帆柱山系の春到来は、ツバキの開花にはじまる。中にはウメが先だとする意見もあるかと・。残念ながら帆柱山系にはウメの成林は見あたらない。方やツバキ類の自然林は帆柱山系の名所の一つでもある。花尾の辻~帆柱の辻~帆柱山頂の登山路はお勧めコース、他は皿倉山登山路の正面コースがあり、ヤブツバキの大木に触れることができる特選コースである。
今回は春の木と書く「椿・・和名」ヤブツバキを主題に植物談義を進めていきたい。ツバキ科のサザンカ・チャの天然木は当山には見あたらないが、ツバキ科の仲間として並行して登場。
1.ツバキ、サザンカの語源と分類について・・・ #
日本の照葉樹林を代表するカシ類、クス類に混じって、ツバキ類もその一員として暖温帯の常緑樹林を構成している。青森県を北限として四国、九州の海岸線から内陸部に自生する。
ツバキの和名の由来は、A葉は革質でテカテカと照り、光りを反射する様子から、「ツバ・光沢のあるさま」とか、「アツハキ・厚葉木」とか、「ツヤハキ・艶葉木」とか、「テルハキ・光葉木」などを語源とし、そこからツバキになったとする説が一般的である。
ヤブツバキは日本の原産種で、学名は「Camellia japonica」と命名。日本のツバキという意味をふくむ。常緑高15mにも達する、花は杯状に咲き、雄しべの花糸は白色、下半分が合着して筒状、葉柄は長く無毛、葉の表裏とも無毛である。開花は11月~4月。
サザンカは、葉の表裏の主脈上と葉柄に短毛があり、花弁と雄しべの合着は少しだけで、花期の終わりにはバラバラに花弁が散ることなどである。
★ヤブツバキ・日本原産種・・
唐の時代(618年~)日本から中国へ・・隋の時代の記録に「海石榴」として登場・・西方(イラン・アフガニスタン原産)から渡来の「石榴・ザクロ」に対して、海の彼方(日本)からやってきたとして「海石榴」と名付けられた。中国ではヤブツバキを「山茶花」という。中国からヨーロッパに初めて移入されたのは、17世紀・イエズス会の宣教師カメルスによる。彼の名前に因んで属名は「Camellia」という。
★サザンカ・・ 日本原産種・・
和名のサザンカは「山茶花・サンサカ」が転訛したもの・・海外に最初に紹介したのは、1690年に来日のドイツ人の医師ケンペル。1784年に「Camellia sasanqua Thunb」の学名が付けられた・・漢名は「茶梅・チャメイ」という・・背振山のサザンカ自生地は国の天然記念物
【禅僧・栄西とチャの木】
ツバキ科の代表種で常緑高木~低木・中国南西部原産。
中国で完成したチャの文化は、朝鮮と日本には9世紀までには伝来。鎌倉時代1191年に栄西帰朝、禅宗(臨済宗)を広める。栄西は中国からチャの木を持ち帰り、筑前国の背振山や博多に植えたとある。博多の聖福寺は日本禅寺の発祥地として有名。殊に栄西の「喫茶養生記」は、喫茶を長寿の薬として推賞したため一般的な広がりとなり、武家は精神修養法としてとりいれた。秀吉・家康の時代に茶道として飛躍的に発展。
2.歳寒の三友「松竹梅」と「椿」のいわれについて・・・ #
中国では歳寒の三友として「松・竹・梅」の三種が伝えられているが、日本での松竹梅が正月や慶事に使われ出したのは室町時代に遡る。最初は梅ではなく「松竹椿」である。
「梅」が中国から伝来した時期については、いくつかの説がある。古事記(712年)や日本書紀(720年)にはウメの記述はなく、文献上は「万葉集・757年」に初めて登場することから7世紀後半ではないかと推測される。
万葉集ではウメの歌は118首でハギの141首に次ぐ多さである。日本在来のサクラは40首、ツバキの歌は9首と少ない。ウメの歌は白梅のみで、紅梅が初めて記述されるのは「続日本後紀・869年」からである。菅原道真を祭る太宰府天満宮の飛梅伝説は紅梅である。
しかし、平安時代になると春の花の第1位はウメからサクラに人気を移譲。紫宸殿の前庭のウメはサクラに代わるなど、植物も時代の流れに応じて生活の場にとけ込んだ様子が伺える。
日本人とツバキとの関わりは5千年ほど前に遡る。縄文時代の遺跡鳥浜貝塚(福井県)からツバキの材を利用した「石斧の柄、ツバキ細工の櫛」などが発見されている。
利用形態は椿油として化粧用、食用、工業用。油粕は害虫駆除及び髪の洗浄用に。材は堅く緻密であることから木槌、木魚、印鑑、楽器、柄などに、灰は媒染剤として昔から使われてきた。
3.春の木・・椿は、日本と中国では別種です #
春に咲く木として「椿」をあてるが、これは日本での和製漢字であり、中国ではツバキといわずセンダン科のチャンチンを指して椿(チン)と呼んでいる。
チャンチンは葉は互生し羽状複葉の落葉高木で、春先の新芽は紅色で美しく、日本の在来種にはなく、春の訪れを感じさせる「春の木=椿」にピッタリである。和名は漢名「香椿」の音読みから転じたもの。
春の訪れを告げる代表種は、日本ではツバキであり、中国ではチャンチンであることの違いは、両種の原産地の違いに原因がありそうだ。帆柱森林植物園では両方とも観察可。
【参考資料】
・原色日本樹木図鑑 岡本省吾著
・植物と行事 湯浅浩史著
・植物ごよみ 湯浅浩史著
・竹と日本人 上田弘一郎著
・植物の世界7巻 石沢 進著 :他