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植 物 談 義    第29話
 「宵待草は竹久夢二が、月見草は太宰治が広めた植物」  

とせうして夕方から花を開くのか・・暗闇に咲いて誰が見るのよ・・

 

 画家で詩人の竹久夢二作の「待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな」は、多忠亮作曲により「宵待草」として現在まで歌い継がれている不朽の名作。

 明治43年、夢二27歳の夏に長谷川タカ(当時19歳)に片思いを抱きつつ、翌年も逢瀬を期待していたが彼女は現れず、嫁いだことを知った夢二は失恋を悟る。いくら待っても現れることのない女性を想いながら、こみ上げる悲しみを宵を待って咲く小さなマツヨイグサの花に置き換え、感情表現を完成させたのが「宵待草」だといわれている。

 

 また、太宰治30歳の時の作品「富嶽百景」の中で「富士には月見草がよく似合う」と書いた月見草は、オオマツヨイグサのことではないかと言われている。その理由は、「路傍の一カ所を指さした・・・ちらとひとめ見た黄金色の月見草の花ひとつ」とあるが、繁殖力が弱くて野生化しにくい・・純白の4弁の花をつける・・・のが月見草であり、黄金色となるとマツヨイグサの方が正解のような気がする。


 
   
 1.はじめに「マツヨイグサ」の語源は・・

 

 大正ロマンはこのくらいにして、少し植物学に関連する方向に転換していみることにしたい。
そこで、「宵」とはいつの時間帯を指すのであろうか。辞書によると「夜になってまだまもない頃」、「日が暮れてからしばらくの間」、「日が落ちてまもない頃」などの解釈がある。

 

 宵の到来を待って咲くから「宵待草」や「月見草」と名付けられたという。
「宵」に咲く花はカラスウリ・夜香木・月下美人・ヨルガオなどかある。ネムノキは夜になると葉を閉じて「就眠運動」をすることに由来する。

     

マツヨイグサ属にはアカバナユウゲショウやツキミソウなども含まれるが、夕方に花が開くところから付けられた和名であるが、ヒルザキツキミソウは昼間に咲くことで、観察者にとっては一目瞭然。

     

 

写真:オオマツヨイグサの花・頂部に密生
 
   
 2.「マツヨイグサ属」の分類系統は・・

 

 アカバナ科・マツヨイグサ属は120種からなる。この仲間は宵の夕方に咲いて翌朝にはしぼむものが多い。日本で繁殖しているのは、すべてが江戸時代から明治時代にかけて渡来した帰化植物であり、自生種はない。代表的な種について次のように概容をまとめてみた。

 

1) マツヨイグサ属の花は、葉腋に1個ずつつき、萼筒が長く棒状で花柄のように見えるが花柄はない。後で実になる子房である。花期は5月〜9月頃まで。花は黄色。萼片4枚・花弁4枚がつく、先端がくぼむものもある。花が開くとき萼は裂けて反転する。 雄しべ8個・雌しべは1個で柱頭は4裂。茎の高さは30〜150p。

 

2) オオマツヨイグサは、北アメリカ原産種をヨーロッパで園芸品種に改良した二年草。明治の初め頃に渡来し、現在は各地で野生化。茎には立った堅い毛が全体にあり、毛の基部はふくれて暗赤色を帯びる。根元の葉は柄があり先端は鈍いヘラ形、中部の葉は細い楕円形、葉縁は波状の浅い鋸歯、花は直径6〜8pと大きい。花弁は幅が広い、しぼんでも赤くならない。

 

3) メマツヨイグサは、北アメリカ原産の二年草。明治中期に渡来。各地の荒れ地や道ばたで野生化。茎は全体に毛が多く、上向きの毛が生える。しぼんでも赤くならない。花は上部に密生、花弁と花弁の間に隙間がある。葉は長い楕円形で両端は尖る、葉縁には浅鋸歯。 種子からr−リノレン酸が抽出され、薬学的研究が進められており、栽培も取り組んでいる。アレチマツヨイグサともいう。

 

4) マツヨイグサは、チリ原産の二年草。繁殖力旺盛で各地で野生化。しぼむと黄赤色に変色。 夕刻に濃黄色の3pほどの花を開くが、翌日の午前中にはしぽむ。花弁の先はへこむ。茎は赤くなることがある。葉は互生・中部の葉は細い線形・中脈は白く無柄、葉縁には粗くて低い鋸歯。

 

5) ヒルサキツキミソウは、北アメリカ原産の多年草。月見草ににているが夜も昼間も咲くことから名付けられた。大正末期ころ観賞用として渡来、現在は野生化。茎に白い短毛、下部は木質化することあり。葉は互生し線状披針形で葉縁には浅鋸歯。 花期は5〜7月頃、白色から淡紅色で蕾の時は下向きで咲くと上を向く。花弁の基部は黄色を帯びる。果実は刮ハだが日本では結実しない。(写真はモモイロヒルザキツキミソウ)

 

6) 遠目にはセイタカアワダチソウ(キク科・アキノキリンソウ属・北アメリカ原産)の姿によく似ているが、花のない時期は葉の葉脈で識別するのが確実。アワダチソウは戦後急速に広がった帰化植物。花期は10〜11月で円錐花序をだし黄色の頭花を多数つける。

 


セイタカアワダチソウ 左の葉・・オオマツヨイグサ
右の葉・・セイタカアワダチソウ
 
   
  3.どうして、なぜ、夕方から花が開くのか・・・

 

 植物の多くの花は、昼間の光合成とともに開花しているのが一般的であるが、日が沈んで夕方から花開く機能が働くというから不思議である。主流ではなく脇道を進化してきたこれらの植物について、太陽光の無い中での花の働きを探ってみることにした。

 

1) 昼間に開花した植物は、夜の暗闇の中では眠っているのだろうか。なにも活動していないように見える。だが、人間と同じように眠っている間でも呼吸をしている。この闇夜の間に水分補給が欠かせない重大な仕事である。水分不足は生死に関わる。


2) 早朝に咲くアサガオ(短日植物)があれば、太陽光を避けて夕方から夜にかけて咲くマツヨイグサ・ツキミソウ・ヨルガオ・カラスウリなどは、不利なように見える生活条件の場を「よしとしたものは何であるのか・?」が不思議であり、疑問はつきない。(光周性)

 

3) この手の花は「ガ媒花」といわれ、夜間に飛来するホシホウジャクなどの「ガ」が花粉の媒介に一役かっている。蝶でなく蛾との共進・共生関係で進化してきた理由は何なのか。

 

4) 鳥類より遅れて進化した「チョウ目・ガ類」の昆虫は、天敵の鳥類から逃れるために、昼よりも夜の活動を選択したのが「ガ類」である。チョウ目(鱗翅目)は127科16万5000種からなる。チョウとガの科学的な分別はないが、鱗粉で覆われていること、完全変態で、管状の口吻が特徴。チョウの触角はこん棒状、ガの触角はふつう単純である。

 

5) 帆柱山系で発見された昆虫のチョウ・ガ類は、1200種以上のガ類と約50種(市内で発見した80種から類推)の蝶類が棲息していると言われている。


 それでも昼間の開花が圧倒的に多いのはなぜか・・・。昼間の花粉交配の仲立ちは鱗翅目の他に、ハチやハエや甲虫や鳥などが活躍していることによるものと考えられる。

 

6) 植物の開花の時刻は、たいての場合ほぼ決まっている。アサガオの花は太陽が沈んで暗い夜を約9時間過ごすと「開花の時間」になる。早朝の5時頃だがハスの花はもっと早い。

 マツヨイグサは夕方暗くなる頃に開花し始める。この間に少しの光を与えると花は咲かない。すなはち温度は開花に関係ないものの、少しの光でも開花を押さえる作用をもっていて、このことを植物の内在リズム(生物学的時計)と呼んでいる。

 

7) 暗いところに連続して長時間置いたマツヨイグサは、それでも24時間ごとに花が咲くことを箱崎美義著「花の科学」の中で述べている。

 また、開花の条件は暗黒の中を経過することが必要条件であることは解っていても、アサガオよりも複雑な関係にあることから、経過時間を示すまでには至っていないのが実情。

 開花時期を決定する遺伝子の研究が進み、数種類の遺伝子が影響しているところまで解明されているが、特定するところまで至ってないと言われている。今後の成果に期待したい。


 
   
  4.太宰治の月見草は・・・

 

 ツキミソウはマツヨイグサ属の仲間であって、夕方に花が開くことから名付けられた。メキシコ原産の二年草。江戸時代末に観賞用として輸入。

 

 

1) 適応性や繁殖力が弱いため野生化できず、路傍で観察することは難しい。

 

2) 夏の夕方、4枚花弁の白色の花を葉腋に1個つける。翌朝にはしぼんで薄紅色に変色。高さ60p。

 

(写真:モモイロヒルザキツキミソウ・時期はずれの9月撮影・普通の開花期5〜7月・北米 原産・蕾の時には垂れ下がり、開花時には上を向く。別種にヒルザキツキミソウあり。)

 

 


(文責:田代 誠一)

 

注:本件資料は、NPO帆柱自然公園愛護会の会員研修用にまとめたものです。お互いが研鑽しながら自然環境の大切さに取り組んでいます。今回の資料作成にあたり、下記の引用・参考文献を有効に活用させていただきました。


 
   
   

【引用参考文献】         
・植物の世界   朝日新聞社刊/ウォーレン・ワグナー著
・雑草生態学   朝倉書店刊/根本正之編

・草木帖   山と渓谷社刊/飯泉 優著
・野に咲く花   山と渓谷社刊/林 弥栄監修

・花の科学   研成社刊/箱崎美義著
・北九州の山と自然   帆柱自然公園愛護会刊編

・植物・共立出版刊   美濃部侑三編

・昆虫の写真図鑑   日本ヴォーグ社刊/野村周平監修
 
   
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