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植 物 談 義    第31話

 「皿倉山のマツはほとんどが自然繁殖」  

昔からマツほど生活の場に登場する樹種はすくない

 

 帆柱山系の皿倉山・権現山・帆柱山・花尾山の地域のアカマツは、松食い虫の被害に罹り大変少なくなってきました。ところが一方では、花粉の自然交配がすすみ、アカマツ幼樹の発生がめだって多いのに気がつかれたと思います。                   

 それは帆柱山系はアカマツが育ちやすい適地であるからです。マツは自然繁殖力が強く、痩せ地によく育ち、乾燥によく耐え、陽樹などの性質から天然生マツがよく育っているのです。

 

 ところで松は、荒廃地にも強く、年中緑が絶えず、他の樹種にない強靱さ、などから中国では公の木として崇め、めでたい樹木として「松」の漢字を当てるようになったといいます。 現代の日本でも「めでたい祝事」には必ずマツが登場して神聖な領域を形成し、五穀豊穣や無病息災を祈願する行事が残っています。

 

 そこで、マツの貢献度や生態や生理・分類について概要をまとめてみました。

(写真:森林植物園内の天然生アカマツ)

 


 
   
 1.マツの語源いろいろ・・


  マツの語源は、古来いろいろな説があります。どれも一理ありそうですが、600年ほど前の室町時代に定着した「門松」の風習まで遡ることで明らかにしたい。

 

1) 「門松」は神の立ち寄り先を現すものとして、松を神聖な寄木として位置づけています。 マツのもつ「岩場でも忍耐強く生き抜く強さ・雄々しく生育する姿・」などから末永い繁栄と剛気を願う気持ちをマツに託したものです。また、次のような説もあります。

 

2) 貝原益軒は「大和本草」の中で、「マツはタモツ」の意とし、「久しく寿をたもつ木なり」という。

 

3) 他の樹木に見られない「マツの葉の二股に分かれた特殊な形」から、「マタの木」と言ったのが「マツの木」に転じたという説。など、いろいろな説があります。

 
 
   
 2.マツは独特の文化圏を形成・・・いろんな用途から文化も多様・・

 

 昔から衣食住の生活圏に深く関わってきたマツは、詠われ、描かれ、観賞され、食材、などマツほど巾広い範囲で関係している樹種も珍しい。以下、大まかに分野別に集約。

 

  ◆ 昔からの用途
 1) 観賞用のマツ  → 庭木の松・盆栽の松・生花の松
 2) 松の玩具、細工 → 老夫婦の高砂人形・松笠人形・松土器
 3) マツ葉の利用 → 松葉の薬効・松葉煙草・松葉の遊戯・松葉風呂・松葉香水
 4) 食材としての松 → 松茸・松露・松葉酒・松葉茶・松の実・松油
 5) 木材や燃料の用途 → 建築・造船・土木・パルプ・松炭・松明
 6) 造林用の苗木  → 地味の劣った土地の造林用に重要な樹種・防風林や防風垣
 
  ◆ 古 典

 

 古事記、日本書紀にすでに松を表しており、平安時代の「古今集」「伊勢物語」「大和物語」「今昔物語」「土佐日記」などにも松が登場。 清少納言の「枕草子」には、五葉松が出てくる。 源氏物語では紫式部が松を描いている。

 

 『松風の吹きくる音も荒ましかりし、山おろしに思いくらぶれば・・・。』

 

 

  ◆ 短 歌

 

 短歌のことを松言葉という。歌枕に使われる松の名は、あいおいの松・ひとつ松・二葉の松・そなれ松・姫松・姫小松・門松・山松・わか松・むすび松・心の松等。

 

 万葉集の中の植物として、松を詠じたのが80首もある。
 『松かげの清き浜辺に王敷かば君来まさむか清き浜辺に』  藤原八束−>海岸性の黒松
 『み吉野の玉松が枝は愛しきかも君が御言を持ちて通はし』  額田王−>内陸性の赤松
 『磐代の浜松が枝を引き結び真幸くあらばまたかへり見む』  有馬皇子−>むすび松の歌枕

 

 

  ◆ 俳 句

 

 俳人松尾芭蕉の詞に「松のことは松に習へ、竹の事は竹に習へ」とある。 


 『松植えて竹の欲しさよ秋の風』・・松尾芭蕉
 『線香の灰やこぼれて松の花』・・・与謝蕪村

 『門の月殊に男松の勇み声』・・・ 小林一茶
 『おぼろ夜や松の子どもに行あたり』・・加賀千代女

 『ははこひし夕山桜峰の松』・・・泉鏡花

 

 

  ◆ 能 ・ 狂 言

 

 謡曲では柳の精、松の精、桜の精、などのように植物にも霊があるものとして、その霊を成仏させるという構成があり、謡曲の根底に仏教信仰がある。

 

 1) 日蓮上人は「草木国土悉皆成仏・・」を説かれ、一本の草木や一握りの土地にもすべて魂があるのだからそれを無視してはいけない、と説く。

 

 2) 能舞台正面の鏡板に老松が描かれるようになったのは、奈良の春日神事の野外能を一の鳥居わきにある影向松の前で行った故事によると言われている。

 

 3) 豊臣秀吉が天正9年(1581年)、桃山城を構築した際、城内に能舞台を初めて設け、影向松を舞台に描き込んだのが始まりだと言われている。

 

 4) 現在は京都西本願寺の北能舞台(国宝)が、桃山城から移築した日本最古の能舞台である。


 5) なお、能舞台の橋掛かりの前の白州には若松が等間隔に3本、「一の松・二の松・三の松」が植えてある。松に関係する謡曲は次のようなものがある。

 

 6) 高砂・老松・羽衣・松虫・松尾・松風・田村・班女・鉢木・雨月・松の雪・松山天狗・松浦鏡など。「高砂」は長寿の夫婦を題材とすることから、日本の慶事の代表作。

 

 狂言は、平安時代の猿楽の直系を引いたもので、歌舞伎狂言に対して能狂言とも呼ばれる。 狂言はまじめな能の間に肩のこらない狂言をはさんで、観客の心を和らげる効果がある。

 また、次の曲を新鮮な感じで鑑賞させようという意図で仕組んだもので、その題名にも、松脂・福部の神・萩大名・瓜盗人など滑稽味をみせている。

 

 

  ◆ 歌 曲

 

 「うれしめでたの若松様は、松も栄える葉も茂る。おまえ百までわしゃ九十九までともに白髪のはえるまで」

 

 この文句は、お立ち酒・宇和島さんさ・くじら唄・宇治茶摘み唄・長持唄・花笠踊り・などの歌の歌詞に使われており、農家の祈願を込めて歌い継がれた「松」の讃歌である。

 

 

  ◆ そ の 他

 

 「マツの双葉はあやかりものよ、枯れて落ちても二人連れ」

 

 
   
  3.裸子植物の誕生・マツ科の分類 (植物の進化・胞子から花粉へ)
 

 (A) 4億年前に陸上に進出した植物は、「胞子植物・・シダ植物など」

 (B) 約3億4千万年前の古生代の石炭紀に陸上に進出した植物が種子の形成を完成させた。

 (C) 最初の種子植物は裸子植物で、約3億4千万年前の古生代の石炭紀。

 (D) この頃の化石の個体が石炭であり、液体になったのが原油である。

 

 被子植物の誕生はさらに1億年以上もあとのことである。

 

  【裸子植物の特徴】  (写真:先端に2個の紫紅色は雌の球花)

          
  現在の裸子植物は、ソテツ門(約100種)・イチョウ 門(1種)・マオウ門(約70種)と、針葉樹類の球果植物門(約550種=スギ・ヒノキ・ マツなど)の4門に分類。

 

 1) 生殖器官は雄性か雌性のいずれかで、被子植物に見られるように両性のものはない。


 2) 1枚の珠皮をもつ胚珠が、胞子葉に裸出してついている。

 

 3) 花粉はほとんどが風媒で、胚珠が出す受粉滴に取り付いて受粉し、花粉管はわずかしか発達せず、精子または精核によって受精する。

 

 4) 受精は卵細胞でのみおこる。


 5) 子葉は二個または多数で、針形・扁平または羽状で、葉脈は単純である。


 6) 通道要素は仮道管と師細胞である。

  


  【針葉樹類の球果植物門の特徴】

 

 1) 針葉樹類は最も身近な植物群で、温帯林の優占種となることから、地球の緑の主要部分を しめる。被子植物は20数万種に対して、針葉樹550種の役割は重要である。

 

 2) 球果植物門は次の8科からなる。マツ科は裸子植物のなかで最大の科で、枝・葉・果鱗の形質によって4亜科・11属に分類(約220種)。  

 
 
   
  4.マツ亜科・マツ属の特徴

 

 マツ属は北半球の亜熱帯から極地にかけて約100種が分布。日本には7種(クロマツ・アカマツ・リュウキュウマツ・ハイマツ・チョウセンゴヨウ・ヤクタネゴヨウ・ゴヨウマツ−>ヒメコマツ)が自生する。

 

 1) 前三者は短枝に2本の針形葉がある、後者の4種は短枝に5本の針形葉がある五葉松である。(ゴヨウマツだけ種子に翼があるのが特徴)


 2) マツ亜科は枝に長枝と短枝があり、短枝の先に針葉は束生。葉に針葉と鱗片葉の2種がある。球果は長枝の先につく。マツ属では受粉後種子ができるまで1年半から2年かかる。


 3) アカマツとクロマツとの天然雑種が各地に見られ、アイグロマツと名付けられている。

 

 4) 帆柱森林植物園の外国産樹種の一角に3葉のテーダーマツを観察できます。1葉のマツはアメリカヒトツバマツだそうです。


 
 

 

*マツ科はスギ科やマキ科などと比べて、比較的新しいグループである。 マツ科植物の化石は白亜紀後期(9600万〜6500万年前)から産出するのに対し、スギやマキ科の化石はジュラ紀層(2億1200万〜1億4300万年前)から報告されている。

 

 

 文責 : 田代 誠一

 

 
   
   

 注:本件資料は、当愛護会の会員研修用に作成したものですが、次の資料を引用・参考に利用させていただきました。

 

 【引用参考資料】
 ・ 「原色日本樹木図鑑」  保育社/北村四郎ほか著

 ・ 「植物学入門講座2」  加島書店刊/井上浩著
 ・ 「植物の系統」  文一総合出版/田村道夫著

 ・ 「植物の世界」  朝日新聞社刊/清水建美編集

 ・ 「植物の進化と多様性」  放送大学教育振興会/森脇和郎ほか著

 ・ 「松」  法政大学出版局/高嶋雄三郎著   他

 
   
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