皿倉山や帆柱山でのブルマン現象は無理かも・・?
ブルーマウンテンと呼んでいる山が、世界中でジャマイカとオーストラリアにある。
どうしてこの国の山をブルーマウンテンと呼ぶようになったのか・・・普通の山並みは緑色に映るのに、青色に見えるのは何故か・・不思議な現象ですね。
1.まずは世界のブルーマウンテンを探究 #
その前にジャマイカとオーストラリアのブルーマウンテンはどんなところにあるのか、少し予備知識が必要です。
(1) 1494年にコロンブスによって発見された島・ジャマイカは、国土面積約11500平方キロ(秋田県と同等)で、国土の80%は森林が占め、ブルーマウンテン(2256m)を最高峰とする山脈が東西にのびています。イギリスから1962年に独立。ブルーマウンテン山系の南斜面で生産されるコーヒー豆は、良質でブルーマウンテンという商品名は世界の銘柄。山の高いところで穫れるものほど高級品です。
(2) オーストラリアの南東部にあるブルーマウンテンズは、シドニー市内から西に約100㎞の所に聳える標高1500m程の丘陵地帯を呼んでいます。1788年最初の開拓者を率いて到着したフィリップが、遠望先の青色の山脈をみて命名。 2000年11月に自然遺産として世界遺産に登録。一帯は渓谷や滝や洞窟などの自然美とユーカリの森林が展開し、観光コースのスポットになっている。
(3) このようなブルー山は、2カ国だけの山脈に限ったことではありません。地元の日本にもあったのです。思い出してください。藤山一郎と奈良光枝のデュエット曲・青い山脈を・作詞家西条八十は群馬県吉井町の牛伏山(491m)に登った折りに、頂上からの展望に感動し、その時の様子を書きとめたのが、「青い山脈」の誕生だといわれています。それに曲をつけたのが作曲家服部良一です。
この歌は昭和初期の大ヒット曲であり、いまでもカラオケで歌い継がれていて「元気の出る、懐かしい歌」なのです。牛伏山頂から見えた「青い山脈」は、北方向なら榛名山(1391m)、西側なら荒船山(1423m)の山波が青色がかって見えたのではと勝手に想像。
2.ブルーマウンテン現象は、コーヒーノキやユーカリ、日本のダケカンバなどの森林で発生 #
Ⅰ;アカネ科・コーヒーノキは・・・Coffea arabica Linne・珈琲木
(1) コーヒーノキ属は、アフリカとアジアの熱帯に分布し、40種ほどからなる。コーヒーノキの葉は対生、常緑で楕円状披針形、普通2m前後の低木で、アラビアコーヒーノキはコーヒー生産の90%を占める。もとはエチオピア高原の原産で風味、芳香とも優れている。
(2) クチナシの花のように強い芳香があり、果実は球形で緑色より濃赤色に熟し黒くしなびて完熟する。種子は円形球状。収穫できるのは開花から8~9ヶ月後。海抜2000m前後の産品が良質で名品。
(3) コーヒーノキは、コンゴコーヒーノキ(熱帯アフリカ原産)・リベリアコーヒーノキ (西アフリカ原産)・ベンガルコーヒーノキ(インド原産)なとが栽培されている。
(4) アカネ科の植物は、マラリアの特効薬であるキニーネが採れるキナノキ、草木染めに使われるアカネ、黄色の染料や無毒のためたくあんの色づけにクチナシを使用。それにコーヒーノキなどは有名産品である。
アカネ科は日本では25属・約80種が知られているが、身近にはフタバムグラ・ヤエムグラ・カギカズラ・ヘクソカズラ・アリドオシなどを観察することができる。
Ⅱ;フトモモ科・ユーカリノキは・・・Eucalyptus globulus Labill #
(1) オーストラリアの東海岸に連なる山脈は、ユーカリの葉から発するテルペン類でいつも青く霞んでいる。これがブルーマウンテンの原因なのです。
人工衛星から見える地球の様子は、南米アマゾンの森林地帯や東南アジアなどの森林地帯は、青色がかったもやが漂っているのが観測できるそうです。
(2) フトモモ科・ユーカリ類は4属800種類を超えるが、オーストラリアにはユーカリノキ属とアカシア属の2種類の木が圧倒的に多いが、コアラの食物となるものは12種程度。
(3) ユーカリノキは常緑高木・葉は互生で鎌形皮針形・全縁・表裏の区別無く・油点散生・葉肉に強い香気・花は6~7月・青白色か緑白色の無花弁を葉腋に単生・朔果・樹皮を脱皮する樹種マリーは毎年剥がれる。同じ科にブラッシノキがある。
(4) ユーカリ林は山火事の多い森林である。このような植物群落は種の構成を維持するために山火事を必要とする種類もある。
(5) マラリアがオーストラリアではほとんど発生しなかったのは、ユーカリの芳香が大気に充満していたからだとする説もある。先住民のアボリジニはユーカリと深い関わりをもちながら生活している。
Ⅲ;カバノキ属・シラカバ・ダケカンバ・ウダイカンバなど・・・ #
(1) カバノキ科はカバノキ属ほか5属に細分・雌雄同株・風媒花・雌雄別々の尾状花序で雄花序は下垂・化石の出現時期はカバノキ属が8000万年前
(2) カバノキ属の植物は開葉時によい香りを発散させ、新緑のもと清々しい花の香りと共に興奮と安静の気分となり、登山者のみのに与えられる自然の恵は楽しみのひとつである。
(3) カバノキ属・ダケカンバ・・・Betula ermanii Cham
ダケカンバは亜高山帯から下部にかけて自生の落葉高木・森林限界付近では低木状・葉は 長枝で互生・短枝には2枚・三角状卵形・単性雌雄同株・5~6月開葉とともに開花・風媒花・風散布
(4) ダケカンバは、四国~本州~北海道の亜高山で森林限界を形成する。この森林では開芽時期に森一面がフイトンチッドで青く霞み、揮発性のベンジルアルコールなどの香り成分が漂っている。
(5) カバノキ属・ミズメ・・・Betula grossa Sieb.et Zucc
岩手県以南~四国~九州に分布。樹皮や冬芽から発するサロメチールのような香り(サリチル酸メチル)の特徴から覚えやすい。落葉高木・幹は斜面でも直立・葉は長枝で互生・短枝では2葉・卵形から広卵形・単性雌雄同株・4~5月頃開花・雄花序下垂・風媒花・風散布
別名はアズサとかヨグソミネバリという。樹皮は黒褐色・果序は上向きにつき楕円体・材質は強靱なため梓弓や柄・器具や家具・床板などの材料に用いられる。
★植物の世界第8巻・渡邊定元著より要点抜粋・・
カバノキ属の植物は風媒花で自家不和合性である。そのためカバノキ集団は花を同調させなければならない。植物は一定の気温になると花が開くメカニズムをもっているが、香りは集団内の一斉開花・開葉をより確実にする引き金の役割を担っている可能性が考えられる。
3.ブルーマウンテン現象はなぜおきるのか・・・フィトンチッドが関係・・? #
コーヒーノキ林、ユーカリ林、ダケカンバ林の共通点は、香り成分を発散する樹種の群落であることと、これらの山々の周辺では微粒子が高い密度で浮遊していること及び太陽光が大気中の微粒子にぶっかって青色光が散乱することによって、山脈が青く見える現象がブルーマウンテンであると考えられる。
新緑の頃の風のない晴れた朝、このブルーマウンテンの現象は、日本でも初夏の高山で普遍的に見られる。多くの浮遊微粒子の正体は何か・・それはフィトンチッドと呼ばれている。
★樹木社会学・渡邊定元著より要点抜粋
フィトンチッドは、正常な植物のもつ発散物質が植物以外の動物、細菌、菌類に対する殺傷現象で、また植物が気相をとおして殺傷作用をおこなっている点に特徴がある。
フィトンチッドは、アレロパシーとかファイトアレキシン・フェロモン等とは少し違った異質の物質であるが、ヒトの健康維持に関係があると考えられるようになり、森林浴という新しい言葉が誕生。
森の精気フィトンチッドは、ラテン語の「フィトン=植物」と「チット=殺す」の合成語。このように殺傷作用のある浮遊微粒子が漂う中での森林浴は、自律神経の安定と精神をリラックスさせるなど、心身の癒しの作用があることから人気続行中です。 (文責:田代誠一)
★フィトンチッドと森林浴の関係は、次回「森の不思議第13話」をご覧ください。
【 参考文献;樹木社会学・渡邊定元著・東京大学出版会 :森林の生態・菊沢喜八郎著・共立 出版株式会社 :森に学ぶ・森林浴の生理学・宮崎良文著・日本林業技術協会 :植物という不思議な生き方・蓮実香佑著・PHP研究所 :原色樹木図鑑・林弥栄ほか2名著・北隆館 :植物の世界・ハーバラB著・朝日新聞社 :日本林業樹木図鑑・田中重五監修ほか】