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森 の 不 思 議    第16話
「種子の旅立ちには風・水・動物などが関係」
旅立つときは天気や風を感知する能力をもつ
 
   
1.種子の親子関係は放任主義

 

 毎年紅葉や落葉の時季になると種子の旅立ちがはじまる。動物の親子関係は子どもが独り立ちができるようになるまで、親が見守るのが普通の生活形態である。

 ところが、旅だった種子は自己の能力の中で生きのびるしかないのであって、親に頼るような生活は全く望めないのである。植物の親子関係は冷たいのです。

 

1.親木の傘下や周辺では後継樹となる稚樹の発生をあまり目にしない。このことを親個体傘下排除説という。(樹木社会学・第4章・種子散布の適応戦略・渡邊定元著より)

 

2.親木が生き続けるうえで、同じ形態をもつ種子の発芽を許すほどあまくないのです。先ざきで起こりうる競争関係を未然に防いでいるとしかいいようがない。不思議な現象である。

 

3.植物の種子はどれをとってもセンチ(p)からミリ(o)の小粒だが、芽生えから幼樹〜低木〜高木へと成長していく過程を想像すると、とんでもない生物である。

 

4.小さな種子は子孫繁栄の責務を担いながら、その使命感達成のために、他の生物では見られない忍耐力や生命力を発揮する。どこに「精密機能」のDNAが隠されているのか。 

 
   
2.さまざまな種子散布様式

 

 植物の種子の散布方法は、風散布や水散布、動物散布や重力散布、機械散布などに区分される。風散布が最もポヒュラーで、風を利用することから翼や冠毛を具備している。 

(写真:カエデの種翼)


 たどり着いた土地が生育適地であれば幸せな将来がほぼ約束されるが、着地点が不適地であったりすると、種子の生涯はたいへん過酷な環境に立ち向かうことになる。

 

【風散布には翼か冠毛が必要】
1.果実や種子が風を利用するための形態として最も顕著なものに、翼と冠毛がある。翼は比較的大型の種子や果実に、小さくて軽い種子や果実には冠毛が多い。

 キク科植物の特徴の1つに、果実(痩果)が冠毛をもつことにある。冠毛の形は鱗片状や芒状、棍棒状などさまざまである。

 

カエデの種翼

2.日本で風散布をする木本植物のうち、冠毛をもつものは、ヤナギの仲間 (果実は朔果で種子には胚乳がなく、基部に種髪をもつ)とテイカカズラ (種髪は純白)ぐらいだと言われている。

 

★白色冠毛をもつもの:ススキ・タンポポ・キツネノアザミ・オニタビラコ・オオジシバリ・カノコソウ・ガガイモなど。

 

★褐色冠毛をもつもの:キョウチクトウ・フジバカマ・ツワブキ・コウゾリナなど。

★翼果をもつもの:ウバユリ・サルスベリ・オニドコロ・オミナエシ・ツルニンジン・ヤマノイモなど。


タンポポ綿毛

3.冠毛をもつ種子は風を有効利用するために、湿度の高いときは避けて、乾燥した空気のもとでのみ飛び立つ仕組みになっている。

 

4.ほとんどの木本性の風散布植物は、翼のある果実や種子をつける。翼は回転しながらゆっくり落ちるものと、もっぱら滞空時間を延ばすことが主目的である。

 

★翼果をもつ木本類:マツ類・カエデ類・トネリコ・カツラ・ユリノキ・アキニレ・キリ等

 


 球果植物のなかで、球果が木質で果鱗が螺旋状につき、種子は種麟に2 個ずつつくのが、 マツ科である。マツ科は裸子植物の中で最大の科で 世界中に220種がある。松笠は雌の球果で約2年かけて成熟。

 

 アカマツ・クロマツはマツ亜科に細分類。枝に長枝と短枝があり、球果は長枝の先につく。秋には緑色の松笠(今年の春もので未熟果)と茶色 の松笠(前年もので成熟)が同居している。

 

 球果は成熟すると下向きになり、種子が飛び立つ態勢をつくる。風のある日で晴天の頃を見計らって「種翼」に風を受けながら舞い散る。

 
   
   【水による散布】


 1.水を有効利用して種子を散布するためには、水に浮くために表面にコルク組織が発達していたり、水をはじく構造であったり、長期間の浮遊に耐えるよううになっている。風散布散布型は浮遊に耐えず、直ぐ沈んでしまったり、発芽能力を失ってしまう。

 

 2.ココヤシの実やハマユウの種子は、海流にのって日本の海岸に広く見られる。

 
   
   【動物に付着して散布・食べられて散布】


1.
動物の体表に付着して運ばれる動物付着散布と、動物の摂食活動にともない運ばれる動物被食散布の2タイプがある。

 

2.付着散布型は種子や果実の表面に針のようなものが多数あったり、粘液をもっていたりして、動物の体に付着して散布される。


アメリカセンダングサ・ヌスビトハギ・オナモミ・ミズヒキ・イノコズチ・メナモミ・ヤブジラミ・ブタクサ・ウマゴヤシ・オオオナモミなど。

 

3.被食散布型で鳥に食べられて種子散布される果実は、消化器官をとおり多くの場合糞に混じって排出される。果肉は運んでもらうための報酬としてついている。

 

4.鳥に食べられる果実は、赤を中心とした鮮やかで比較的単純な色彩をしているものが多い。渡り鳥が食べると散布距離もぐっと延びる。ムラサキシキブ・ヒサカキなど。



ゴンズイとヤマフジ シロダモ ビナンカズラ
ゴンズイとヤマフジ シロダモ ビナンカズラ


5.
ホシガラスはキタゴヨウの種子を亜高山の裸地に貯食し、マツ林が形成される。貯食型動物散布ではこの説が支持される。

 

6.ヒヨドリはアオキの果実を胃に飲み込み、果肉を除去したのちペリットとして吐きだし排出する。その種子の体内滞留時間は1時間以内であり、果実、種子の小さいほど平均滞留時間は長く、小さいものほど遠方に散布されることが示唆された。

7.ムクドリではサクラの果実をペリットとして吐き出す時間は、1個を摂食した場合は平均で65分〜最大125分、2個の場合は14分〜最大47分という調査記録がある。

 

8.ヒサカキは果肉がついた状態ではほとんど発芽できず、種子の発芽には鳥類の摂食が必要である。ミズキの場合、普通、最大散布距離は100m程度の距離を示している。

 

 一般に果肉には発芽阻害物質が含まれ、果肉が除去されペリットや糞として動物の体外に排出されることによって、種子の休眠が打破される。果実は被食されることによって散布され、発芽できる特性をもっている。

 

 
   
   【食べ残し型散布とアリ散布】


1.ネズミやリス、カケスなどの鳥類は、ドングリなどの食物をその場で食べるだけではなく、いったん貯蔵してから後で取り出して食べるという習性をもっている。

 

2.昆虫は種子散布にはほとんど関与しないが、アリだけは例外である。スミレ属・キケマン属の種子や果実には、付属体=種冠と呼ばれるアリの好む物質を含んだ部分があり、アリはそれに惹かれて種子を運ぶ。付属体は食用部分として貯蔵され、種子本体は放棄される。

 

3.アリの巣周辺に新たな生育地を得ることができる。動物に与える報酬部分と植物自身の繁殖のための部分とを明確に区分できる。

 

  種冠をもつ・・ヒメオドリコソウ・ムラサキケマン・オドリコソウ・クサノオウ・カタクリ・ホトケノザ(4分果・小さな種冠をつける・3稜あり)

 
   
   【重力散布型】

 
1.
親植物からその直下ないしは周辺に重力落下するものに、シラカシ・クリ・シイ・チャ・ツバキなどがある。

 

2.ミズナラなとブナ科植物の堅果(ドングリ)のサイズは大きい。澱粉や脂肪の蓄積されている堅果は動物に菜食されるために大きくなったといわれている。従って散布者との共存関係なくしては、ブナ科植物の更新は不可能に近い。

 


クヌギ シイの実 機械的散布型のジャケツイバラ
クヌギ シイの実 機械的散布型のジャケツイバラ
 
   
   【機械的散布型】


1.果実が成熟し裂開する力で、中の種子をはじき飛ばすもので、空気が乾燥しているときがよく飛ぶ。種子は小さなものが多く、ツリフネソウ・ホウセンカ・スミレ・ゲンノショウコ・カタバミ・ヤブマメなどが該当する。

 

2.大きい種子のヤマフジ・ジャケツイバラなどもはじき飛ばす。

 

★ゲンノショウコは昔から民間薬として貴重種。薬効がたちどころに現れることから「現の証拠」と言われた。多年草で蕾のときは下向きに、開花とともに上を向き、雄花期から両性期へ、それから雌花期と変動し、自家受粉をさけている。

 裂開した果実は、湿度の高い時はつぼみ、日当たりの良いときに種子をはじき飛ばすという細胞の膨張、収縮の運動を乾湿運動という。

 
   


 植物の種子散布は、以上のような散布様式に従って種子の旅立ちをはかっている。今回はページの都合でここまでです。到着した地点の環境はさまざまであり、寿命の長短、種子の休眠のわけ、そして何時発芽できるのか・・などを次回に述べたいと思います。

 

(文責:田代誠一)

 
   
   
【参考文献】

樹木社会学 東京大学出版会 渡邊定元著
植物の世界11巻 朝日新聞社 清水建美著
植物学入門講座2 加島書店  井上浩著 
花ごよみ種ごよみ 文一総合出版  高橋新一著他

 
   
 
   
   
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