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植 物 談 義    第28話
 「 花の色と昆虫の好みと、共進化のあゆみ 」  
ハチはいろんな色が見えています・・チョウは何色が見えるのか  


 昆虫と花の付き合いを語るには、昆虫が地球上に誕生した時点に遡ることが必要である。花よりもざっと数億年前の古生代に、空を飛びまわる昆虫の先祖が活躍していたということは、化石発掘の成果から明らかである。

 花よりも先だとなると、先祖の昆虫は何を食べていたのだろうか、飛ぶことの目的は何であったのだろうか、など疑問点がいろいろわき出てくる。解明のためにすこし時代を遡って地質時代をのぞいてみたい。地質時代の古生代・中生代・新生代の頃の昆虫類の生活は・・・。

 
   
  T:古生代に遡る昆虫の誕生     生物の進化と多様性・・冨田幸光著他・・引用

 古生代

・シルル紀(4億3900万年〜4億800万年前)・・・陸上植物の出現
・石炭紀 (3億6200万年〜2億9000万年前)・・・大森林と昆虫などの繁栄

 中生代

・ジュラ紀(2億800万年〜1億4500万年前)・・・恐竜の繁栄、鳥類の出現〜繁栄
・白亜紀 (1億4500万年前〜6500万年前)・・・被子植物の繁栄始まる/中生代型生物の大絶滅
 新生代

・古代三紀(6500万年〜2400万年前)・・・哺乳類の繁栄/鳥類の繁栄

 

 裸子植物の多くは花粉の交配を風に頼った風媒花であるが、中生代の裸子植物の中には花粉をエサとして与える代わりに甲虫類に送粉させたものも現れはじめた。虫媒花の出現。

 

 現在の被子植物の多くは送粉者の動物と密接な関係にあるが、そのきっかけは被子植物が独特の生殖器官「花」を進化させたことによる。

 

 化石記録から被子植物の出現は遅くとも白亜紀の初めの頃だと推定されている。豊富に多様であつた中生代の裸子植物の中から分化したと考えられる被子植物は、白亜紀の間に急速に多様化して分布を拡大し、白亜紀の後期には裸子植物の半分ほどまでに繁栄した。

 

 原始的な花を持つといわれるモクレンの仲間では甲虫が花粉を媒介することが多い。モクレンの仲間は蜜を分泌しておらず、花粉や多肉質の組織の目当てに甲虫がやってくる。

 

 昆虫と植物の関係は、おそらく昆虫がエネルギーを得る手段として植物の花粉などを利用したのがきっかけであろう。この関係を発展して両者にとってより効率の高い、すなわち植物側では確実な送粉、昆虫側にとってはエネルギー率の高い蜜を得るという系統が成立していったものと考えられている。

 
   
 U:現代の昆虫の生活  ・・・種類ごとに好きな花色がある

 

 雄しべと雌しべの間の花粉交配は、非能率的な風媒花に頼っていたが、花粉や胚珠を食べる昆虫が現れ、花から花へと移動することで、被子植物との共生・共進がはじまった。

中には、花粉を食糧とする他に蜜を提供する花が現れ、植物界と昆虫世界は多様性を深めていった。そのような中で、次の4項の昆虫類は特に深い関係にあり、概要をまとめてみた。

 


1.チョウやガの仲間を鱗翅目(チョウ目)といい、羽や体が鱗粉に覆われていて、ストローのような長い管状の口が特徴で、卵・幼虫・蛹・成虫という完全変態をする。日本には約250種のチョウと約5000種の蛾が知られている。

 

1.昆虫で赤色を好むのはアゲハチョウ類である。アゲハは長いストローを伸ばして花から蜜を吸う。そのため花粉を体につけることなく蜜を吸うことができる。チョウは盗蜜家と悪口をいわれている。

 

2.モンシロチョウは、どんな色でも好きだというわけではない。田中肇先生の調査によれば白色・黄色・紫色・赤色の順番に訪問の率が高いことが報告されている。

 

3.夕方から咲き始めるカラスウリやテイカカズラは白い花を咲かせる。スズメガ類は夜間活動の中で良い香りに誘われて蜜を求めてやってくる。蜜を貯えた長い筒にストローのような口を持つスズメガ類に花粉を運ばせる。

 

   

2.カブトムシを代表とする体が堅いからに被われている昆虫は甲虫目といい、世界に37万種もいるといわれている。完全変態である。ハナムグリやハナカミキリなどのコガネムシタイプは白の花色が好み。夏になると現れる。

 

1.花粉媒介の昆虫の中で、最も古いのタイプの昆虫。地球の歴史上、最初に花粉を運ぶ役割を買って出たのがコガネムシの仲間。

 

2.コガネムシの食べ物は蜜ではなく花粉である。白い花は密が無いことも多い。ハチやアブのように巧みな飛行技術を持っているわけではない。白い花は上向きに平たく咲いてコガネムシが動きやすいように工夫している。

 

3.甲虫は飛ぶことが得意ではなく、着地するには大きくて上向きに咲いている花であることと、口が短いので花粉や蜜がすぐ食べられる花でないと都合が悪い。

 

3.ハチやアリの仲間は膜翅目といい、透明で丈夫な薄い羽をもっている。幼虫が植物の葉を食べるもの、他の虫に寄生するもの、花粉や蜜を集めて社会生活をするものなど、さまざまな生活のタイプに分けられる。

 

1.昆虫界で紫色を好むのはミツバチなどのハナバチの仲間である。女王バチを中心に家族を構成するハナバチは社会性昆虫といわれ、昆虫の中では進化したグループである。

 

2.アブのように節操なく飛びまわることもなく、目的の花を選んで飛んでいくことができる。マナーがあって、頭がよく、浮気することもなく同じ種類の花を識別して花粉を運んでくれる。家族を養わなければならないハナバチは働き者である。

 

3.ハナバチは体力があって遠くの花へ飛んでいく。そのため紫色の花は黄色の花のように群生することなく一つ一つが離れて咲くことが可能になった。

 

4.紫色の花は複雑な構造をしており、奥深い位置の蜜を吸うには勇気と能力を試されるようになっている。アブやコガネムシはバックすることが得意ではない。

 

5.入口を開く仕組みを理解する知力と花びらを押し下げることのできる体力を合わせ持つ虫だけが蜜を吸うことが許されるのである。

 

4.ハナアブ類やハエ類は双翅目(ハエ目)に分類される昆虫である。後ろ羽が退化して、平均こんというバランスをとるものに変化しているので、2枚の羽根のように見える。完全変態。黄色の花が好みのアブなどがこのタイプ。

 

1.ハナアブ類は鳥などに襲われないように黄色や黒の横縞をつけて擬態している。花に潜り込む習性がなく、花を押し開くこともできない。

 

2.ハナアブ類やハエ類を送粉者とする花は、白色が多く、上向きに咲く花で、着地しやすい平坦の花冠をし、蜜や花粉が露出し、すぐに食べられる、などの形態にある。

 

 
   
  V:可視光線・紫外線・赤外線は昆虫と人とでは差異がある

 

 昆虫の好きな色合いや、見える色合いの概要は上記のとおりであるが、ヒトが好きな花色は何色だろうか。統計的に調べたのが田中肇先生の著作の中に述べている。

 観賞用に栽培される花の色を調べた結果、「赤色」を好む人間の習性がわかった。人それぞれでしょうが、赤い花の傾向に誰でもが納得されると思われる。

 

1.人の眼で見える色合いは「七色」で、これを可視光線という。可視光線は波長の短い側から順番に青紫・紫・青緑・緑・黄緑・黄・橙・赤で、短波長側が360nm〜400nmで、長波長側が760nm〜830nmである。                       
2.この可視光線より波長の短いものを紫外線(10〜400nm)、長いものを赤外線(1mm〜700nm)という。蜂や蝶などの昆虫は人間と同じ色が見えるとは限らない。


3.ミツバチの色別実験の結果では、紫外線から可視光線の赤色を除く広範囲の色合いが識別できることがわかった。可視光線の黄色・橙色・青色・紫色は色として区別できるのである。

 

4.田中肇先生の著作品からたびたび要点を引用しているが、「学生版牧野日本植物図鑑」から野生植物の花の色は何色が多いのかを調査したものがある。

 

全1359種を対象に、野生の虫媒花型の花の色は、次の割合のようになった。
   白色=36.3% 黄色=20.4% 紫色=24.2% 赤色=7.4% 緑色=9.6% その他  =2.1%

 

5.昆虫はお好みの色があって、好きな花色に向かって飛んでいくことがわかった。モンシロチョウは緑色を除く他の4色には、ほぼ均等に飛びまわっている記録がある。

 

6.カラスアゲハは赤色がダントツに好きであり、黄色と紫色にはほとんど立ち寄ることがない。その他の昆虫が好きな花色は、田中肇先生の調査では次のとおりである。


・ニホンミツバチは緑色の花蜜が好きと見える。他の4色は次いで立ち寄る頻度にある。
・ハナアブは白色・黄色・赤色が好きなようで、紫色と緑色はややおちる。
・トラマルハナバチは、赤色・紫色が大好きで、黄色・白色・緑色の順に人気がない。
・コアオハナムグリは、白色が好きで、緑色・赤色と続くが、黄色と紫色には人気がない
 
   

【引用文献】


>樹木学   ピーター・トーマス著/築地書館

>身近な植物から花の進化を考える   小林正明著/東海大学出版会

>植物という不思議な生き方   蓮実香佑著/PHP

>新しい植物生命科学   矢原徹一著/講談社

>樹木社会学   渡辺定元著/東京大学出版会

>生物の進化と多様性   岩槻邦男著/放送大学教育振興会
>花の観察学入門   岡崎恵視ほか著/倍風館
>花と昆虫がつくる自然   田中肇著/保育社
>花と昆虫、不思議なだましあい発見記   田中 肇著/講談社

 

 
   
 
   
   
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