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森 の 不 思 議    第10話
  「落葉樹と常緑樹のいろんな特性」

 

  第9話「落葉樹の言い分、常緑樹の言い分」の項では、帆柱山系は暖温帯気候にあって、森林帯は常緑広葉樹林(照葉樹林)を形成し、クス・タブ・カシなどの常緑樹が体勢を占めていることを話題にしたのですが、なぜかそこには落葉樹も混生している林相もあり、ことの不思議さについてが主要な課題でした。今回は森林生態系もさることながら植物生理の方向から落葉性、常緑性のいろんな特性を探究し、現況森林と対比しながら、もっと詳しく帆柱山系の森林を知りたいと考えています。

 

 ことに「落葉性と常緑性のちがい」とか、「落葉樹・常緑樹の区分」は現況を知るうえで、ぜひ必要な事項です。  

また、「常緑樹はいつ落葉するのか」とか、「葉は枯れても落葉しないのはなぜか」など、いろんな課題がつきないのです


落葉性の多い林況
 
   
 1.落葉性と常緑性のちがい・・学説紹介

 

 <1> ピーター・トーマス説 (熊崎 実他2名翻訳・樹木学より) 
 落葉樹は葉の寿命が1年以下であるが、不利な時期(温帯地域では冬、地中海的な気候で夏)には葉を落としている。このグループにはほとんどの温帯樹、わずかの熱帯広葉樹、それにメタセコイア・ラクウショウ・カラマツ類などの数多くの落葉針葉樹がある。

常緑樹はこれに反して、一年中葉をつけている。常緑樹としては針葉樹の大部分と温帯産の広葉樹(セイヨウヒヒラギ)では、葉は3〜5年はついている。

 

 <2> 塩沢喜八郎説 (菊沢喜八郎著・森林の生態より)
 落葉性とは一年のうちの特定の時期にすべての葉を落とし、ある期間は丸坊主で過ごすもの。このような樹木を落葉樹という。常緑性とは一年中葉をつけている樹木でこのような樹木を常緑樹という。常緑性といってもいつかは葉を落とす。従って、葉を付け替えながらも樹木個体としてはいつでも葉をつけているものが常緑性である。

 

 

 <3> 松下まり子説 (植物の世界3巻・紅葉と黄葉より)
 落葉樹は寒気または乾燥季の前に一斉に葉を落とす。温帯・寒帯では春に冬芽が発芽して葉を展開する。夏の間にさかんに光合成を行った葉は、晩秋になって落葉する。

 


落葉前のフィナーレ

 熱帯では雨期に形成した葉が乾季に入って落葉する例がある。このように生活に好適な季節には葉はさかんに活動するが、不利な時期には一度に落葉して、休眠芽や冬芽の形で休眠する。

 

 常緑樹は落葉しないわけではない。葉の寿命は短いのもので1年数ヶ月、長いものでは5年以上になる。毎年新葉が展開して古いものから落葉していく。落葉樹に比べるとこの現象は目立たない。 (以上の他は紙面の都合で省略)

 

 
   
 2.帆柱山系の落葉性と常緑性の樹種・・


 帆柱山系は照葉樹林地帯の分布域にあるのですが、落葉樹・常緑樹ともいろんな樹種が混生し、観察する上ですばらしい環境にあります。正面登山コースでの観察は次のとおりです。

 

落葉樹:ヤマザクラ・カナクギノキ・イヌシデ・イヌビワ・カマツカ・ヤマボウシ・ミズキ・クマノミズキ・アカメガシワ・カラスザンショウ・ネムノキ・エノキ・ムクノキ・ニワトコ・コブシ・カエデ類・ケヤキ・クヌギ・コナラ・カシワ・クリ・ガマズミ・ゴンズイ・クサギなど。

 

常緑樹:ツバキ・ウバメガシ・アカガシ・アラカシ・マテバシイ・イチイガシ・シイ類・シロダモ・タブノキ・ヤブニッケイ・モッコク・ユズリハ・クスノキ・アオキなど

 

 

 帆柱山系は照葉樹林帯に属し、タブノキの大木が多いことは常緑樹の成育適地と言えるのですが、なのに、落葉樹の方が常緑樹よりもこんなに多いのは何故でしょうか・・。

 


落葉樹の林相
 
   
 3.皿倉山にはなぜ落葉性が多いのか・・

 

 そこで「落葉性の比率は、低緯度と高緯度で常緑性が多く、中緯度地方で落葉性が多くなる傾向にある。」との学説、及び「常緑・落葉の性質は、寒暖の気象条件だけでは決めがたいものがある」との学説を基礎にしながら、常緑性と落葉性が混生する帆柱山系の現況を探ってみたいと思います。

 

 A) 落葉現象に関連して「雨緑林・夏緑林」の落葉はおおいに参考になります。熱帯地方では乾季に葉を落とし、雨季に葉をつける雨緑林が発達しています。

 

 B) 夏緑林は夏場の暖かい時期に葉は光合成を活発にし、気温が低下し寒くなると落葉する広葉樹林をいいます。雨緑林と夏緑林の落葉は「暖かい・寒い」が引き金になっていて、低温だけが落葉の原因でないことを現しているのです。

 

 C) まとめてみると、落葉は樹木が生育に適さない季節を生き延びるための適応であって、皿倉山北西斜面の一部は「中緯度地帯Y落葉性が多い」に類似した林分であること、帆柱山は暖温帯の照葉樹林が成育するのに適した森林(常緑樹)であると言えます。

 

 近くに聳える両山でありながら、このように森林生態(植生)に差違が生じた要因は何であろうか・・。両山の立地条件を見比べると、皿倉山は日本海気候に直面する位置にあり、海抜622mの山容は、寒気流をまともに受けているのです。それ故に落葉性が発達したのではないでしょうか。この後は専門家に解明をお願いしたいものです。

 
   
 4.常緑樹の葉はいつ落ちるのか・・常緑樹の葉の寿命・
 

 常緑樹の葉の寿命は、1年以上とは限っていません。落葉期の前に次の葉が用意されていれば、葉の寿命が1年以下であっても常緑樹と呼んでいます。熱帯では葉の寿命が三ヶ月しかない常緑樹もあるそうです。日本の常緑広葉樹の葉の寿命は1〜3年のものが多いと言われています。


 帆柱山系はカシ・シイ・クス・タブなどの常緑広葉樹(照葉樹林)が森林を形成する暖温帯地域です。この常緑樹も葉の寿命が来れば葉を落とすのですが、落葉樹のように目立った現象はとらずに、新葉の展開にともなって1年以上活躍した古い葉から落葉していくのです。


 A) クスノキ、ツバキ、カシ類など多くの常緑広葉樹の葉は、4月から6月にかけて新葉が出始めると、それと交代に古い葉が落ちます。


 B) クスノキやシラカシは一週間ぐらいのうちに全ての葉を落とし、完全に新旧交代します。
   ユズリハ、モッコクなどの常緑樹は、新葉が展開したあと初夏のころ一斉に落葉します。

 

 C) アラカシやタブノキは完全に新旧が入れ替わるのではなくて、2〜3年生の古い葉から落ちていきます。タブノキは新葉と古い葉が半々程度ついています。

 

 D) アカガシやシロダモ、ヤブニッケイは2〜3年前の葉が残っていますが、同一樹種であっても、また葉の位置によっても寿命に差が出ると言われています。

 

 E) 針葉樹の落葉は10月から12月にかけて、葉の古いものから順次落ちていきますが、アカマツでは2年生の葉が、ヒノキでは6年生の葉が落葉します。

 
大沢雅彦著・「多様な常緑葉の世界」より一部抜粋
光合成活動を活発に取り組んだ葉の寿命は短く、日陰の葉は光合成の活動がにぶくなるので寿命は長くなる傾向がみられる。個々の葉には一定の生産を上げるという使命があって、その役割を終えた葉から落ちていくようである。
 
   
 5.葉は枯れても落葉しないのはなぜか

 

 樹木の落葉現象は、葉の光合成能力が低くなるからです。能力を維持しておれば落葉の必要はないのですが..。

 

 夏緑性の樹木の葉は、薄くて低コストであるため、長期の光合成の能力維持は期待できないのです。

 

 このような葉は光合成能力は高いが、すぐ能力が低下し、葉の寿命は短く、また常緑性の葉は分厚くて光合成能力は低いが、長期継続能力あるものは葉の寿命も長いという傾向がある。

 

(菊沢喜八郎著・落葉性とその由来・から一部引用)

なかなか落ちないカシワの葉

 

 A) このような落葉現象の中で、葉は褐色化していながらなかなか落葉しないのが「コナラ亜属」の仲間です。帆柱山系ではコナラ・カシワ・クヌギが観察できます。

 

 B) 落葉は葉柄の基部に離層が形成されるからです。離層形成の原因は日照時間の短日性や葉への水分供給量が少なくなる頃に葉柄と茎との間に形成。その他大気の環境条件、植物ホルモンの供給量などによって離層ができます。

 

 C) コナラ属の葉柄の基部には、まだ緑色の生きた組織が残っているから落葉しないのです。
離層形成までの間は、維管束でつながっています。その証拠は葉痕の中にあります。

 

 D) カシワの葉は、太い維管束によってつながっているのでなかなか落葉しないのです。


 1〜2月の頃、基部に初めて離層が形成されます。離層ができると水分や養分の輸送パイプが切断され、もはや生き続けることはできません。

 

(文責:田代誠一)

 
   
   
【 参考文献:樹木社会学・渡邊定元著:森林の生態・菊沢喜八郎著:植物の世界・菊沢喜八郎著:日本の森林植生・山中二男著:樹木学・ピータートーマス著: 他  】 
 
   
 
   
   
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