考えられます。
(3) 掌状脈系の葉身は、アカメガシワに見られるように円形のものが多く、葉脚の基部から葉縁に向かって走る側脈の配列は、葉身の維持機能に対して最適な構造といえます。
(4) 常緑樹の掌状脈系は、カクレミノの1種だけです。と言うことは長期間の使用に耐える「厚みのある葉」には不向きな脈系だと言えそうです。
(5) 常緑性の葉身は長期間光合成活動を続けていくために、主脈中心に全体を肉厚に仕上げています。葉身の支持では、側脈に期待していない様子が見えかくれします。
(6) 常緑性の側脈は、発達が不明瞭とされるものが19種もあるのですが、だからといって側脈を不要扱いしているわけではありません。極細の側脈の割合が多いのです。
(文責:田代誠一)
【参考資料】
・ 植物の世界 朝日新聞社/日本林業樹木図鑑・株式会社地球社
・ 葉でわかる樹木 馬場多久男著/信濃毎日新聞社
・ 植物観察入門 西野栄正著/倍風館ほか