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植 物 談 義    第26話
 「深刻化する限界集落と森林の機能低下は一体的なもの」
解決の糸口をはやく・・・
   


 地球温暖化現象の影響の1つとして「気象異変」が現実味を帯びてきている。ノーベル賞作家・アル・ゴア著作「不都合な真実」の中で、異変の一つである「水事情の窮乏」を述べているが、日本の水田稲作は大丈夫なのか、自給率はこれでよいのかと、心配はつきない・・・。

 
   
 1.日本のコメ生産に必要な「水の量」は・・?

  約20程前「限界集落」という言葉さえ浮かんでこなかった。最近は限界のテンポが早まったような気がする。日本の稲作は集落単位に年間の作業計画を取り組み、併せて水管理も上流から下流へと順次平等の協同作業が行われてきた。

 

 このような集団的作業形態の集落が崩壊すると、当然放置された耕作地が目立つようになってくる。そこで一番問題になるのは「水系管理」である。水系の中間地点の水田に水流を呼び込むには「上下の水路管理」が必要であり、今まで数10人の協同作業でやってきたのに、抜けた分だけ残留組にその分の管理負担が増えてくることになる。

 

 問題はそれだけではない。雑草の繁茂・病害虫の温床・集団作業の停滞・など農業継続の壊滅的事象が現れ、ひいては隣接する里山や森林の放置分野が増える傾向は明らかである。

 

 ことに森林は、水系の一体的共有観および産物の共有意識や燃料・肥料などの採集場として、多面的機能を生活の場に十分に吸収しながら、村落は生き続けてきたところである。

 

 限界集落が増える毎にこれらの機能は置き去りにされ、耕作地と共に森林も放置されることに陥るのである。限界集落だけの問題ではなく、水系を同じくする森林まで影響が及ぶことを人は知らない。現に手入れ不足や放置された私有林が増えている。所有権が絡む土地であるため他人の手出しは遠のく。

 

 森林の働き手は、多くの場合「兼業農家」の労力に頼ってきた実績から、今後はますます厳しいものが予想される。悪循環的に間伐や手入れ不足に拍車がかかる。

 

 このような農村の現状から、ここで取り上げる問題点は、米作りに必要な水資源(森林)は、田植〜中干し〜刈り入れの約6ヶ月間に必要水量を確保することができるのかが主題である。

  

 「日本人はお米をどれくらい食べていたか・・本間俊朗著/山海堂」を参考にして『必要水量』を調べてみた。その前に奈良時代の反当たり収穫量について次のような貴重な資料がある。

 

奈良時代における1反当たり収穫量
上  田 8斗4升6合 102s
中  田 6斗7升7合 81
下  田 5斗0升8合 61
下 下 田 2斗5升4合 30
上中平均 7斗5升0合 90

 明治10年代の反当たり収量は約200sである。これから奈良時代の750年代は反収100s、さらに約500年遡った頃の反収は、単純比例計算で60s(5斗)以下と推計。

 

  明治・大正・昭和と経過する中で「農業技術の進歩」が図られ、今では収穫量「反収600s」はめずらしくない。稲作では相当量の水量を必要とするが、「奈良盆地の北和平坦地方・中和平坦地方」を対象にした調査資料がある。


1) 両地方の灌漑用水量・流域面積・年間降雨量・流出率・・などの資料から
   町歩当たり用水量=3億1千880万立方メートル÷2万1千町歩=15181立方メートル/町歩    

2) 反収600sの場合・・1518立方メートル÷600s=2.5立方メートル/s・・稲作に使用する水量
 
 
   
 2.森林の保水力はどのくらいか・・?

 

 稲作に必要な水量の全部を森林が賄うのではないにしても、溜池の貯水量・河川流出量の大半は森林を源流とすることから、森林の広がり(面積)を保持することが必要になってくる。

 

 森林に降った雨は、植樹をしていないハゲ山の場合、「蒸発する40%」「表面を流れる50%」で残りの10%しか地下水にはならない。

 森林状態の場合は、「蒸発する15%」「表面を流れる25%」「樹木の枝葉に留まる25%」「地下に浸透35%」のデーターから、森林の保水機能の偉大さは歴然としている。

 

 森林のことを「緑のダム」とも呼んでいるように、水源かん養機能や洪水緩和機能・水質浄化などの働きが、田畑の水量となり、ひいては周辺住民の生命財産を守っているのである。

 1. 例えば、帆柱自然公園の山麓で100fの稲作を耕作する場合

 必要な水量「2.5/s」 を確保するには、必須「森林面積」の広さを概括的に試みてみた。

 前田地区上流の流域面積=約1000ヘクタール 年間降雨量=1800o ; 流出率=0.35
河川総流出量=1000×1800×0.35=63万  ..年間の流出量である。

従って、灌漑期間中にその40%が流出すると想定すると[×0.4=252千梶n

252千梶稲作面積100ヘクタール=2520梶^ヘクタール

 
. 2. 反収600sの場合


  反当たり252梶600=0.42梶^s・・使用できる水量

 必要な水量を確保するには、約6倍の森林流域面積の広がりがないと100ヘクタールの水田を賄うことはできない。これで森林との係わりの奥深さが理解できたのでは・・・?

 
   
 3.限界集落と森林との一体的維持こそ、日本の自然を救う道だ・・

 森林は木材生産機能のほかに水源かん養、土砂流出の防止、二酸化炭素吸収など、いろんな公益的な働きを日々行っている。これらの機能を平成18年度の「林業白書」から引用すると、「森林のもつ多面的機能と貨幣評価・・合計=75兆円」を発表している。

 また、農用地の機能評価については、渡部忠世著「農は万年、亀のごとし」から引用すると、森林評価額の約半額の「37兆円」に相当する。これらの機能を合計すると、「112兆円」という膨大な働きをしていることを深く認識すべきである。

 

限界集落を助長するような「農村の切り捨て、引いては食糧自給率の低下、農地の放置化、水系管理の低下」など、自然環境の破壊につながる政策は避けるべきである。

 

(2006年4月現在の限界集落は、国土交通省調べによると全国に7878集落、この内九州地方に1635集落、中国地方2270、四国地方1357集落と全体の67%を占める)

 

 今後、コメの増産体制をとらなければならない事態に立ち至ったとき、放置された水田は「耕作できるようになるには、相当の時間・労力・資本か必要になる。」のであって、まずは、無理な復旧作業を取り組まなければならない。

 

 また、水系は支離滅裂になっていると推測し、完全復旧には「土木工事」の手助けが不可欠になる。いずれにしても、近い将来を見据えたとき、「食糧事情」の好転は望み薄であり、よって「農村・森林」を守ることこそ先取課題である。

 
   
 4.ヒマラヤ氷河が急速に溶けている・・水系に頼る人々の生活は・・・

 アル・ゴア著作「不都合な真実」の中で述べていることは、次のようなことが集約できる。 
「チベット平原にあるヒマラヤ氷河は、温暖化の影響を最も受けている氷河の1つである。この平原を源流とする7つの河川系は、インダス川・メコン川などは西周りの流域を流れ、黄河・長江などは東周りの流域を下り、一国内に限らず数カ国を通過する長大な河川として、世界の人口の約40%が飲み水の半分以上をここから得ている。(7河川系は、下記のとおり集約。)

 

 早い機会に世界が思い切った温暖化防止を始めないことには「氷河」は毎年溶解し、氷壁が年々後退する様子は現実のものとして痛感せざるをえないのである。

 

 このまま温暖化が進行すれば、今後50年のうちに26億人もの人々が、深刻な飲み水不足に直面する恐れがあると言われている。

 

 国連の「気候変動に関する政府間パネル・IPCC」や、アルピニスト・野口建さんも氷河融解による増水のため、氷河湖決壊の危険箇所(200箇所)を指摘している。

 

 また、最近の新聞情報によるとこんな深刻な状況も生じていることを身近に受け入れなければならない。

 

1)11月28日の掲載記事によると「国連開発計画(UNDP)は、07年版の人間開発報告書を発表し、地球温暖化がもたらす干ばつや気温上昇、降雨の不順による農業システムの崩壊で、アフリカ大陸南部を中心に最大6億人が栄養失調になるおそれを指摘。また、洪水や台風で最大3億3千万人が移住する可能性があるとしている。

 

 このため今世紀の平均気温上昇を2度以内に押さえるべきだと提言。先進国に温室効果ガス排出量の大幅削減や途上国への資金援助を求めた。

 

2)世界には食糧不足で苦しんでいる地域がたくさんあるが、飢餓地域で食糧援助を実施しているのが「国連世界食糧計画」(WFP・本部ローマ) WFPによると、アフリカなどの国々で約8億5千万人が栄養不足の状態。こうした状態が 続くと、体や脳の発達に影響を与えるだけでなく、病気にかかりやすく、治りにくくなる。

 

 このため毎日2万5千人が飢えで亡くなっているという。深刻なのは子ども達で、およそ5秒に1人の割合で5歳未満の子どもが命を落としている。干ばつや洪水、紛争などによるものが飢餓の主な原因だと述べている。

 このようなことがらは、地球温暖化が進むにつれて問題はさらに劣悪な情況に立ち至ることは明らかであるとして、世界規模での対応を呼びかけているところである。

 
   
 5. 7河川系に住む関係8カ国の水問題

  ヒマラヤ山脈・カラコルム山脈などの氷河及びチベット高原や草原地帯を源流とするこれらの7河川は、途中は温帯林・照葉樹林などの森林地帯を通過しながら、雪解け水と合流し、途中は農業用水や生活用水、あるいは工業用水に利用され、排水されながら河口へ下っていく。
 
ヒマラヤ山脈の南北を源流とする7河川の主要国・流域面積・河川長
河川名 近隣都市と河口 流域面積 流域面積
インダス川 バキスタン(カラチ`アラビア海) 960: 2900:
ガンジス川 インド (コルカタ`ベンガル湾) 840: 2506:
プラフマブトラ川 パングラデシュ(クルナ`ベンガル湾)   2900:
サルウィン川 ミャンマー(タトン`アンダマン海)   2400:
メコン川 ベトナム(カントーー`南シナ海) 800: 4023:
長江(揚子江) 中  国(上海`東シナ海) 1175: 6300:
黄  河 中  国(東営`渤海) 980: 5464:
信 濃 川(参考) 日  本(高田`日本海) 12: 367:
(単位;流域面積=1000キロ平方メートル:長さ=q)

1) それぞれの河川は、大量の水資源を保持しながら彷彿と河口に向かっていくが、数カ国を通過する国際河川は国籍のない資源として「上流域」の権限が強く発揮される様子にある。

 

2) タイとミャンマーの両国を通るサルウィン川では、2国間でダム建設の計画がある。さらに上流の中国雲南省ではダム計画を一時的に中断している。など、堰き止めるダム建設は下流域にとっては生活を脅かすなにものでもない。

 

3) メコン川は7カ国に跨る典型的な国際河川である。雨季や乾季の水量に左右されない船舶の運行は、堆積土砂の竣泄計画にあるとして関係国で協議するも進展していない。

 

4) 水資源の利用開発計画は各国の思惑が入り交じり、各国とも事情は同じ方向にある。『人口増加〜食糧増産〜農業拡大〜森林伐採〜渇水対策〜乾燥地化』の土地循環は、『水資源』 の確保なくしては転用は困難であり、今世紀の課題は各国とも「水確保」が焦点であり、国益と国権の発動が懸念される。

 

5) 各河川の事情

★インダス川  国境を越えて中国チベット自治区に源流を発し、ヒマラヤ山脈・カラコラム山脈の水源を含めてバキスタン最大の河川。カラチ付近からアラビア海を河口とする。
( 960千ku : 2900q)

 

★ガンジス川  ヒマラヤ山脈の南麓ガンゴートリー氷河を水源。プラマブトラ川と合流し、下流域では呼び名がフグリー川にかわる。コルカタ付近からベンガル湾に注ぐ。
( 840千ku : 2506q)

★プラマブトラ川  エベレストの北側でチベット高原南部に端を発して東に流下し、ヒマラヤ山脈の東端を回ってブータンの南部を下る。パングラデシュでカンジス川分流と合流。ダッカを通って河口では世界最大の三角州を形成。ベンガル湾を河口とするガンジス河口と接近。        
(??千ku : 2900q)

 

★サルウィン川  チベットを源流とし、中国雲南省を通ってミャンマー北東部を流れ、タイ (タンルウィン川)との国境を成しながらモウラミャイン近くからアンダマン海に注ぐ。メコン川と源流域を同じくする両河川は、上流でほぼ並行しながら南へ下る。
(??千ku : 2400q)

 

★メコン川  チベット高原に源流を発し、中国雲南省・ミャンマー・ラオス国境線・タイ・カンボジア・ベトナムを流下する典型的な国際河川の一つ。カントー付近から南シナ海へ注ぐ。
( 800千ku : 4023q)

 

★長江(揚子江)  チベット高原を水源地域とし、成都・武漢・重慶などの重要工業都市、上海・南京などの商業都市を流れる。古くから水上交通路として利用されてきた。下流部では揚子江と呼ばれる。上海から東シナ海へ流れる。中国で最長の川、世界第三位。
( 1175千ku : 6300q)

 

★黄河  中国青海省を水源とし、黄土高原を通り多くの支流が流入するため、大量の黄土を含む。年間16億屯の土砂を流送し、河口の渤海湾には広大なデルタ地帯を形成。
( 980千ku : 5464q)

 

★信濃川(参考)  新潟県で信濃川、長野県で千曲川と呼ばれ、日本で一番長い川。島崎藤村の詩歌に歌われ、また川中島古戦場など歴史的な名所も多い。高田を通り日本海へ流れ込む。
( 12千ku : 367q)

 

 

(文責:田代 誠一)

 
   
   

【参考引用文献】


・日本人はお米をどのくらい食べていたか  本間俊朗著/山海堂
・農は万年、亀のごとし  渡部忠世著/小学館
・平成18年度  林業白書
・不都合な真実  アル・ゴア著/ランダムハウス講談社

 

 
   
 
   
   
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