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森 の 不 思 議    第26話
  「アレロパシーとは他の植物を阻害・促進する作用」
クルミの木は他の植物を阻害する物質を発散しているんです


 皿倉山の山頂から車道沿いに下山する途中に、オニグルミの林を右手南斜面に見ることができます。ここで一寸だけ観察すると、樹冠下の植物が他に比べて何となく疎開した感じがしませんか。

 

 グルミ類は他の樹木との共同社会や共存社会を構成することが苦手な樹木なのです。他の植生が進出してくることに対し、アレロパシー(他感作用)を発散して攻撃するのだそうです。

 

 植物界には未だ解明されていない問題が沢山ありますが、今回はこのような忌避物質や、また誘引物質や殺傷性のフィトンチットなどが課題です。皿倉山にはアレロパシーを保有する植物が他にもあります。保持するかしないかは、植物個体にとっては生き死にの問題でもあるのです。

 

 そこで「アレロパシーの定義」について、樹木社会学・渡邊定元著と、植物の知恵(第1章)・中野 洋・広瀬克利・山田小須弥著の専門書から引用並列したので参考にしてほしい。
 


 
   
 1.アレロパシーの定義
 1-1 アレロパシーの定義 
     [以下:樹木社会学・渡邊定元著より要点引用]


 アレロパシー(allelopathy)とは、「ある植物(微生物を含む)が生産した化学物質の環境への流失を通じて、他の植物に直接的、間接的に阻害的影響を与える現象」として定義づけている。

 植物個体から化学物質が排出され、周辺の植物にアレロバシーの多感作用を与えるようになるには、いろんな経路が考えられる。

 

ア 地中に溶け込んだ化学物質が周辺の植物の発芽や成育を阻害する場合。

イ 植物から放出された揮発性物質(エチレン・二酸化炭素・テルペン類)が、周辺の植物に影響を与える場合。

ウ 落枝や落葉・樹皮などが土壌微生物によって分解され、いろいろな代謝産物が生産され、これが他の植物の発芽や生育を阻害する場合。

エ 植物の根や地下茎から特定の代謝産物が周辺の土壌に分泌され、直接的あるいは土壌微生物によって化学変化を受けたものが他の植物に影響を与える。

オ 経験的に同種植物を連作した場合に、阻害的影響を受ける「いや地現象」がある。このこともアレロバシーである。

 

 1-2 アレロパシーの定義 
     [以下:植物の知恵(第1章)中野 洋・広瀬克利・山田小須弥著より引用]


 自然界を見渡してみると、生物は他の種や個体と競争したり協力したり、またあるときには利用するなど、生物間でじつにさまざまな係わりあいをもって生活を営んでいる。このような生物間相互作用の場においては、化学物質が重要なメッセンジャーとしての役割を担っていることが多い。

 

 植物生理学者モーリッシュ(1937)が「植物から分泌・放出される化学物質が、他の植物に対して何らかの影響を与える現象」と初めて定義した。相互=アレロと、感ずる=パシーの造語でアレロパシーという。=allelopathy

 

 1996年にスペインで開かれた国際アレロパシー会議で「植物・微生物・動物などの生物により同一個体外に放出される化学物質が、同種の生物を含む他の生物個体における発生・生育・行動・栄養状態・健康状態・繁殖力・個体数、あるいはこれらの要因となる整理・化学的機構に対して、何らかの作用や変化を引き起こす現象」と定義されている。

 

 ◆アレロパシー物質はその作用によって主に3つに分類・・・


ア 自身を守るため周りの植物の成育を阻害するアロモン(allomone)
イ 手の植物の生育を促進する物質でカイロモン(kairomone)
ウ 物間における共栄的な関係に寄与する物質でシナモン(sinomone)

 

 本稿では判りやすくするために、アロモンが関与する場合を阻害的アレロパシーといい、カイロモンおよびシナモンが関与する場合を促進的アレロパシーということにする。

 
   
 2.アレロパシー作用を示す阻害物質は・・


  アレロパシー作用を示す物質は、ユグロンのような特有の物質から、α−ピネンなどのテルペン類のように自然界にごく普遍的に存在しているものまで多様である。

 

1) クルミの毒素は、植物体内では安全で毒性のない結合態で存在しており、葉や幹から溶出されて土壌中に入って活性化されて、はじめて毒性を呈するのである。

 

2) オニグルミ類にとってユグロンは、他の競争種を排除する有効な生態防御物質であって、自然界では発信者にとって有利なアロモンとして作用している。

 

3) ユグロンはトマトなど多くの植物を枯死させ、レタスなど種子の発芽を阻害する。

 

4) ユグロンが全ての植物に有効に作用を及ぼしているかというとそうではない。ツツジ科植物や多くの広葉植物は排除されるが、ササ類は林床に繁茂し、ハルニレの幼木は樹冠下で生できる。



5) ユグロンは昆虫に対し摂食阻害活性を示し、植物対植物のみならず植物対昆虫の間でも特異な役割を果たしているらしく、ニレキクイムシには強い阻害物質として作用するが、クルミを宿主としているキクイムシ類には作用を及ぼさない。



6) ナギもアレロパシー物質を分泌する樹木。奈良の春日大社の近くにナギの純林があり、天然記念物に指定されている。ナギが鹿の食害から逃れ、林床に他の植物が生育できない理由の一つは、ナギに含まれるナギラクトンの作用とされている。

 

7) 世界に600種を数えるユーカリ類は、揮発性のモノテルペンを多量に含み、フィトンチッド物質として知られている。ユーカリの葉の細胞内にある液胞に貯えている精油は、他感物質のほか、虫を寄せ付けない(蚊に対して強い忌避作用)物質を貯える器官とみなされている。

 

8) シソ科サルビア属やキク科ヨモギ属の低木林では、山火事の跡の1〜2年のうちに1年生草本の草原に変わる。これは低木類より発散し土壌に蓄積されたテルペン化合物のアレロパシー物質が、山火事の熱で揮発し種子の発芽抑制の効果が消失したためである。

 

9) しかしながら、3〜4年後になると低木が定着し、5〜7年後は低木からテルペン類が土壌中に蓄積し飽和されると、アレロパシーの発芽抑制効果が現れ、低木のまわりには1年生の草本の発芽が抑制され、裸地ができあがる。この現象は25年間隔の山火事まで続く。

 以下の内容は、植物の知恵(第1章)・中野 洋・広瀬克利・山田小須弥著より引用

 

10) エンパクの阻害物質としてスコポチレン(根から滲出)・・コムギからバツリン阻害物質(落葉や落枝の分解)・・ブルーガムからクロロゲン酸阻害物質(植物体から溶脱)・・コーヒーからカフェイン阻害物質。近年では農業にアレロパシー物質の利用が注目されている。果樹園などの雑草防除はその一例。

 
   
 3.促進的アレロパシー物質について


 ある植物から様々な経路をたどって外界に放出されたアレロパシー物質によって周りの異種植物の成長が「促進」される現象は、身近で結構知られている。

 

1) ソラマメとトウモロコシ、エンドウとエンバク、ルーピンとソバなどの組み合わせは、共栄作物(コンパニオン植物)と呼ばれる。それぞれの植物を畑で単独に栽培するよりも混植したほうが、それぞれの生育量が増大し、収量も増加することが経験的に知られている。

 これにはアレロパシーが関わっていると考えられているが、アレロパシーの化学構造は明らかにされていない。

 

2) 最近、韓国の研究グループは、ネギを栽培した跡地でイネを栽培すると収穫量が増大するいうアレロパシーを報告している。物質は糖アルコールが候補にあがっている。

 

3) クレス(ナズナの一種)種子の混植実験で観察された促進的アレロパシーに関する物質の単離・同定がなされ12科・22属24種の植物の種子分泌液から「レピジモイド」の存在が確認された。

 

4) レピジモイドは種子発芽時だけでなく、植物個体でも内生されている可能性を示唆する報告もあり、レピジモイドは植物の生活環において機能している植物ホルモン様の物質の可能性が高い。

 

5) 近年、レピジモイドの生理作用を利用した農作物への応用展開の可能性について検討されている。異常気象などにより安定供給を図るうえで、光・温度・湿度などを制御した屋内条件下で作物を栽培し、収益性の向上や安定供給を図ることを目的とした植物工場である。

 

6) レピジモイドの有する作物の成長促進やクロロフィル合成系の促進といった生理作用は、生産効率性の向上や光エルネギーの省力化に大きく貢献するものと期待され、植物工場での実用化に向けて様々な検討が加えられはじめている。

 

7) オクラの粘性多糖は血糖値降下活性や抗補体活性が報告されている興味ある糖タンパクでもある。供田ら(1980)はオクラの未熟果実の果肉(種子除去)から純品を単離し、糖部分の構造を明らかにしている。

 
   
 4.アレロパシー研究の今後の課題


 植物は様々な生育段階においてアレロパシー物質を巧みに利用しながら異種植物の成長に阻害的あるいは促進的な影響を与え、同時に自己防衛をおこなっていることが推測される。

 

 アレロパシーの研究は決定的なモデル植物が確立されていないこともあり、物質作用のメカニズムについての体系的な研究はこれまでのところなされていない。

 

 その作用メカニズムを解明することは、植物が長い進化の過程で獲得してきたであろう生物機能を理解し、それを利用した農業・産業界での応用展開につながるものと考えられる。

 
   
 5.フィトンチッドについて :[以下:樹木社会学・渡邊定元著より要点引用]


 フィトンチッドは、正常な植物のもつ揮発生物質が微生物など他の生物を殺傷する現象、すなわち、植物に対してではなく動物・細菌・菌類に対する相互作用であること、ならびに植物が気相を通して(水生小動物の場合には液相に溶け込んで)殺傷作用を行っている。

 

 樹木の発散するフィトンチッドは、細菌などに対する殺傷作用が指摘されたことから、ヒトの健康との関係に興味がもたれ、森林浴の言葉とともに一般に知られるようになった。

 

1) フィトンチッドは、植物の気相に放出されているアレロパシー物質と同じ成分に対して、前者が植物に対する他感作用として、また後者は小動物・菌類に対する殺傷性として注目された点が異なり、後者は気相を通じて作用しているところに特徴がある。

 

2) トーキンは1954年、ドイツトウヒ・ビャクシン・ヨーロッパシラカンバなど樹木の葉や、エゾノウワズミザクラの実、ニンニクを切り込んで、数p離れたところにアメーバ・ヒドラを含んだ小水滴を落とすと、しばらくしてこれらの原生動物が死滅してしまう現象を発見し、この植物と微生物の相互作用をフィトンチッドと名付けた。

 

3) 植物に普通に見られる青葉アルコールは新茶の香りとして知られているが、エンドウマメの成長には微量では成長促進、濃度が濃くなるにしたがい成長を抑制、ある濃度以上では植物は致死させる。

 

4) 自然界で気相下のアレロパシーはフィトンチッドとして知られている。ヒノキアスナロの森では、モノテルペンのα−ピネン、β−ピネンが発散され、森全体を包んでいる。殺菌作用によって森林浴が健康によいとされる理由となっている。

 

5) オセアニアに産するユーカリ類も葉からいろんなアレロパシーを放出している。オーストラリアの東海岸に連なる山脈は、ユーカリの葉から発するテルペン類でいつも青く霞んでいる。


6) このブルーマウンテンの現象は、日本でも初夏の高山で普遍的にみられる。森林限界にタケカンバ林が発達し、この森林では開芽時期に森一面が青く霞む。晴天の日の出時がよい。

 

7) ダケカンバの開葉からはゲラニオール・ベンジルアルコール・フェニチルアルコールやオイゲノールの成分が発散されて、すっきりした山の香りを体験できる。ダケカンバ林を推薦。

 

8) カンバ類の精油成分は、多くの花の香り成分と共通している。風媒花でかつ風散布種のカンバ類が、なぜこのような香り成分をもち、開芽、開葉期に一斉に香りを発散させるのかは不思議な現象である。

 

9) 精油成分の生理活性試験の結果、気相下では成長促進・濃度が高くなるにつれ成長抑制に働く生理活性が認められた。

10) 精油成分は冬乾燥期の冬芽保護の重要な役目をもつていると考えられるが、保護だけならば何も香り成分でなくてもよい。

 

11) カンバ以外の植物では、エンドウマメの芽生えの成長促進・抑制の生理活性パターンを示す働きをしている。

 

 

(文責:田代 誠一)


注:植物談義あれこれ・森の不思議を連載していますが、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用の資料として書きとめた内容のものです。お互いが研鑽しながら自然環境の大切さを理解し、実行し、伝えることが愛護会活動の主題です。 今回の資料作成にあたり、下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。

 
   
   

【参考引用文献】


・樹木社会学  東京大学出版会/渡邊定元著
・植物の世界9巻  朝日新聞社刊/勝見允行著
・植物生理学  放送大学教育振興会/神坂盛一郎著
・植物の知恵  大学教育出版/中野 洋・広瀬克利・山田小須弥著

 

 
   
 
   
   
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