このくらい人間の生活に密着した植物も珍しい
植物の花は、雄しべ・雌しべ・花弁・がく・花床などの器官をもつのが普通である。ドクダミ科は日本に2種だけの自生でしかないのも珍しい。雄しべ、雌しべだけの花しか咲かない特異な構造や、総包花や裸花など不思議な要素がいっぱいです。
1.はじめに「ドクダミ」の語源は・・ #
ドクダミは、日本から中国、東南アジア、ヒマラヤに分布。日本各地の路傍や空き地や湿地などに群生する多年草で、厄介な野草である傍ら、昔から民間薬として有用な植物でもある。
独特の臭気は嫌われる元であるが、生葉はおできや湿疹に貼り付ける薬効や、乾燥葉は利尿作用や動脈硬化の予防作用などがあるとして、馴染み深い野草のひとつであり、ドクダミ茶は日常的な健康茶に利用されている。
ドクダミは、「毒痛み」が転じて「ドクダミ」にという説のほかに、漢方生薬名は「十薬」といって、馬に食べさせると10種の病巣に薬効があるということから「十薬」の由来を説く。
2.「ドクダミ」の学名の由来とツンベルクの功績・・ #
ドクダミの正式学名は「Houttuynia cordata Thunb」。C R Thunbergは1775年8月にオランダ商館付き医師として出島に赴任。ツンベルクは在日1年の短い赴任期間であったが、江戸参府の国内旅行の経験をもち、在日中に採集した植物は約800種、うち新種が約400種におよび、日本の植物をヨーロッパ学会に発表したことは画期的なできごとであった。
◆要点を集約すると..
1) 著書に「日本植物誌」・「ツンベルクの日本紀行」・「喜望峰植物誌」などかある。また、シーボルトとツッカリーニの共著にも「日本植物誌」と同名の著書がある。
2) ツンベルク(1743~1828)は、スウェーデン人でリンネに師事して植物学、医学を修めた。1771年オランダ東インド会社に入社し、1775年に出島の商館勤務のため赴任。
3) ツンベルクの植物採集の範囲は、出島の長崎付近と江戸参府のおりの東海道や箱根付近であるが、採集した植物を「標本」や「植物画」にして、本国(ウプサラ大学)に送った。
4) 約300点の植物画は、その後ロシアの植物学者「マキシモビッチ・C J Maximowicz 1827~1891」にわたり、現在はセントペテルブルグにあるロシア科学アカデミー図書館で保管。
5) ツンベルクの功績を記念してクロマツの学名(種名)を「Pinus Thunbergii Parl」と命名。植物界の学名はリンネが提唱した二名法「属名+種小名」で表すことで体系化。
6) 「種名」と「種小名」は紛らわしいが、専門的にラテン語で表す場合は、属名は名詞、種小名は形容詞または名詞で記述する。従って、種名は「属名+種小名」の二名法による。
3.「ドクダミ」 と同じ仲間の「ハンゲショウ」について・・ #
牧野日本植物図鑑(昭和15年10月発行)によれば「ドクダミ」「ハンゲシヨウ」は「ハンゲンショウ科」に分類。現在の分類の主流は「ドクダミ科」である。
ドクダミ科は、小さな分類で日本には2属2種がある。ドクダミ属とハンゲショウ属の2属だけである。生理や生態の特徴を
要約すると・・・
1) 双子葉植物綱・コショウ目・ドクダミ科で、両種とも長い地下茎をもつ多年草で、托葉のある柔らかい単葉を互生する。両方とも花弁やがく片のない裸花をつける。
2) ドクダミの花は、初夏に茎の先端に白い花弁状の4枚の総包片を十字型に配列。その上に5㎝前後の花穂を立ち上げ、その周辺に淡黄色の裸花を穂状につける。独特の臭気あり。
3) ハンゲショウは、本州の関東以西~西南諸島~東アジアの暖温帯から亜熱帯の低湿地に分布する多年草である。学名はSaururus chinensis Baill。
4) ハンゲショウは、夏至から11日目に葉の表面が白くなることから「半夏生」という説もある。属名のサウウルスはギリシヤ語のトカゲの尾の意味。細長い花穂にちなむ。
5) 花期は6~8月。茎の頂部に総状花序を出して、白色の小さな花を多数つける。1個の花は1枚の包片と6本の雄しべ、雌しべ1本の先は4裂する。(ドクダミは3本と3裂)
6) 総包片で有名なのはハンカチノキ・ヤマボウシ・ハナミズキなど。イワガラミの装飾花は白色で萼片が1個つく。ツルアジサイの白色装飾花3~7個は両性花をとり囲む。
◆ミニ知識:総苞片と装飾花のちがい
ア) 総苞片とは、萼と間違いやすいが、苞(苞葉)は花や花序の基部にある葉のことで、蕾の時はこれに包まれていた。もとは葉が変化したもの。総苞の個々のことを総苞片という。いろんな形がある。タンポポ参照。
イ) 装飾花とは、一つの花序の周辺部にあって、特に大きく目立ち、雄しべ雌しべが退化しているものをいう。
・・ガクアジサイ・ヤブデマリ・ツルアジサイ・イワガラミなど。
ウ) 花被とは、花冠とがくを合わせた言葉。花冠とは個々の花弁が集まったもの。がくの個々をがく片という。花被のない花を裸花(無花被花)という。
(文責:田代 誠一)
注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。お互いが研鑽しながら自然環境の大切さに取り組んでいます。今回の資料作成にあたり、下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用・参考引用文献】
・植物の世界 朝日新聞社刊/小野幹雄著
・九州の花図鑑 海鳥社刊/益村聖著
・写真で見る植物用語 全国農村教育協会/岩瀬徹・大野啓一著
など