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森 の 不 思 議    第29話

日本のヒガンバナは種子ができない・中国のは
子孫繁栄は種なしでも大丈夫・・球根を増やす特技がある

  一般的にヒガンバナは世の中の仕組みの中ではあまり好ましい地位にはないようだ。仏法に関係深い植物であり、マンジュシャゲ(曼珠沙華)・死人花・地獄花・幽霊花・狐花・などの呼び名事態から嫌われる要素が多分にある。

 別名や方言の多い植物の第1位はヒガンバナだと言われている。約1000ほどもあるというからすごい。こんなに呼び名が多いのは有史以前に伝来したという説によるものだと思う。第2位は540のイタドリ。

 

 東北地方から九州・沖縄の各地で、土手や田の畦、道ばたや墓地などでよく見かけることから、日本固有の植物のように付き合いが古いし、まつわる話も多い。

 

 ところが、欧米諸国では在来の野生種の赤色花よりほかに、園芸品種として白色や黄色の舌状花の開発がすすみ、園芸品種として楽しむというから、「所変われば、品変わる」。ヒガンバナの分類は、エングラーは「ヒガンバナ科」に、「牧野植物図鑑」や「九州の花図鑑」・「九州の野の花」でもヒガンバナ科である。

 

 クロンキストは単子葉植物のヒガンバナを「ユリ科」に分類。朝日新聞社発刊の「植物の世界」の体系は、クロンキストの分類に従って編集されている。従って、今回はクロンキストによる。今回取り上げたヒガンバナ(彼岸花)は、一年の内でもほんの短い期間だけにお目にかかれる野草であること、伝来の時期は他の渡来植物より遙かに昔のことであること、呼び名の多さではダントツ、さらに仏教との縁が深いことなど、生活史や不思議さが多い植物である。

 

 
   
 1.はじめに「仏法界と曼珠沙華・蓮華」などについて・・


 呼び名のいくつかは仏法界に縁深いものも多い。ホトケバナ・ハカバナ・ジュズバナ・ソウシキバナ、などの方言と前に掲げた分を合わせても仏法界に類縁のものばかりである。

 

 殊に「曼珠沙華」は、曼珠沙と華とが合体したもので、マンジュシャゲの花と呼ぶのはおかしい。花と華がダブるからである。それにしても、なぜ「曼珠沙華」と呼ぶようになったのか。

 

 「仏教植物散歩・中村元編著」の中から要点を抜粋し、仏教の教えを学び、少しでも理解を深めたいと思う。先ずは仏典に登場する植物の中でも、仏教のシンボルである「蓮華」とは・・

 

 ◆曼珠沙華とは・・

 

1) 曼珠沙華は「天上の花」という意味。由来は天の神様である「梵天や帝釈天」が仏の説法を褒め称えるとき、その前兆として、天から四つの花・四華が降り注ぐという。

 

2) 曼荼羅華(白蓮華)・摩訶曼荼羅華・曼珠沙華(紅蓮華)・摩訶曼珠沙華の四つの華は、四種天華と呼ばれ、これに蓮華を加えて「五大華」という。摩訶とは大きいとか、華の偉大さ、美しさを強調したときの表現である。しかし、この四種の植物の花は存在しない。

 

3) 曼珠沙華はサンスクリット語の「マンジューシャカ」からきている。日本では古くからヒガンバナを指してマンジュシャゲと呼んでいるが、インドにはヒガンバナの自生はない。

 

4) チョウセンアサガオの花である「曼荼羅華」から、華岡青洲(1760〜1835)は全身麻酔薬「通仙散」をつくり、1804年に乳がん摘出手術に日本で初めて成功。主に薬用に使用。 ナス科・チョウセンアサガオ属でインド原産の一年草。全草にアルカロイドを含む。

 

 ◆蓮華とは・・


1) インドでは、蓮華は創造神話における中心的な植物。あるいは神の象徴としての地位にある。水面に浮かぶ清らかな花は、あたかも汚悪の世間を超越している聖者の姿そのものに喩えられる。

 

2) 蓮華は梵天の臍から生えたとされるし、天地万物は梵天から生じた。原始聖典に聖者の姿として喩えられた蓮華は、大乗仏典では菩薩を象徴するものとして登場する。

 

3) 仏教で仏・菩薩が蓮台の上に座し、また大菩薩が手に蓮華を持った姿として表されるのと、こうしたインドの宗教の神観や世界観との間には少なからざる関連が認められよう。

 

4) 蓮華が泥水の中に根を張りながら、しかもその汚れ無き姿を水面に現していることが、あたかも、濁悪の世間にありながら、しかも自らの清らかさを失うことなく仏道を行ずるという菩薩の姿に喩えられるのである。 これは漢訳経典のなかに登場する「紅蓮華」の教えである。

 

 ◆要約すると・・・


 ここで要約すると「曼珠沙華=ヒガンバナ」と「蓮華=ハス・スイレン」は、形態には類似性は見られないが、教義において「地上の華」と「天上の華」の関係にあり、延長線上の浄土につながっているといえそうだ。

 

 
   
 2.蓮華とは・・ハスとイスレンの分類など・・
  

 ハスとスイレンを共に蓮華と呼ぶことが多いが、植物の分類学上は「スイレン科とハス科」に分けられる。以下、ハスとスイレンの概容をまとめてみた。

 

 ◆スイレンの特徴・・

 

 水草の中で最も親しまれている。宗教や神話をとおして文化的なつながり、また、園芸植物として深く係わっている。以下、植物の世界・伊藤元己著及び多田智満子著より要点抜粋。

 

ア) 世界に50種ほど分布するスイレン属は、園芸品種が開発され、熱帯性と耐寒性のものが栽培されている。水中の葉柄の先に馬蹄型の葉が浮き、花柄は水中より抜き出るものや浮かんで咲くもの、また花色は白・薄桃色・黄色・紅色など豊富である。

 

イ) スイレン科の植物は、4〜5枚のがく片・花弁や雄しべは多数が螺旋状に配列・花糸は面状・葯は内向き・花粉を取り巻く周溝粒をもつ・雌しべは合生子房をもちその上は柱頭盤となる。

ウ) 古代エジプト人にとって最も重要な神秘的な花で、白と青のスイレンがあったという。 香気の強い白花よりも、香りが甘美で微妙な青花の方を尊んだ。 壁画に描かれている人物は、青花のスイレンを嗅いでいる場面が多い。ハスは自生しない。

 

エ) こういう描写は香りを楽しむだけではなく、再生の呪術が表現されている・スイレンは生まれ出る命の象徴である。死者にとっては再生のシンボルとなる。

 

オ) エジプト神界で最も重要なひとりである「太陽神ラー」は、原初のスイレンの花から生まれたとある。聖なる(生命誕生)花の香りを嗅ぐのは、壁画の死者ばかりてなく生者も尊ぶ。

 

 ◆ハスの特徴・・

 

 エジプトのスイレンは生命発生の母胎と観じられていて、インドではハスに同じような観念を抱き、古バラモン教やヒンドゥー教の神話の中に反映されている。

 

ア) ハスの花は仏教では蓮華と呼ばれ、仏陀の生誕を飾った花。仏典には白・赤・青・黄色の蓮華が登場するが、青と黄色はインドにはない。ハスはインドの国花である。

 

イ) ハス科は1つのハス属だけの単型科。日本・中国・インドにかけてのアジアとオーストラリア北部に分布する多年生の水草。葉は中心に葉柄がつく楯状葉で円形である。水面に浮く浮葉と水上に抜きん出る水上葉とがある。

 

ウ) 花は大型で直径約15p。2〜5枚のがく片、ピンク色の花弁は20〜30枚で螺旋状に配列し、雄しべは200〜300本、雌しべには2〜30枚の独立した心皮がある。雄しべや雌しべは黄色。

 

エ) 漏斗型の花床が特徴的で、子房は花床に平面に並び、果期になると子房が花床の組織に埋もれて独特の蜂の巣状になる。ここからハスの古い名前の「蜂巣・ハチス」が生まれ、それが略されたのがハスの名の由来といわれている。万葉集や古事記には「ハチス」で登場。

 

オ) 種子は黒色の楕円体で硬い果皮で覆われている。寿命は長く「大賀一郎博士が発見した2000年前の種子」は、現在も栽培(大賀蓮)されている。地下茎は細長く泥中を横走し、時には肥大する。これが蓮根。

 

カ) ハス科植物の化石は中生代白亜紀からも発見されており、かなり古くからハスは生えていたことになる。

                                     

 
   
 3.「ヒガンバナ」の不思議な生活史・・

 

 彼岸が近づく頃、何の転換もない地面に突然として、茎の先端に花芽をつけたヒガンバナが伸びてくる。真っ赤な花に彩られだすと秋の訪れを感じさせる。いろんな植物の開花を見てきたが、彼岸花ほど時期を違えず咲くのには、不思議な魅力を感じる。

 

 有史以前に渡来した帰化植物という説のわりには、「古事記」「日本書紀」には現れていないことから、稲作の伝来と共にやってきた説、海流に運ばれてきた漂着植物とする説、などがあって、断定は難しい。以下、植物学の見地から概容をまとめてみた。

 

1) 単子葉植物綱・ユリ科・ヒガバナ属・学名Lycorisリコリス・radiataラデイアタ・Herb.ハーバート・英名red spider lily。リコリスはギリシヤ神話の海の女神・リコリスの名前からとったとする 説がある。原産地は中国。揚子江流域の西南近辺で多く見かけるとある。

 William Herbert(1778〜1847)は、イングランドを主要地とする種子植物が専門の植物学者であり、科学者で牧師でもある。著書にヒガンバナ科」の専門書がある。

2) 原産地の中国のは二倍体(2n=22)で種子ができる。白色の花も咲くという。日本のヒガンバナは種子ができない三倍体(2n=33)。三倍体は奇数の染色体では適正な受精ができない。シャガも同じ。

 

3) ヒガンバナ属はヒマラヤ東部から中国雲南省〜インドシナ半島〜華南〜朝鮮半島南部〜日本に連なるアジアの照葉樹林帯の固有の植物である。約20種の うち多くは中国に分布。花色は赤・白・黄・桃・橙・青色と多彩。

 

4) 日本で自生するキツネノカミソリとショウキズイセンは、種子で繁殖するが、他は不稔である。県内ではキツネノカミソリ・オオキツネノカミソリが自生。ナツズイセンは宮崎県や他県に自生。

 

5) 一年間の成長の生活パターンは、秋に開花した後、濃緑色で中央が灰緑色の線形の葉を出す。葉は盛んに光合成をおこない、鱗茎に澱粉を蓄え越冬する。翌年の春遅くまで生き続けた葉は、他の植物が新葉を迎える頃、葉を枯らし、夏の間は休眠状態に入る。

 

6) 秋の彼岸に見合って花茎だけをのばして開花する。ハヌケグサやハミズハナミズの別名は状態をよく表した素朴な呼び名である。


7) 高さ30〜50pで鮮紅色の花茎を伸ばし5〜7個を散形花序につける。花披片は細く6個あり、縁は波うち、外側に反り返る。雄しべ6個と雌しべ1個は花披片より長く、弓状に上向きに曲がる。花期は9月・分布は東北より以西。

 

8) 鱗茎はアルカロイドを含み毒性が強いが、何回も水に晒すことで良質の澱粉がとれる。昔の人は救荒植物として田の畦や土手、墓地周辺などに植えて飢饉に備えた。

 

9) 万葉集に「路の辺の の花の く 人皆知りぬ 我が恋妻」の一首が修められているがこの「壱師の花」が曼珠沙華である。北九州地方では「イッシセン・イチジバナ」という方言がある。漢名は。鱗茎の生薬名を石蒜という。

 

10) ナス科・チヨウセンアサガアは別名を曼荼羅華と呼んでいる。インド原産の一年草。全草にアルカロイドを含み、鎮痛剤などの薬用に用いられる。江戸時代に渡来。果実は球形の刮ハで表面にトゲがある。汁液が目に入ると瞳孔を開く作用が強いので要注意。

 

 
   
 4. 24節気と彼岸・・・

 

 24節気の中に春分・秋分がある。その前後1週間ほどを「彼岸」という。初日を彼岸の入り、終わりの日を彼岸明け、なか日を彼岸の中日と呼ぶ。一年間は「立春・春分・立夏・夏至・立秋・秋分・冬至・立冬」の8節気で区分。

 

 さらにあいだ間には中気をもうけ、「雨水・啓蟄〜小雪・大寒などの16節気」を加えて、年間の季節の移り変わりや農作業の時期設定を図り、自然の移り変わりをカレンダーにした。

 

1) 彼岸は日本独特のもので、平安時代に仏教界からの注文で暦に記載するようになった「雑節」の一つである。

 

2) 彼岸は梵語のパーラムの訳。「川の向こう岸・仏様の理想郷・浄土」の意味。こちら側の此岸は「世俗の世界・迷いが満ちた世界」であるのに対し、彼岸は宗教的理想の境地、悟りの世界を表す。

 

3) 春・秋分の前後の7日間を「彼岸会」として先祖の霊を敬う仏事を執り行ってきた。略して彼岸。彼岸の中日は太陽が真東から昇り、真西に沈み、昼夜が等しくなる日である。

 

4) 植物は発芽し〜成長し〜実を結び〜種子を結実して子孫繁栄を図る。植物の中には長日植物と短日植物及び中性植物の3タイプがある。時間の長短を察知する「光周性」は植物の特性である。         

 

5) 太陰太陽暦(陰暦・旧暦)を採用していた1872年以前は、節句や節気、72候でもって年間の歳時記を繰り返していた。1月7日(七草の節句)・3月3日(桃の節句)・5月5日(菖蒲の節句)・7月7日(笹の節句)・9月9日(菊の節句)の五節句を徳川幕府は公式の式日とした。ルーツは古代中国の陰陽五行からきていると言われる。

 

 

(文責:田代 誠一)

 

 
   
   

注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。お互いが研鑽 しながら自然環境の大切さに取り組んでいます。今回の資料作成にあたり、下記の引用・参 考文献を有効に活用させていただきました。

 

【引用・参考文献】
・植物の世界   朝日新聞社刊/伊藤元己著

・仏教植物散歩   東書選書刊/中村元著
・雑草生態学   朝倉書店刊/根本正之編

・草木帖   山と渓谷社刊/飯泉 優著

・野に咲く花   山と渓谷社刊/林 弥栄監修

・花の科学   研成社刊/箱崎美義著

・野草にも名前がある   文芸春秋刊/草野双人著

・植 物   共立出版刊/美濃部侑三編

 
   
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