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森 の 不 思 議    第20話
  「空気中の窒素と「植物・食物」とのかかわり」
窒素は約78%もあるのにその役割はあまり知られていないのです

 

 現在の大気の組成は窒素ガス78%、酸素ガス21%、炭酸ガス0.03%の割合にある。地球誕生以来、永年かかって現在の大気組成が完成したが、安定した大気こそ、地球上の生物が繁栄していく上の基盤である。しかし、それが次第に怪しくなりつつある。

 

 核の脅威と環境問題は人類が抱えた大きな課題であるが、この二つの内で優先するのは「環境問題」だとする答えが帰ってきた。それだけ地球環境は深刻なのである。

 

 核拡散とか核使用はまだ止められる状況にあるという反面、地球温暖化などの環境悪化は最悪の状態に突き進んでいる。地球壊滅の5分前の状態にあるともいう。

 

 それほど深刻な方向に進んでいる地球環境であるにも係わらず、先のIPCC(気候変動に関する政府間パルネ)会議の中でも指摘するとおり、二酸化炭素の排出大国は依然として知らぬぷりである。

 

 今世紀末の地球の平均気温は最大で6.4℃も高まるという。海面上昇は最大で59pに達する。それぞれの国でも海抜0mの地域を抱えていると思う。そのような場所に海水が押し寄せてくるのは目前であることを痛感すべきである。

 
   
 1.大気と植物との生いたちは・・それは長い長い  年月を経過して・


 地球上に光合成の能力をもった生物が出現したのは、今から約30億年前の原始大気の頃であると言われている。その頃の原始生物は光エネルギーを吸収して炭酸ガスを還元同化するのに、水素ガスや硫化水素などを使用。この頃は植物による酸素の発生はない。

 

 さらに時代は次の時代へ進化し、約4億年前のシルル紀になると、いよいよ酸素の発生がみられる。生物の住めない地球に生命の息を吹き込み、緑の地球を築き上げてきた主役は、「藻類(シアノバクテリア)」の活躍である。これ以降植物の地上への上陸が始まる。

 

(下記の表は、30数億年間における大気の成分の移り変わり・・数値は%)

  窒素ガス 酸素ガス 炭酸ガス 硫化水素 アルゴン 備     考
原始大気

90  
シルル紀 97 0.2 約4億千万年前〜
現在大気 78 21 0.03 0.9  

 

 以下について、地質時代の「石炭紀」以降の概要をまとめてみた。


★約3億年前(石炭紀)・・大森林と昆虫が繁栄・裸子植物の多様化・爬虫類の出現・シダ植物の全盛時代
★約1億8千万年前(ジュラ紀)・・恐竜の繁栄・鳥類の出現・現生群の裸子植物出そろう。
★約1億年前(白亜紀)・・・被子植物の繁栄始まる。

 

 約6千5百万年前(中生代〜新生代)・・中生代型の生物絶滅・陸海空を支配した恐竜の絶滅・現生型の植物出現・大気の酸素量は現在に近づく

 
   
 2.窒素固定のできる植物とは・・?

 
 窒素・元素記号Nは、空気中に体積で約78%含まれる。単体は無色・無味・無臭の気体。
 窒素はタンパク質や核酸などの成分であり、人間の生活の中で毎日大量に摂取する必要のある元素である。

 通常、植物は気体状の窒素を栄養分として利用することはできない。硝酸イオンやアンモニウムイオンの形で根から取り込む。窒素ガスを植物が利用できる化学形態に変えることが窒素固定である。

 

1.人間は植物が固定した窒素をタンパク質や核酸の形で摂取して生きている。体の中の窒素はマメ科植物から摂取した分が約53%、工場で生産された化学肥料に由来する関連植物のものが約47%を占めている。

 


2.窒素固定を行う植物は、マメ科植物が代表的であるが、森林ではカバノキ科のハンノキ、ヤマモモ科のヤマモモ、ドクウツギ科、グミ科などの木本性植物で窒素固定が行われる。

 

3.裸子植物のソテツや水田で繁茂するアカウキクサにも窒素固定の能力がある。それも根粒菌や放線菌(カバノキ科と共生)・藍藻(ソテツなど)との共生によって窒素を固定。


4.
土の中の細菌(根粒菌)はマメ科植物の根に住みついて、大気中の窒素を植物が利用しやすい形(無機物の窒素化合物)に変え、タンパク質の原料としてマメ科植物に与えている。

 

5.マメ科植物の根粒は、植物と根粒菌の共同作業によって形成される。生物的窒素固定はマメ科植物による特性である。人間にとっては重要な意味をもつ。

 

6.根粒菌が進入後につくられる植物側のタンパク質はノジュリンと総称し、その中の「久保秀雄」が発見したレグヘモグロビンは、その構造や性質および機能が、脊椎動物の赤血球中の酸素を運ぶヘモグロビンによく似ている。

人間が生きる上でマメ科植物ほど関係深いものはない。窒素化合物なしでは植物も人間も生きていけないのである。

 
 
   
 3.実際は窒素は足らない・・その分は工場で生産・・
 

 マメ科植物の活動による生物的窒素固定は、年間1億8千万トンにも達する。この内農耕地での窒素固定は約9千万トンで、その大部分はマメ科植物によるものと考えられている。

 

 自然界には植物が生きていくだけの養分の貯蔵がある。森林の植物は、生育に必要な10元素を地中の根から吸収し、道管、仮道管を経由して枝条の先端にまで輸送している。

 

 従って、人工的に補給することはない。ところが農業における連年耕作の過程では窒素・リン酸・加里の不足がめだち、肥料として散布が必要になってくる。

 

1.1992年の統計によれば、世界で消費される化学肥料は、年当たり窒素約7500万屯・リン酸3600万屯・加里2400万屯であり、窒素が最も多い。

 

2.製造エネルギーは、窒素肥料1s当たり、1万3700ki(アンモニアの生産)で、リン酸や加里肥料の約6.5倍が必要である。

 

3.肥料生産のために年間約7億バーレルの石油(石油換算量)が消費されている。これは日本の原油輸入総量約16億バーレルの45%の量に相当する。

 

4.このことを生物的窒素固定を行うマメ科植物の活動と比較すると、地球環境にやさしいマメ科植物の活動に比べて、「化学肥料生産」は地球温暖化を促進しているといえる。

 

5.田畑に施された窒素肥料の約40%は、硝酸や亜硝酸となって河川や海に流失し、環境の汚染源になっているといわれている。また一部は亜酸化窒素ガスの化学反応を起こし、温暖化のほかにオゾン層の破壊にも関与していると考えられている。

 

6.人間は生きていく上での栄養の大半は植物から吸収している。また食糧を賄うには食物生産に肥料を使わざるを得ない実態から見て、このジレンマを解決することが急務だと思う。

 

7.地球規模の人口増は、水の確保や耕地の開拓、食糧の増産、化成肥料の生産など、悪循環を繰り返すことになる。この必要悪の循環を断ち切る一つの方策として「生物的窒素固定を行う植物の研究開発」がある。マメ科植物のような根粒菌と共生できる植物が増えることで、地球が救えるのである。

 

 
   
 4.根粒菌は窒素肥料不要の救世主・・
 

 世界の三大作物は、穀類・マメ類・イモ類とその他に分けられる。穀類の大部分はイネ科植物でデンプンを主成分とし、コムギ・イネ・トウモロコシ・オオムギ・アワ・キビなどがある。

 

 マメ類はすべてマメ科に属する。ダイズ・ラッカセイ・エンドウ・ソラマメ・インゲンマメ・アズキなどが主なものである。食糧としての利用部分はその種子である。2枚の子葉に蓄えたタンパク質と脂肪が主成分である。

 

 イモ類は植物体の地下の一部が肥大成長したもので、主としてデンプンを蓄積。塊茎(ジャガイモ・サトイモなど)を利用するものと、塊根(サツマイモ・キャッサバなど)とに分けられる。イモ類はヒルガオ科・ナス科・トウダイグサ科・サトイモ科・ヤマノイモ科など色々。

 

1.人類はデンプンやタンパク質・脂肪を含む穀類・マメ類・イモ類をうまく組み合わせながら栄養を吸収している。その中でも栄養豊富で、痩せ地にも育ち、環境にやさしいダイズについて見直してみたい。

 

2.土中の根粒菌との共生によって、空気中の窒素を吸収・利用できことから痩せ地でもよく育つ。窒素固定能力はマメ科植物に共通の特性だが、ダイズは窒素固定に依存する割合がとくに大きい。

 

3.ダイズの窒素総吸収量に占める固定窒素の割合は通例50%前後であり、時には80%以上も占める。このため窒素肥料の施肥は少なくてすむし、環境汚染の恐れが少ない作物である。

 

4.ダイズの豆は約40%のタンパク質と約20%の脂肪を含む。豆腐・納豆・味噌・醤油などは日常生活に欠かせない加工食品である。ダイズ粕は飼料や加工食品の原料でもあり、捨てるところがない。「畑の肉」の別称は有名。


(文責:田代 誠一)

 
   
   
【参考文献】

「樹木社会学」 渡邊定元著  東京大学出版会
「植物の世界144巻」 高橋晃・寺島一郎・福田泰二・西野栄生・各著  朝日新聞社
「基礎栄養学」 木戸康博ほか著  講談社サイエンティフィク 他

 
   
 
   
   
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