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森 の 不 思 議    第19話
  「樹木は年々成長・太るのはどの部位でしょうか・・
大きくなるにしたがって、水分を運ぶ高さは次第に高くなります

 

 幼苗のころは30pほどの高さですが、これが5年・10年・20年となるにつれ、樹高は3m〜5m〜10mと伸びていく。 

 世界一の樹高は米国カリフォルニア州のセコイアメスギの巨樹のことで、高さ112mあると言われている。当然梢端部まで水は引き揚げられている。

 

 成長の仕組みは上長成長と肥大成長がある。上長成長は地球の引力に逆らって上方に成長することであり、成長点は幹や枝や根の先端に集中する。この部分の細胞分裂だけでは丈夫な幹はできあがらない。

 肥大成長は樹皮の内側にある薄皮の部分に維管束形成層という二次分裂組織が連続して面状に樹幹のほぼ全周を覆っている。植物の細胞には丈夫な細胞壁があり、新しい細胞に置き換わることができないため、古い細胞の上に新しい細胞を上塗りする形となる。

 

 これらの成長細胞の活動がしだいに高い位置に移ったり、広範囲になるにつれて、水分や養分の運搬距離は伸びていくことになるのだが、どうして切れ目無く、高い位置まで水分を運ぶことができるのか..?この課題は少し複雑な様子が見え隠れする。

 

 
   
 1.高50mは、ビルの12階の高さに相当・・水を揚げる仕組みは・・


  マンションや高層ビルの屋上には水タンクが置かれている。電力を使って水道水をタンクまで押し上げ、モーターに頼った仕組みの中で給排水が行われている。

 

 一方、樹木の梢端部まで如何にして水が送られるのか。この点が重要な課題である。そこには空気の圧力とか、浸透圧とか、毛細管現象などが関係してようだが、これだけでは説明がつかない。(ボールペンのペン先へのインクの供給は、この毛細管現象を利用している)

 

 

ア.植物が水を引き揚げる大きな力を生み出すのは蒸散である。植物の葉の表裏には気孔という呼吸をする口のような形をした器官がいくつも付いている。
(写真:植物の世界14巻より引用・・タバコの葉の気孔)

 

イ.この気孔から植物体内の水分が水蒸気となって外へ蒸発していくが、蒸散によって水が失われると、根毛から吸水が作動して引き揚げられる仕組みになっている。しかも連続的である。

 

ウ.またこの仕組みが可能なのは、水のもつ凝集力が大いに関係している。水柱は水の凝集力によって切れることもなく連結し引き揚げられていく。

 

エ.高く引き揚げられる仕組みにも限界がある。世界最高の樹高はカリフォルニア州のセカイアメスギの約112mである。計算上はもう少し高くなるというが、証明不可能。

 

オ.蒸散作用とか、凝集力が大いに関係しながら高い位置まで水を引き揚げる説明は科学的であるが、実は冬場の落葉樹は蒸散作用を停止しているのに、水は引き揚げられている。この不思議な現象については、未だ科学では説明できないのである。


 
   
 2.水と養分の流れについて再検証・・道管とは、篩管とは、維管束とは

 
ア.被子植物の広葉樹系は、根毛で吸水した水分を道管(裸子植物の針葉樹系は仮道管)という配送パイプを使って、幹・枝・葉の梢端までくまなく配給。養分は表皮に近い篩部に篩管(裸子植物は篩細胞)を配備して全体に配送している。

 

イ.太陽光を受けた葉肉細胞(葉緑体)では、気孔から二酸化炭素を取り入れて光合成が行われ、造られた同化産物は水溶液として維管束の篩部へと運ばれ、いろんな部分に配られる。

 

ウ.裸子植物の仮道管の水輸送は、細胞から細胞へ水を受け渡す古いシステムで吸い上げられる。この方式の方が水を運ぶ効率は悪いが、水柱が途中で切れる危険性はない。

 

エ.根毛から吸収された水分は、大きな細胞の集まった皮層・内皮を通って道管にいたる。水分は樹高が高くなるほど、水柱が切れる危険性を増すため広葉樹はそんなに高くなれない。

  その証拠に樹高の高い裸子植物は、仮道管の水柱の優位性からスギ・ヒノキなどのように高く伸びる。

 

オ.つる植物は、支える必要のない細長い茎からできているため、道管は根と葉の間を高速で大量に水を通道する機能優先につくられている。

  切り口で肉眼で見えるほどの太い道管や篩管(これは見えない)をもっている。例えば高木のブナでは0.1o、フジやクズでは0.5oもある。

 

カ.裸子植物の仮道管から被子植物の道管が完成するのに約1億年の進化の時間を費やしている。道管は仮道管に比べて細胞が著しく太くなり、水道管のような空洞組織を備えたことで、水分通道の機能を高めるようになった。

 

キ.維管束痕は目で確かめることができる。落葉期に葉身または葉柄の基部に離層が形成される。道管細胞は離層組織で分断され、物質の流通はしだいに妨げられ、葉身は離層のところで容易にはげ落ちる。

 

 落葉の跡はコルク層に被われるが、それぞれの植物特有の葉痕を見せる。その形は半円形から円形で、そこが道管を含めた維管束痕である。

 

写真:チャンチンの維管束の痕跡。6カ所の維管束が1枚の葉肉と繋がり、水分と養分を配送していたことを現す。

 

ク.道管や篩管の配列は、木材の切り口の断面を見ることでより明確になる。円形の年輪は中心の一年生から年々成長したぶんだけ、その輪を増やしていく。

 
   
 3.木が太るのはどの部分か・・細胞分裂は維管束形成層で行われる
 

 植物は進化の過程で水中から陸上へ進出し、維管束の発達によって、水分と養分の通道系を確保し、自らの体を支える機能を分化し、さらに葉や根を分化させ、維管束植物に進化した。

 

 現生の維管束植物は、花を咲かせる種子植物の仲間の裸子植物や、被子植物の中の双子葉植物だけが樹木になりうる維管束をもつ。

 

ア.樹木が大きく成長するには、強靱な木部を発達させ、支える力となる心材成分の蓄積が必要である。樹幹の周辺を包む形成層細胞が幹の横方向に活発に分裂し、新しい細胞を生産して幹を太らせる。これを肥大成長と呼ぶ。

 すなわち、維管束形成層が木材部を完全に包み、活発な細胞分裂により新鮮な木部や篩部を永続的に生産している。

 

イ.水分や同化産物は幹の上下に輸送されると同時に、樹幹の水平方向にも移動する必要がある。このため木材部、形成層、樹皮部を放射状に貫通する放射組織が存在している。

 広葉樹のブナ・ナラ・カシ類の木口面を見ると、放射組織が木部と篩部にかけて必ずあるが、針葉樹では非常に細くて肉眼ではわかりにくい。広葉樹では何本もの太い白い筋が放射状に広がっている。

 

ウ.細胞分裂を促進するには、原料=養分が必要。養分は樹冠を構成する葉の気孔から二酸化炭素を吸収し、太陽エネルギーと根から運んだ水を使って光合成により生合成された糖分を、形成層の外側の篩部という組織に運び、細胞を生産する原料に使用。

 

エ.光合成に必要な二酸化炭素は、気体の状態で植物細胞内に入ることはできず、水溶液にならなければならない。二酸化炭素の取り込み口(気孔)は、常に湿った状態でなければならないが、水は空気にさらされれば蒸発する。

 また光合成の効率を上げるには葉を太陽に向けて広げればいいのだが、大きな蒸散面積をつくることになることで、吸収と蒸散のジレンマがつきまとう。

 

(絵図:写真で見る植物用語・全国農村教育協会・岩瀬徹ほか著より引用)


オ.
樹冠の葉量は光合成同化産物の生産量を決め、ひいては細胞数を抑制する。従って、樹幹の成長を促すには樹冠の勢いが重要なのである。

 

カ.樹冠の量を人為的に除去する作業がある。林業における「枝打ち」がそれであり、下方の幹が太らないように抑制する作業が枝打ちである。通常は樹幹は円錐形の形にあるが、優れた円柱形の幹=丸太の生産目的のためには、必要な林業技術の一つである。

 

キ.養分を蓄える場所は植物によっていろいろある。樹木は幹に蓄え、サツマイモは根に蓄える。コンニャクの芋は正確には地下茎(塊茎)である。単子葉植物のタマネギは鱗茎とていい、養分や水分を貯蔵した葉が短い地下茎に多数ついている。そのほかダイコンやむかごがある。

 
   
 4.植物の呼吸はどうなっているの・・気孔に代わる皮目とは・・
 

 蓮根にはいくつもの穴がある。この穴は細胞と細胞の間の透き間である。細胞間隙は空気の通り道であり、植物の細胞は呼吸に必要な酸素をここから取り入れる。地下茎を発達させる植物にとって、細胞間隙は通気組織として特に重要な役割をもつ。

 

ア.植物のほとんどの組織にはこのような微細な細胞間隙が隅々まで存在し、ネットワークが形成されている。細胞間隙は気孔を介して外気と直接通じているため、空気はネットワークによって植物全体にもたされる。また体内で生じた気体はネットワークを通じて気孔から排出される。

 

イ.葉・茎・根の全ての生きた細胞は、呼吸に必要な酸素を細胞間隙から取り入れ、生じた二酸化炭素を細胞間隙から放出する。光合成に必要な二酸化炭素も、その結果生産される酸素も細胞間隙を通じて出入りする。葉で1日の気体の出入りを計測すると、酸素はプラスで、二酸化炭素はマイナスになる。

 

ウ.茎の外側はコルク組織で被われたり、堅い表皮で被われるため気孔はないが、その代わりに皮目という組織が樹幹の外周に多く見られる。皮目は細胞間隙ネットワークにつながっていて、気孔と同様、植物体内と外部との空気の流通口である。

 

エ.大気の構成は窒素78%・酸素21%・二酸化炭素0.03%の割合にある。植物が呼吸したとき細胞間隙に流れ込むことになる。

  大量にある窒素は気体のままでは使えない。そこで次回は窒素の行方を課題にして、窒素の効果をまとめてみたい。

 

 (文責・田代 誠一)

 


★木はどんな物質でできているのか・・・

木を構成する化学成分は、炭素約50%・水素約6%・酸素約44%であり、この元素組成は樹種が異なってもほとんど変わらない。窒素は含まない。

木材を構成する細胞は、セルロース・ヘミセルロース及びリグニンに大別される高分子の化学成分によって構成。
 
   
   
【参考引用文献】

植物の世界8巻・門田祐一ほか著
同12巻・藤田稔・高橋晃ほか著
花・鳥・虫のしがらみ進化論・築地書館・上田啓介著
花ごよみ種ごよみ・文一総合出版・高橋新一著
木のびっくり話・講談社・日本木材学会
写真で見る植物用語・全国農村教育協会・岩瀬徹ほか著

 
   
 
   
   
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