毎年のことですが梅雨入り後ネムノキの花が咲きはじめます。それはやがて夏日の到来のサインでもあります。皿倉山のセミたちも地上に顔を出すのを待っているのです。
また今年も夏山の賑わいがやってきます。ところで、今回は樹木の中で「眠る木」といわれるネムノキの登場です。植物が眠るなんて不思議な現象ですね・・。
1.ネムノキは何科が正しいのですか..? #
ネムノキは落葉高木で、6月~7月にピンク色の花で樹冠を飾るために、遠目にも目立つ木です。夜になると葉の羽片が下向きに閉じる現象から、睡眠しているように見えるのでネムノキノの和名がついたといわれています。ネムノキを図鑑で調べるとたいていはマメ科に所属する分類が多いのですが、使用する図鑑によってはネムノキ科の分類もあります。
日本植物図鑑(昭和15年) ・牧野富太郎 マメ科に分類
原色日本樹木図鑑(昭和50年)・岡本 省吾 マメ科に分類
九州の花図鑑(平成7年) ・益村 聖 マメ科に分類
植物の世界(平成8年) ・朝日新聞社 ネムノキ科に分類(クローンキスト分類体系)
クローンキストの分類体系では、マメ類を蝶形花をつけるマメ科と、花弁よりも長い雄しべ・雌しべをもち、放射相称花をつけるネムノキ科と、旗弁が内側にあるジャケツイバラ科の3科に分類しています。
この中で最も原始的だと考えられているジャケツイバラ科は、白亜紀後期の地層から化石が発見されていて、ムネノキ科の化石は恐竜絶滅のあとの第三紀初期にかけて発見されており、マメ科の化石はさらに新しい時期に現れています。
ジャケツイバラ科から進化してきたネムノキ科であり、マメ科であることを念頭において観察すると、進化のおもしろいパターンが見いだせるかもしれません..。
2.ネムノキ科の特徴 (合歓木・・双子葉植物) #
ネムノキ科の植物は、アカシア・ギンヨウアカシア・ギンゴウガン(別名ギンネム)・ベニゴウカン・オジキソウなど。 ネムノキよりもオシギソウの敏捷な葉の動きや、茎の全体に伝わる運動については、すでに体験済みのことと思います。オジギソウは動く植物だといわれています。皿倉山では観察できないのが残念ですが、園芸店で販売しています。
(1)ネムノキ科の花は花弁が小さく、みな同形で目立たない。そのかわりに雄しべはよく目立ち、多くの雄しべは花外に長く伸びており、花糸が有色のものもある。
(2)ほとんどが熱帯から亜熱帯に分布。ごく少数種が温帯でも見られる。大部分は木本、まれに草本も含まれる。
(3)葉はふつう二回羽状複葉。多数の小葉をつけるものが多い。花は放射相称、がく片と花弁は5枚または4枚、果実は小さな花から想像できないほど大型のものもある。
3.ネムノキのいろんな形態 #
(1)日当たりの良い乾燥した山野、川岸に自生する落葉高木、樹皮は灰褐色で平滑、葉は2回偶数羽状複葉で7~9対のほぼ対生する羽片があり、各羽片には小葉を15~30対つける。
(2)葉柄や葉軸に大きな腺がある。葉柄や小葉柄の基部は膨れていて、葉枕と呼ばれる。ネムノキ属で日本に自生するのは、オオバネムノキ・ヤエヤマネムノキである。
(3)梅雨も中盤を過ぎる頃からネムノキが花を咲かせる。開花が間近にせまった蕾には、ピンク色の長い糸状の多数の雄しべと、1本の雌しべが折り重なって収まっている。
(4)晴れた日の午後、日が傾いてくると花糸や花柱をピンと伸ばして、次々と花冠から飛び出す。葉は夜になると睡眠運動で下向きに閉じ、夕方から開いた花は翌日にはしぼんでしまう。
(5)数個から数10個の小花が頭状花序に集まり、頂端の1花(頂生花)はがく筒が太く、花弁が長く、雄しべは比較的上部まで合生し、離生部はほぼ平開する。ほかの小花(側生花)の雄しべとはひときは目立つ。
(6)ブラシ状に咲く花で独特の形をしている。花弁もがく片も小さくなって、その役割を果たしていない。花弁の代わりに雄しべの花糸が長く美しくなって、虫を呼ぶ役割をしている。
雄しべが花弁の役割をしている例は、サラシナショウマ・カラマツソウ・マルバブラシノキ・など。
(7)睡眠運動は葉だけで、花は日が傾く頃から咲き始める。花はほのかな香りを放ち、スズメガの訪れを誘引する。 夜のガは花の色の見分けはできないので、匂いをたよりに蜜源を探し求める。
4.不思議な睡眠運動のなぞ・・ #
植物の動きは動物のそれに比べて遅いために見過ごされていますが、いろんな動きがあります。ダーウィンによって発見された「回旋転頭運動」や、ほかにも光屈性・重力屈性・水分屈性・接触屈性・傾性・などが解明されています。
植物が屈曲する動きは、成長運動か膨圧運動、または両方の動きで起きるのですが、成長運動による屈曲は不可逆的であり、器官の両側の成長速度の差、つまり偏差成長によるものです。
膨圧運動は細胞の可逆的な体積の変化によって起きますが、ネムノキの睡眠運動は葉枕の細胞の膨圧が、昼夜で変化するために起こる現象です。
オジギソウの運動について根本智行先生の著書から一部を引用すると、『葉柄、羽片そして小葉の基部には葉枕と呼ばれる柔組織のふくらんだ部分がある。葉に刺激を与えると、興奮性細胞に活動電位が発生し、他の興奮性細胞に次々に伝わる。これが葉柄や小葉の葉枕に達すると運動細胞に膨圧の変化を引き起こし、小葉や葉が動くのである。』
4.どうして夜に葉を閉じるのか・・? #
ダーウィンのーウィンの観察では、属のレベルで86属もの植物が睡眠運動をおこなうことをリストアップしています。スベリヒュ属・アオイ属・フヨウ属・カタバミ属・マメ科の多くの属・マツヨイグサ属・サツマイモ属・タバコ属・オシロイバナ属..など。これらの多くは、先に述べたように成長運動によって起こる睡眠運動であって、カタバミ科やマメ科の睡眠は膨圧運動によって起こる睡眠運動だといわれています。 ダーウィンはなぜ夜に葉を閉じるのか「仮説」をたてていますが、今もって広く受け入れられています。
『夜に放射冷却によって葉から大気中へ輻射熱が逃げるのを防ぐため』と説く。
この仮説の他にもう一つの仮説(ドイツの植物学者が20年ほど前に発表)があるのみで、本当の理由は判っていないのです。
膨圧運動は葉枕の細胞群のそれぞれの細胞が、可逆的な容積変化をすることによって起こる屈曲だといわれていますが、この運動も何の目的かは判っていないのです。