膨大な植物界の中には、こんな目出度い植物も生えています
春の芽吹きの中でも「ツクシ」は大勢の人の心をなごませる。散策の途中で土筆との出会いは楽しいものである。さて問題は「ツクシ誰の子、スギナの子」と歌われているが、本当に親子関係にあるのでしょうか・・?
新春早々の内容はいつも木をつかっています。おめでたい談義であることが必須要件みたいなので、何かいい話はないかと心がけつつ、今回は次の二つに焦点をしぼり、如何なる展開になるのか、しばらくのお付き合いをお願い申しあげます。
(写真:ナンテン)
1.「寿限無」ほどめでてぇ話はねえんだ・・・ #
落語の中でもこれほど目出度い話はないと思っています。なんたって「寿が限りなく続く」というんだから、誰だって「そうなりてぇー。」にきまっている。「一度はなりてぇ、夢のまた夢」。寿限無の主人公は長屋住まいの熊さん、といえば定番の登場。一方おかみさんは生まれた子どもの名づけ親にお寺の和尚さんを指名。
名付け親を頼まれたお和尚さんは赤ん坊の将来を考えて「運気上昇・剛気壮健」など、縁起のよい名前を次から次へと提示。優劣をつけがたい熊さんは、結局全部を持ち帰りおかみさんと相談することになったのです。
坊やの将来を考えると「どの名前も捨てがたく」、いっそのこと全部を命名したからたいへんなことになるわけです。
1.寿限無と植物談義と何の関係があるのか不可思議に思う人もいるようですが、実はこの長い名前の中に縁起物の植物が織り込まれているからおもしろいんです。
「寿限無、寿限無、五劫の摺り切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末風来末、食う寝るとこに住むところ、藪ぶら格子ぶら格子・・・長久命の長助」さん、というのが子どもの名前。
2.「藪ら格子」とは植物学上の「ヤブコウジ」をさすという。晩秋に鮮紅色に熟す果実は、寒い冬の間も落ちずに残って美しいため、松竹梅や福寿草とともに、正月の飾りに使われるようになったそうです。
3.植物図鑑で調べると分類学上は「被子植物・双子葉合弁花類・ヤブコウジ科・ヤブコウジ属・ヤブコウジ」となる。藪格子を中国では紫金牛といい、茎や葉にはベルゲリンを含有し、咳止めや利尿 の作用があるため、慢性の気管支炎や肺結核などの治療に用いられる。
4.形態は「常緑小低木・7~8月に白い花を下向きに数個つける・10~11月に球形の赤い実が熟す・・」、とあって仲間内にはマンリョウ・カチタチバナ・イズセンリョウなどの縁起ものがそろっています。
(写真:ヤブコウジ・権現山周回道にて)
5.「寿限無」の名前が長すぎて噺の展開には笑いがつきものである。さて、このような名前の出生届が現在の法令で許されるかどうかである。
戸籍法第49条の定めにより、出生届けは14日以内に、第50条には子の名前は法務省令で定める常用平易な文字を用いること。また名前の長さの制限規定はありません。
常用平易な文字とは2718字の漢字とひらがな・カタカナのことです。また、法律で禁止されている名前は、親と全く同じ漢字から名前を付けることはできません。
★次もまた「豪勢」な縁起噺です。甲乙付けがたい洒落をお楽しみください。
2.「千両・万両・ありどうし」は、とてつもなく目出度てぇ話だょ・・・ #
明治維新の幕末の頃、1両の価値は7~8万円だということから、昔の千両箱を現在の貨幣価値に換算すると、「約2億円相当」ということになる。万両はその10倍で「約20億円」が有り通しというからたまらない話ですねー。
「寿限無」も際限がないということから、「有り通し」と共通の意味合いをもっている。さて、どっちが欲しいかと云われると、簡単に応えられそうにないですね・・・。
1.人間の欲望の限界は「数字を実感できる範囲」だそうです。だから、10億円と100億円と10兆円の中で欲しいのはどれかと問われた場合に、最後の兆円の単位は実感が伴わないので望まないそうです。
2.センリョウ・・双子葉離弁花類・センリョウ科・中国では千両のことを草珊瑚という。
A.本州東海地方からアジア東南部に分布。日本産の木本は1属1種のみ。常緑小低木。
B.葉は対生・柄あり・葉身は10㎝程・幅は5㎝程度。葉縁は粗い鋸歯縁・先鋭・艶有り。
C.花は両性花。枝先に黄緑色の小花を多数穂状につける。晩秋に7㎜程の果実が赤熟する。
D.実が黄色のものをキミノセンリョウとよぶ。ヒトリシズカ・フタリシズカも仲間内。
3.マンリョウ・・双子葉合弁花類・ヤブコウジ科・漢字で「万両」・漢名は朱砂銀。
A.関東地方以西から台湾・中国・東南アジア・インドの広い範囲に分布。常緑小低木。
B.葉は互生・長柄・葉身は厚く長さ10㎝前後・幅3㎝程。葉縁は低い波状の鋸歯縁。
C.花は両性花・枝先に白色の花を散形状に多数つける。球形の果実は11月頃赤熟する。
D.マンリョウの実は下垂し、センリョウの実は上向いている。
4.アリドオシ・・双子葉合弁花類・アカネ科・漢字で「蟻通し」・漢名は「虎刺」。
A.関東地方以西から朝鮮南部・中国中部に分布。常緑低木・高さ20~60㎝。
B.葉は対生・表面は深緑色で艶有り・節毎にトゲ2本と2枚の葉を対につける。全縁。
C.花は枝先や葉腋に白花を2個つける。晩秋に球形の果実は赤熟する。先に萼片が残る。
D.名の由来は刺が鋭く蟻でも刺し通すという。クチナシ・アラビアコーヒーノキなど仲間。
5.「千両・万両・有り通し」の共通は、常緑小低木で寒中に鮮紅色の実をつけることにある。
一般的に庭先に千両と万両は植え込んて楽しんでいるものの、アリドオシは100%近く植えていないのが普通である。だから「千両も万両も」有るはずがないと、噺のネタになりそうだが・・?
(文責:田代 誠一)
【参考資料】
植物の世界・2巻6巻9巻・朝日新聞社・大森雄治著他
花・鳥・虫のしがらみ進化論・築地書館・上田啓介著
花ごよみ種ごよみ・文一総合出版・高橋新一著
原色日本樹木図鑑・保育社・岡本省吾著 他