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植 物 談 義    第34話

 「帆柱山系の木々は、ただいま子育て真っ盛り」  

春の花が実を結び、夏日の下小さな木の実が育っています

 

 帆柱山系も真夏の日照りがやってきました。春にはあちこちで木々の花を観察してきましたが、そのとき以来うまく交配がすすんだのか、今の時期になるとベビーブームの結果が観察できます。
 
 まさに子育ての時間帯です。秋までの短い期間に成熟をはかり、果実として独り立ちできるように、頑張っている様子が見られます。
 
今回は果実の生いたちや、成熟して旅立つまでの生態についてまとめてみました。観察する上で少しでも役立てば幸いです。

 

 
   
 1.生理生態からの特徴
   雄雌の交配・昆虫媒体・散布方法・独立独歩・次世代
 

 花壇で育てる花とちがって、木々の花は雄しべ・雌しべの両方が同居する両性花が最もポピュラーのようだが、雄花・雌花の組み合わせはいろんなタイプがあって単純ではない。

 
 渡邊定元著「樹木社会学」によれば、一本の個体に両性花の花が咲く樹種は最も多いが、交配の型式は風媒・虫媒によるタイプがあり、また散布の型式になると風散布や動物散布などを採用するなど、交配〜散布までの型式は複雑である。
 
 植物の花の進化は、裸子植物の繁栄期には両性花は存在しない。従って、スギ・ヒノキ・マツなどは雌雄同株。イチョウ・ソテツ・ビャクシン・マキなどは雌雄異株である。      
 
 約1億5千年前〜2億年前に両性花を創生した被子植物が誕生。その最初の形態に似ているのが「モクレン科」のハクモクレンやタイサンボクの花で、原始的構造をしているので対比。
 
 現在、研究が進んだ中で個体に咲く花の雄花・雌花・両性花の組み合わせは約10タイプがある。その中から帆柱山系で観察できる樹種をタイプ別にまとめてみた。
 
 

(1) 雄花・雌花 =単性雌雄同株 ・・コナラ・クリ・シイ・マテバシイ・ムベ・アケビの各属

 

(2) 雄花・両性花=雄性両全性同株 ・・イスノキ・エノキの各属・タラノキ・カクレミノなど

 

(3) 雄花・両性花=雄性両全性異株 ・・マタタビ・ヤマモモなど

 

(4) 雄花雌花・両性花=混生同株 ・・ケヤキ属・コシアブラ

 

(5) 雄花・雌花 =雌雄異株 ・・ユズリハ・サンショウ・ウリハダカエデ・シロダモ・アオキ

 

(6) 雌花・両性花=雌性両全性異株 ・・イヌビワ

 

(7) 雄花・雌花・両性花=雄性雌性両全性異株 ・・ヒサカキ・トキワガキ・マメガキ・など

 
 
   
 2.子育ていろいろ
 1) アカマツの子育て  単性雌雄同株・風媒花・風散布
 

 

 帆柱山系の裸子植物のマツ類はアカマツが大半であるが、花型式は雌雄同株・風媒花・風散布の生活様式で子孫を残している。

 

 同株であることは同一個体の雄花でもって交配がすすんでいるとみてよいが、実際はアカマツとクロマツの自然交配からアカクロマツが誕生している。

 

 現代病の一つである花粉症は、その原拠としてスギ・ヒノキやブタクサやセイタカの花粉をあげている。風媒花ゆえに雄花が撒き散らす花粉は数億年前から繰り返された仕組みである。

 

 用途は建築材、土木用材、庭園木、防風林など巾広く利活用されている。中でも能舞台の鏡板のマツは国宝級のものがある。

 

 

 2) シロダモの特異な生活  雌雄異株・虫媒花・動物散布
 

 シロダモの語源は、葉裏が白いことと、ダモはタブノキのタブから転じたもの。クロダモは実が黒いことから、アオダモは枝を水につけておくと、青色の蛍光を出すことから呼ばれている。

 
 シロダモは10月に黄色の小花が散状に固まって咲く。翌年の秋に楕円形の果実が赤く熟するが、傍らでは花が咲き、果実と花が同時に楽しめることから珍しくて頑張り屋の樹種。
 

 樹木は全体的に精油を含み芳香がある。種子から油脂をしぼって灯火や蝋燭用のつづ蝋をつくった。その他の用途は建築材、器具材、薪炭材や庭園樹、防風林などに利用。

 

 

 3) アラカシの子だくさん、全員育ちそうです  単性雌雄同株・風媒花・動物散布

 

 ブナ科・コナラ属(アカガシ亜属)・常緑樹で一年成。子育ては当年の秋に成熟季を迎えることでただ今奮闘中。   

 
 他の樹種に比べてよく育っており、ほぼ全員が果実になる確率は高い。
 
 このあたりでは一般的な樹種であって、至る所で目にかかる。 カシは暖帯の代表種であるように原産地は本州から九州・沖縄・東南アジアにかけて生育。帆柱山系にも多い。
 

 語源ではカシとは堅木を称し、これを合体して「樫」の和製漢字をつくったとある。アラカシのアラは、木肌や枝は粗強で葉は粗大で硬質であることからアラカシという。

 

 材質は堅木であることから農具や工具の柄、櫓、棒類、薪炭材、防風防火林、生垣などに利用。学名はオランダの長崎出島に医官として赴任したことのある「ツンベルク」が命名。

 
   
 4) マテバシイは兄と弟が共存 単性雌雄同株・虫媒花・動物散布
 

 ブナ科・マテバシイ属

 

 マテバシイの果実は2年がかりで成長するため、翌年の秋にならないとドングリにはならない。写真のように今年の春に誕生した弟たちと昨年誕生の兄が同居している。

 

 ところで、マテバシイは他のドングリに比べて少し風変わりな生活様式を確立している。 例えば

 

1 : 他のドングリに比べて害虫にやられない。なぜ ?

2 : 殻斗は一個ごとにあるのが普通、幼少の頃は共同で一個しかない。なぜか?

3 : 果実は細長い形をしているが、なぜか?

4 : マテバシイの語源は「待てばシイ」から転じたという。ほんとう? 5 : 古代人はマテバシイを美味しいと思っただろうか..。渋味が強いが..

 

 などの話題が多すぎることから、別項でまとめることにした。帆柱山系のマテバシイの珍奇な生活様式に理解を深め、親近感が生じれば幸いである。

 
 5) クヌギの子だくさんも一部しか生き残れない  単性雌雄同株・風媒花・動物散布 

 

 ブナ科・コナラ属・果実は2年かけて成熟。一枝に兄弟が密集した形でしのぎ合っているが、 生き残れるのは一部だけである。
 

 春に開花した雌花は、受粉の後も翌年の春までほとんど成長せず、胚珠さえ完成していない。 2年目の夏前から急速に成長し、秋に成熟するという風変わりの性質がある。

  

 クヌギの実は「どんぐりころころ」に最も似合った果実。次に丸い果実はアベマキとカシワ。 毛糸の帽子に包まれている殻斗が三者共通であり、弾力性に富んだ構造の帽子だから丸くなるのかと推測。
 
 お池にはまったドングリは坊ちゃんになっているが、植物学的には単性雌雄同株の種子であり、ドングリ自体を雄雌別に判別することはできない。
 

 クヌギは古代人の生活と深い関わりがあり、古名を「ツルバミ・橡」と呼んでいた。堅果や殻斗に含むタンニンを使って衣服の染料とし、この色を「ツルバミ」という。

 

 遺跡の発掘からクリとともに食材として利用されていた形跡は明らかであり、現代に通じるものがある。

 

 薪炭材、器具、船舶、椎茸原木などに利用。昆虫の集まる木として周知のとおり。  

 
 クヌギは新井白石説によれば故事を引用して国木という。漢字を合体して「椢」。また古くは?木を用いたという。現在は櫟・橡・椚・櫪・など。
 

 古名のツルバミは朝鮮語のKul-bam・クルバムから転じたという。またクルは日本語のクリの語源であるという深津正説が有力である。

 

 

 6) カクレミノは忍者みたいな植物  混生同株・虫媒花・動物散布

 

 昔から「想像上の宝物」が縁起物として伝承されてきた。その中で一般的な「打出の小槌」をはじめにして、「宝珠」・「宝 巻」・「分銅」・「熨斗・・鮑」など、どれも欲しい物ばかり。
 
 「隠れ蓑・隠れ笠」もその中の一つであり、木の葉を身につけると姿が隠れて見えなくなると言う宝物。カクレミノの葉 は天狗のうちわのように葉身はいろんな形をしている。
 
 宝物の「隠れ蓑」の葉が、カクレミノの葉に似ていることから名付けられたという。

 ウコギ科・カクレミノは雄花と雌花が混生し、しかも両性花まで混じり合うから花序も複雑である。
 
 果実の液果は晩秋に紫黒色に熟し、先端に花柱が残る。ヒヨドリが好むことから種子の分布は広い。学名のGilibertia trifida Makinoは牧野富太郎先生の命名による。
 
 動物散布の影響か、皿倉山の南側の森林植物園の一端に小群落が成育中。これだけまとまって成育する現場にはめったに出会えない貴重な箇所である。
 

★以上の6種の他に、クロガネモチ・ネズミモチ・アカメガシワ・エノキ・ムクノキ・マメガキ・コブシ・カナクギノキ・カマツカ・ヤマボウシなどの多くの樹種が夏ばてを返上して奮闘中である。

 

 

(文責:田代 誠一)

 
   
   

 注:今回の資料はNPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用として書きとめた内容のものです。資料作成にあたり下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。

 

 【引用参考文献】

 ・樹木社会学   東京大学出版会/渡邊定元著            
 ・新版生態学   放送大学教育振興会/藤井宏一他著

 ・植物の世界   朝日新聞社刊/緒方健著 ほか  

 ・牧野日本植物図鑑   北驫ル刊/牧野富太郎著

 ・原色日本樹木図鑑   保育者刊/岡本省吾著
 ・木の名の由来   東書選書刊/深津正著
 ・身近な植物から花の進化を考える   東海大学出版会刊/小林正明著


 
   
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