チョウは仲間や食べ物や産卵植物をどうして見分けるの・・?
皿倉山にはいろんな昆虫が棲息しています。チョウ類、ガ類、甲虫類など種類の統計は困難てすが、蛾類は1200種以上が棲息しているといわれています。チョウ類は70種程度。
甲虫のヤノトラカミキリは、皿倉山で「矢野宗幹」氏が発見したことから名付けられています。山頂の東斜面にヤノトラカミキリの「記念碑」が建っています。
昆虫類は種類も多く、植物の数どころではないのですが、動きがあること、成長過程の変態、雌雄の判別が難しいこと等、植物とは全く異なる生活環を構築しています。
しかし、昆虫は植物なしでは生きてはいけないし、植物も昆虫なしでは繁栄できないのです。花粉を運んでもらう代わりに蜜をあげたり、お互いが共生・共進関係にあるのです。
今回はチョウ類の生態を振り返りながら、植物との関係を観察してみたいと思います。
1.チョウの食生活と花色との関係 #
(A) チョウとガは鱗翅目昆虫と呼ばれていたが、近年は「チヨウ目昆虫」と学術的にも呼ばれているようです。チョウ目昆虫は、卵から幼虫・蛹・成虫と変態します。
(B) 成虫の胴体が頭部・胸部・腹部に分かれる。胸部から4枚の翅(はね、羽は鳥のはね)が出ていて、体中が鱗粉に被われています。
(C) チョウ目昆虫の幼虫は、99%は植食性。成虫は密を吸う。また、大部分は狭食性か単食性。何でも食べるのではなくて、限られた狭い範囲の植物を食べる偏食性なのです。
(D) チョウの飛翔する時期は、モンシロチョウでは3月に飛翔する成虫は、蛹で越冬したものであり、その後初夏にかけて多くの成虫が見られます。アブラナ科の植物を好む。
(E) 夏になると殆ど見られなくなるが、天敵のアオムシコマユバチの寄生蜂が、この時期の幼虫の9割に寄生していることによるといわれています。高温時期から秋になると、再び成虫が飛び交います。
(F) チョウが飛翔する条件は「気温と照度」が挙げられており、その目的は「吸蜜と産卵」のためです。皿倉山の7月頃は目覚めの早いのはセミです。次にハチ類でチヨウ類は早起きではないようです。
(G) 好きな花の色は種類ごとに違っています。モンシロチョウは「紫・青・黄・白色」が好きで、アゲハチョウの仲間は赤色が好きなようです。
(H) 写真の百日草の盛りにはカラス・アゲハ・ツマグロなどが交互に訪れたのですが、枯れかかった色合いには蜜がないのを察知して、全く飛んでこなくなったのです。
2.チョウの五感いろいろ #
仲間内の雄・雌はどうしてわかるのか・・視覚があるのか
(A) 離れていても感ずる感覚は、嗅覚・視覚・聴覚で、接触することで感じる感覚は、味覚・触覚です。
(B) モンシロチョウの翅模様は、紫外線の領域では「雄は黒く・・紫外線を吸収するため」
「雌は翅は白く・・・紫外線を反射するため」に、雄・雌を間違うことはないのです。
(C) アゲハチョウの遠隔刺激は、嗅覚なのか、視覚的情報なのかははっきりしていません。両方とも使っていると考えられています。
(D) 同種である確認は、ナミアゲハでは黒と黄色の模様によっている。また、雄の交尾の時は雌の翅を前脚で触って確認しているもよう。
3.産卵する植物(食草)の見分け方 #
(A) アオスジアゲハの食草はクスノキ・タブ・ニッケイなど。ツツジの赤い花よりもウツギの白い花で吸蜜したり、ヤブガラシの白色がかった黄褐色の花序で吸蜜したりします。
(B) チョウは一般的に匂いや色や形という遠隔情報を手がかりにして、接近してくるといわれています。チョウの視覚は複眼で(♂18200・♀12000個)モザイク状で1m程度の視力しかないと推定されています。それと嗅覚です。
(C) 嗅覚は人間の想像以上に鋭く、植物の僅かなにおいでも嗅ぎ分けられる。接近のプロセスは最初は視覚が優位に立って、最終段階では嗅覚もはたらき、さらに接触することで 感触を得ているようです。
(D) 最終的に産卵の植物である判断は、葉の化学成分を味覚で判断します。クスノキ科の植物は樟脳、ニッケイ、ゲッケイジュ、タブノキのタンニン(線香の原料の一種)など、いろんな成分を含んでおり、クスはアオスジアゲハが好きな植物です。
4.皿倉山頂はチョウ類の集合地点 #
意外と知られていない「チョウ類の集合地点」が皿倉山頂なのです。洞海湾~市街地を通過した北風は、皿倉山の北斜面にブチ当たり、上昇気流となって上ってきます。
山麓の町中で飛び交っていたチョウ類は、この気流に乗って難なく622mの山頂にたどり着けるのです。いろんなチョウが飛び交って皿倉山頂は、360度の眺望ばかりではなく、チョウの生活の場でもあるのです。
(A) 山頂の植生は、工事による客土や訪問者が運んだりで、市街地と変わらない状況にあり ます。シロツメクサはツバメシジミの好物ですが、山頂には沢山生えています。(写真下)
(B) 7月16日の午後、皿倉山頂にはカラスアゲハ・アゲハ・ツマグロヒョウモンなど6種 類が飛び交っていたのですが、ツマグロは縄張りを守るために躰の大きいカラスアゲハなどを追っ払っている様子に感心したり、厳しい世界を観察することができました。
(C) 下山の途中で渡り蝶「アサギマダラ」を発見。皿倉山の渡り蝶はこの一種だけです。飛翔力が抜群に強く、1995年に大阪から放された一頭の雄が、与那国島までの約1600㎞を翔んだ記録があります。
(D) 今の時期は北上の途中に立ち寄った種だと思いますが、また秋には南国に下っていきます。表登山道の道脇で観察できます。食草はキジョラン、吸蜜はクサギの花などです。
【参考資料】
・ 蝶ウォッチング 師尾信著/晩声社
・ 続・蝶ウォッチング 同著/晩声社
・ 花粉の移動と昆虫 田中肇著/保育社
・ 森と樹と蝶 西口親雄著/八坂書房
・ バタフライガーデン入門 海野和男著/農文協
・ ワンダフル・バタフライ 本田計一他著/KK化学同人
・ 蝶の生態と観察 福田晴夫、高橋真弓著/築地書館