植 物 談 義 第40話
本題はナス科とその毒性にあります
はるか昔からの言い伝えに「一富士二鷹三茄子」という「初夢」の伝承があります。誰しも初夢は縁起を担いで大吉を望むものです。 「富士」は駿河の国で最も高い富士山(3877m)を指します。 2番目の「鷹」とは野鳥の鷹ではなく、「愛鷹山・1188m」のことです。歌川広重の「東海道五十三次・原」の富士山の絵の中に描かれています。 3番目の「茄子」はいささか理由ありです。富士山・愛鷹山と続いたのに植物の「ナスビ」を初夢に上げるとは場違いのような気がしますが、発案者である「徳川家康(秀忠に二代将軍を譲ったあと駿河に隠居)」は、ナスビの高値相場から3番目としたようです。他説頻々。 昔と言えども「ナス栽培」は技術的にも相当なもの。「三茄子」の初物は1個1両の超高値がついたそうですが、主に大名の進物用であり、庶民には夢のまた夢・・だから初夢に登場。 そこで「ナス科」について少しだけ「生理生態」を振り返ってみましょう。格言や伝承に事欠かないナスビですが、【親の小言とナスビの花は千に一つの違いはない】・【嫁に食わすな秋ナスビ・又は焼きナスビ】は有名。 一方では【ぼけナス】・【おたんこナス】など比喩される小言を伺うことが出来ます。
仲間の数種はなかなかのくせ者であり、「味よし」 「姿よし」 「値段もよし」と呼ばれる傍ら、これほど「危険性」を含む植物も珍しいのです。有毒植物がたくさん集まっています。
仲間にはチョウセンアサガオ・ジャガイモ・トマト・トウガラシ・ホオズキ・ハシリドコロ・クコ・タバコ・・などの他に「ペチュニア」の美しい花もあります。
◆ 茄子の原産地はインド。日本には750年以前に中国経由で伝来したフシがあります。ナスの花は節間から短い花柄を出し、夏から秋にかけて数個の花をつける。成熟したナスは一枝に1個だけつけて、他の花は熟さない。【親の小言と・・・・】のようにはならない。
ナス科は曲者揃いだと前に述べたところです。先ず「ナス」は食用として夏から秋にかけて各家庭でも需要が盛んです。ナスの食感は最高で、効用も優れています。
◆ 表皮の紫色はアントシアニン色素によるもので、いろいろな生活習慣病を引き起こす原因である「活性酸素」の「抗酸化作用」の働きがあり、多くの病気の予防に効果があるものと期待されています。肝機能の促進や疲れ目の解消にも効果的といわれています。 ◆ 含有成分の中でナトリウム1に対してカリウム220倍という比率にあります。トマトも同じくらい含んでいます。カリウムが不足すると高血圧・低血糖・糖尿病・神経障害・不整脈・ストレス増大・筋力低下・消化不良・食欲不振などの症状を招きやすいといわれています。
◆ しかし、効果を高めるために食べ過ぎはよくありません。カリウムは水溶性で、熱に弱い性質があり、茹でる調理よりも漬物・煮物・油炒めが良いと言われています。 ◆ 特に婦人科疾患の人は食べ過ぎに要注意です。ナス・トマト・ジャガイモ・唐辛子・ピーマンなどのナス科植物はカリウム・アルカロイドを多く含むからです。 ◆ 貧血や冷え性の人は不向きだとのこと、故に【嫁に食わすな・・・】という説は「意地悪」ばかりではなく、嫁の体を労っての格言だと言うことも一説にあります。
植物毒の中で最も有名成分は「アルカロイド」。ナス科はアルカロイドを含む有毒植物が多く、山菜取りで間違って食することがあるので要注意。
◆ 最も毒性が強いのが、「ハシリドコロ」で、平賀源内(1728〜79)は著書の中で、「誤りて之を食へば狂走して止まらず。故にハシリドコロと言う。と語源を述べている。 ◆ アルカロイドを含むチョウセンアサガオは、汁液が目に入ると危険。誤食も危険。タバコは栽培時の全体にニコチンを含有することで有毒植物である。 ◆ トマトは南米のアンデス原産。果実を食用とするために世界中で栽培されている。有毒性は葉・茎・根に含まれており、果実にもトマチンを含むが中毒例は少ない。 独特のにおいを発する茎葉は、防衛手段のひとつ。 ◆ トウガラシは中南米原産で、他の香辛料と同様に料理に使用。また、医薬品として利用される。過剰摂取は発癌の関連性が指摘されており、唐辛子を多く摂る国は発癌率が高いといわれている。
日本原産は「ヤマトリカブト」、中国から渡来した「トリカブト」と区分している。九州に自生するのが「タンナトリカブト」。8月下旬頃から紫色の花弁が「鳥兜」のように見えることから「トリカブト」という。
◆ 日本三大有毒植物はトリカブト・ドクウツギ・ドクゼリの三種。加えてよく間違われるのがニリンソウで、「トリカブト:キンポウゲ科」と同じ仲間。多年草で春山を代表する花のひとつですが、若葉を山菜として食用に使うところに事故が多発。 要注意・・・
◆ 毒性は茎・葉・根とも大差はなく、アコニチン系アルカロイドを含むことから危険そのものです。ニリンソウに類似していることから、「手に取るな」が肝心です。
◆ トリカブトの毒性は、「トリカブト殺人事件」で一躍有名になったように、たいへん危険な植物です。
◆ 昔から毒矢として利用。また、四谷怪談のお岩さんの顔が変貌したのは「トリカブト」を一服盛られたとの話し・・・罪深いのは夫の伊右衛門・・・家庭平和に心がけましょう・・・ (文責 : 田代 誠一)
注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。作成にあたり下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。
【引用・参考文献】
植物の世界・ナス科・大場秀章著・朝日新聞社発行 毒草大百科・奥井真司著・データハウス(株)刊 日本の有毒植物・松下清著・学研教育出版(株)刊 樹木がはぐくんだ食文化・渡辺弘之著 ほか。