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森 の 不 思 議    第33話

「嫌われもののクサギも、昆虫は花の香りが好き 」
悪臭の役割・雄しべ雌しべの自家不和合性など不思議がいっぱい

 

 「クマツヅラ科のクサギ」は、「合弁花・葉は対生・葉身は三角型のハート状」であり、帆柱山系のあちこちで観察できるし、また、枝葉を触るだけで臭気を放つからすぐ感じ取ることができます。
 
 悪臭を発することから「クサギ・臭木」と名付けられたそうですが、臭いことの東西の横綱は「ヘクソカズラ・別名早乙女花」と「クサギ」。両方とも「花の香り」はすばらしいのですが、何とも皮肉な名前ですね・・。もう一種、臭いでは負けていないのがドクダミです。
 
 その他の香りは「チンチョウゲ・クチナシ・クリノキ」など。好き嫌いは十人十色。優劣は別にして人間の生活には欠かせない香りは、植物が大半を占めており、右代表は「ハーブ」。
 
 クサギはなぜ臭気を発するのか、また、花粉交配の段階で性転換的(自家不和合性)な不思議な変化を伴うことから、何となく引きつけられる植物です。こんな臭気の傍ら、花の香りはすばらしいことから、この香りに引きつけられる蝶や蛾もいるし、ヒトもいるのです。
 
 クサギに似かよった「コクサギ」は、独特の臭気を放つクサギ(臭木)と同様に臭いが、小低木だとして「コクサギ・小臭木」の名前がついたという。帆柱山系では見あたらない。
 性転換で明らかな植物は、アケビ・マムシグサ・などがあげられるが、これらは帆柱山系のあちこちで観察できるものの、今回は植物のにおいが本題です。
                             
 
   
 1.においを発する植物の機能

 

 身近で栽培している「トマト」は、触るだけであの独特の臭いを経験した方は多いと思う。 それは「トマト」に取り付く害虫に対する防衛のためであるらしい。

 

(写真:皿倉山登山車道四合目のクサギ)

   
 
 

 また研究成果の中に「ポプラ」の植食のことがある。葉が害虫に侵されると「SOS」信号が発せられ、隣近所の仲間たちにも知らせる働きがあるという。ホルモン剤の一種である揮発性の「ジベレリン」は、独特の香りを漂わせて、防衛態勢に入るのを知らせるのです。

 

1) 高林純示著「植物も言葉を操る」から要点を抜粋・・・

 

ア) 植物の香りや臭気は、「ことば」に相当する揮発性物質にあたり、このような物質は「植食者誘導性植物におい物質=HIPV」という。

                    

イ) この物質は、植物がある特定の植食者に加害されたときに、ある特別なにおいのセットとして生産するもので、加害者の天敵を呼び寄せる「SOS信号」即ち「ことば」に匹敵し、自分自身を守るために「植物〜植食者〜天敵」との間のコミュニケーションである、と説く。
 
ウ) コミュニケーションの手段としてどのような化学物質を利用しているのか・・?
  マメの葉の被害葉の出すにおいを分析した結果、5つの成分が新たに生産され、そのうちの4つに天敵(チリカブリダニ)を誘引するために「HIPV」を生産することが判明。
 
エ) 被害植物からのにおいを察知した未被害植物は、早く防御物質や毒物質をつくって、直接的に植食者をやっつけて防衛する、というタイプのコミュニケーションもある。以下の2例を参照。
 

>ワタの一種が病原菌に感染した葉は、抗菌性物質ファイトアレキシンの量を増やし、自分自身を守ろうとする。さらに、この菌に感染した葉が生産するにおいが、健全な葉にも誘導されることは、植物間のコミュニケーションが病原菌を介して起きていることを示している。

 
>次の研究結果は、トマトとヨモギの異種間のコミュニケーションである。
  トマトの葉が植食者や病原菌によって被害を受けると、防衛のためプロテアーゼという阻害物質を生産。                                
 
 植物には普通ジャスモン酸メチルというにおい物質が存在しているが、ヨモギの葉にもこのメチルを含有し、両者を隣り合わせに育てた実験結果によると、トマトにプロテアーゼ阻害物質の蓄積が認められた。即ち、ヨモギのにおい物質がトマトに伝えられたことを現している。また別途の専門書・2)によると・・・。

 


2) 渡邊定元著「樹木社会学」では、防衛体制の仕組みのことを

   「ケミカルコミュニケーション」と定義。    以下、要点を抜粋。

  

 樹木の有力なケミカルコミュニケーション物質として青葉アルコールがある。摂食被害に会うと青葉アルコールが増えてきて、情報伝達の役割を果たすと述べている。

 

ア) 樹木は常に食葉性昆虫に摂食される危険に直面している。大量に摂食されると種ごとに特色ある摂食阻害物質を生合成し、化学的防御の体制が整備されている。        
 
イ) 食葉性昆虫に対する樹木側の防御システムは巧妙にできていて、被害が少量の場合はむしろ摂食を促進することがわかっている。反面・・
 
ウ) 生命を脅かすほどの大量の摂食に対しては、葉から青葉アルコールの発生量を増やし、隣接葉に伝えられ、葉中にフェノール量を増加させる機構は、全ての樹木が持っている。
 
エ) このような特殊な作用の物質は「植物タンニン」であり、樹木の葉には比較的高濃度に存在する。タンニンのもつ渋味は高等動物・鳥類・爬虫類・昆虫に対して忌避作用を示すと考えられる。
 
オ) ライフルサイクルの短い草本類は、アルカロイド(毒性)など特殊な化学物質を持っているが、樹木は寿命が長く、葉量が多く、再生の機能をもつなどの特性から、フェノールタンニンによって食葉性昆虫にたいする防御機構を備えている。
 
カ) アブラナ科植物が含むカラシ油配糖体(シニグリン)の酵素分解物質は、多くの昆虫にとっては毒性を示し忌避物質であるが、オオモンシロチョウやダイコンアブラムシにとっては誘引物質となる。モンシロチョウはシニグリンがなければ葉を食べないし、雌の成虫は産卵促進物質として利用している。
 
キ) 葉から発散される青葉アルコール(アルペノイド・アルカノイド・キノン類など)は、新茶の香として知られているが、エンドウマメでは微量で成長促進し、高濃度になるにつれ成長を抑制し、最後は致死する。
 
   
 2.クサギの臭気の成分は・・・

 

 さて、植物のにおいは何のためかについて、植物間のHIPVやコミュニケーションの項で概要を述べてきたつもりですが、そろそろまとめの項に移りたいと思います。

 

(写真:吸蜜活動のアゲハチョウ)


 

            

1) 「タデ食う虫も好きずき」といわれているように、植物には食葉性昆虫に対して摂食を促進したり、阻害したりする物質を含んでいるものもある。(前項を参照)

 

2) 例えばカイコはクワの葉を好んで食べるが、葉には誘因する成分や、かみつきを起こさせる成分、摂食を続けさせる成分(のみ込み因子)の3つの因子が揃って初めて摂食行動が起きることがわかっている。
 
3) 野菜や花など摂食域の広い、食欲旺盛なハスモンヨトウ(鱗翅目・ヤガ科)にクサギは食ベられない。葉には殺菌作用のあるクレロデンドリンA及びBを含んでいることから、摂食阻害の働きがある。ということは、他の昆虫も寄りつき難いといえる。
 
4) モンシロチョウにとってアブラナ科のキャベツ畑は、カラシ油配糖体(シニグリン)を含む楽園であり、子育てにはもってこいの環境にある。                
 
  クサギの花の香りは、夜活動する蛾にとっては「所在地を誘導するシグナル」といえる。スズメガ科の仲間はホバリングしながら吸蜜。シモフリスズメガはクサギやネズミモチ・トネリコ・ノウゼンカズラなどいろんな種類を食草に選んでいる。   
 
5) 臭さの横綱級のヘクソカズラの物質は、細胞内にペテロシドを蓄え、葉や茎が食害されるとメルカプタンという揮発性物質が生成され臭気を発する仕組みをもつている。
  

 それでも食草にする「スズメガ科のホシホウジャク、ホシヒメホウジャク」は、多くの昆虫が敬遠するヘクソカズラをなぜ選択したのだろうか・・。

 

 ★クサギの効用

 料理・春先に芽吹くクサギの新葉は、茹でて水にさらして、アク抜きしてからおひたしなどの料理に使用。とくに寺院では精進料理に利用。 染料・果実は秋には成熟し藍色になる。昔はこれを浅青色(はなだ色)の染色に利用。

  薬効・有効成分は葉に殺菌作用のあるクレロデンドリンA・B、苦味質ほかを含む。降圧作用・鎮痛作用・リウマチ・利尿・健胃・できもの・解熱・痔などに効果。

  クサギ虫・クサギの根元の材中に潜入しているクサギ虫は、昔から焼いて小児に食べさせると疳疾(かんしつ)に効くといわれてきた。

 
   
   
 3.クサギの花の雄しべ、雌しべの異常な動き・・・

1) クサギの花は、筒状の中から雄しべ数本と雌しべ1本が異常に突き出している。花粉交配は容易のように見えるが、自家受粉を避ける仕組みをもっている。

 

(写真:クサギの雄しべ成熟期)       

 

2) 性転換ではないかという説もあるが、自家不和合性の様子が明らかです。まず雄しべが先に成熟し、そのとき雌しべはまだ受粉の態勢にはない。

 

3) 雄しべの花粉発散の時間がすぎると、任務完了となってしおれたようになり、代わって雌しべが成熟して花粉の運び屋を待つ態勢にはいる。

 

4) この時に訪れる昆虫は、昼の部としてアゲハチョウの仲間が、夜にはスズメガの仲間が吸蜜にやってくる。

 
5) 夜間に活動する蛾の仲間は、香りを手がかりにして、花の色(夜に目立つ色は白色)で判別し、蜜にありつけることから、誘因の仕組みは昼夜を問わずということになる。

 

 

(文責:田代 誠一)
         
 
   
   

注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。作成にあたり、下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。

 

【引用参考文献】

植物の世界・植物も言葉を操る  朝日新聞社刊/高林純示著

樹木社会学  東大出版社/渡邊定元著

花と昆虫不思議なだましあい発見記  講談社刊/田中肇著

続ほんとうの植物観察  地人書館刊/室井ひろし他著

森林の100不思議  日本林業技術協会編/大原誠資著  ・・他

         

 
   
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