万葉集 秋の七草散策 その1 #
万葉歌の時代は100年あまりにわたり、大化の改新(645)から激動の時代のできごとを表現したものになっています。
万葉集は一時期にできたものではなく少しずつ増大していったもの。万葉集全20巻は全歌数約4500首を集録。そのうち短歌4000余首、長歌265首、旋頭歌62首などを含む。
作者の階層は天皇から貴族・下級官吏・農漁民・防人・遊芸人などにわたり、多彩で多様性に富んだ歌集です。中でも有名なのは額田王・柿本人麿・山部赤人・山上憶良・大伴旅人(筑紫文壇の中心)・大伴家持など多士済々です。
山上憶良詠歌「萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花また藤袴、朝顔の花」 1538
萩の花 ヤマハギ (マメ科)
ハギは万葉集に最も多く出現(141首)し、秋を代表する7草のひとつ。ハギという植物はなく、ハギ属植物の総称として使われている。ここでのハギはヤマハギを指す。
ヤマハギは自生するハギの代表、山野でも普通に見られる、茎が直立し、横になっても曲がって垂れ下がることはない。
高さ2mほどの落葉低木。葉は3枚の小複葉、先は丸いか凹む。葉の裏表に毛が生えている。ツクシハギは葉裏中央に毛がない。
尾 花 ススキ (イネ科)
中秋の名月を日本では芋名月ともいい、元来はイネとサトイモを供えたが、都市部ではイネの代わりにススキを飾るようになったとか・・。被子植物・単子葉類。原野や路傍に普通に見られる多年草。茎は高さ1~2mでその先端に多数の小穂群を束状につける。
小穂は短柄と長柄のものが対をなし、基部は白色から淡黄色をおびる。花期は8~10月。
葛 花 クズ (マメ科)
古くから食糧・薬・衣料・飼料などに利用されてきた。和名は大和国吉野の「国栖」の地名に由来するといわれる。
平地から山野にかけて普通に生える「つる性多年草」、茎には褐色の荒い毛が密生、根には多量のデンプンを含む。くず粉や葛根湯は有用。 葉は3小葉、裏面に白い毛が密生する。別名? 裏見草。花は7~9月、花序は長さ20㎝ぐらいで立ち上がる。甘い香りの蝶形花が下から咲き上がっていく。10個の雄しべが合着して、単体雄しべになっているのが特徴。
万葉集 秋の七草散策 その2 #
撫子の花 カワラナデシコ (ナデシコ科)
秋の七草のナデシコはカワラナデシコのこと。ヤマトナデシコともいう。山野の日当たりのよい草地や河原に生える。
高さ40~80㎝、花は直径5㎝で、鮮やかなピンク色が目立つ。他の花にはない特殊な色素体・ベタレインをもつことが特徴。
花弁の先が細かく裂けているのも外形的特徴。花は7~10月。多年草。万葉以降に中国から「セキチク」が渡来。カワラナデシコのおこり。また19世紀の中頃「四季咲きカーネーション」の改良にセキチクが貢献したことはあまり知られていない。
女郎花 オミナエシ (オミナエシ科)
日当たりのよい山野の草地に生える高さ0.6~1.0mの多年草。葉は対生し羽状に裂ける。茎の上部はよく分枝し、黄色の花を散房状に多数つける。花期は8~10月。別名アワバナ。
地下茎を横にのばし新苗をつくって増える。オトコエシは姿形は剛壮で毛深く、葉も大きい、花は白色。両種の雑種としてオトコオミナエシがあり花は淡黄色。
黄色の花が粟飯に似ている女飯、米飯をたとえた男飯が語源とされる。茶花としては不向き全体に悪臭あり。
藤 袴 フジバカマ (キク科)
低地の土手や草地に生える高さ1~1.5mの多年草。枝先がいくつにも分かれて散房状に淡紅紫色の頭花を、花期は8~10月。
葉は有柄で3裂し、やや厚く光沢がある。茎の中程の葉は対生。短い地下茎を出すためしばしば多数の茎が株立って生える。
葉や茎を乾かすとクマリンという成分が芳香を放つ。身につけたり入浴時に浮かべた。漢方薬として有用。日本には奈良時代以前に中国から帰化したともいわれる。
朝顔の花 キキョウ (キキョウ科)
熱帯アジア原産の朝顔は、平安時代以降に渡来。8世紀の万葉集時代にはまだ渡来していなかった。山上憶良はキキョウかムクゲを眺めたのではないかといわれている。
日当たりのよい草地に生える高さ0.5~1.0mの多年草。葉は互生し狭卵形で鋭い鋸歯がある。茎の先に青紫色の花が数個つく。花期は7~9月。中国名「桔梗」は、太い根が地中に深く入り、しっかりして梗直であることを語源とする。家紋として美濃の国・土岐氏(家系明智光秀)は水色桔梗。
万葉集 秋の七草散策 その3 #
帆柱山系は「春の七草」散策と共に「秋の七草」の観賞にも最適地である。春の七草は地面近くに生えている植物ばかりであることと新芽と新葉を「摘み取る」ことにあるが、秋の七草は専ら観賞することに重点がおかれているようである。
ア.春の七草は全てが食することにある。秋の七草は直接食べるのではなくて、その多くが有効活用と共に漢方薬に使われることはあまり知られていない。
イ.ススキ(カヤ)は縄文時代から今日に至るまで、屋根の材料として利用されてきた。茅葺き屋根であり、カヤが不足な場合は「藁葺き屋根」で過ごした。 東京都内には吉原や茅場の地名が残っているが、昔はヨシやカヤの草地であったことを今に伝えている。
ウ.植物分類学によると、春の七草は「1~2年生草本」が主体であって、花の色合いも昆虫を誘引するために白色か黄色である。
エ.一方、秋の七草は「多年生草本と木本のヤマハギ」で占めている。花の色は赤紫色の系統が多く、オミナエシのみが黄色の花をつける。越冬前に結実を急がねばならないのが秋の草花である。
(文責:田代誠一)
【参考引用文献】
・植物の世界 朝日新聞社/根本智行著
・原色茶花大辞典 淡交社/塚本洋太郎監修
・牧野日本植物図鑑 北隆館/牧野富太郎著
・野に咲く花 山と渓谷社/林 弥栄監修